1−3
受付で契約成立の旨を伝えたユウヒは商業ギルドの裏口に向かう。
ギルドの裏側には馬小屋や倉庫が並んでおり、馬を調達するためには自然な行為だ。
だが、ユウヒは馬小屋を通過して、野菜が一時保管されている倉庫に向う。
倉庫横で野菜を数えていた、顔見知りと思われる商人にユウヒが声をかけた。
「おじさん、野菜くださいな」
「お、アリスの分か?」
「ううん。ヒポの分」
商人の顔が凍りつく。
後ろに青年がついてきているのに気づくと商人は青年に声をかけた。
「にいちゃん、兎に依頼したのか?」
「は、はい」
「悪いことは言わねえ、やめておいた方がいいぞ」
「え、ええ?」
警告する商人。
困惑する青年。
プスプスと鼻息を鳴らす兎。
三者を見ながらユウヒが商人に言う。
「妹さんがゴブリンに捕まりそうで、急がないと危ない。ヒポで行くのが一番だよ」
「……そうか、それなら仕方ねえな。果物はいるか?」
「うーん、運ぶものが人だから野菜でいいかな」
「そうだな、野菜がいいな」
「お願い」
「そこのキャベツだったらいつもの値段でいいぞ」
「あ、じゃあそれでいいや。ギルドに支払いはつけておいて」
「了解」
青年がなんの話をしているかついていけない間に、ユウヒと商人の話はついたらしい。
怪訝な表情をしている青年に構わずキャベツの前に立つユウヒ。目をつむり呪文を唱える。
『召喚:突撃河馬』
地面に魔法陣が展開される。
その様子を見て青年は思わず呟く。
「召喚士だったのか」
召喚士。
幻獣と呼ばれる生物を召喚する魔法を操る魔法使い。
竜やフェンリルなど神話級の幻獣を操る召喚士もいると噂される半ば都市伝説の魔法使いだ。
召喚魔法を初めて見る青年が期待の眼差しで展開された輝く魔方陣を見つめる。
その中から体長5mほどの幻獣が姿を現した。
「……カバ?」
しかし、青年は首を傾げながらその姿を見ることになった。
そこに召喚されたのは紛れもないカバであり、カバにしか見えない。
召喚されたカバにユウヒが声をかける。
「ほい、ヒポ。よろしくね。これ食べて」
口を開けるカバに片っ端からキャベツを投げ入れるユウヒ。
カバが嬉しそうにキャベツをむさぼり食べる。
ぽい。ばくん。もしゃ。
ぽい。ばくん。もしゃ。
ぽい。ばくん。もしゃ。
青年が恐る恐る声をかける。
「あの、ユウヒ?なんでカバの餌やりを?」
「燃料みたいなもんなんだ。もうちょっとでヒポが満足するから待ってね」
ぽいばくんもしゃぽいばくんもしゃ。
ぽいばくんもしゃぽいばくんもしゃ。
それからもそこそこ大量にキャベツを与えると、カバは口を開けずに体のあちこちから湯気を噴き出した。
「お腹いっぱいになったね。よいしょっと」
その様子を見てユウヒはカバに飛び乗る。
カバには既に鞍がついていてユウヒはそこに座った。
「それじゃあお兄さん、乗って」
「乗っていいのか?」
手を差し出すユウヒ。
「もちろん。妹さんかどうかボクじゃわからないから」
「わかった、ありがとう!」
感謝の意を述べて後ろに乗る青年。
「そしたらこの紐で体をしっかり固定してね。あと手すりからは手を離さないようにね」
「え?」
理解できない青年に、先ほどの商人が声をかけた。
「俺が手伝ってやるよ。妹さんと会えたら帰りはにいちゃんがやってやるんだぞ」
「おじさん、ありがとう」
展開についていけず黙っている青年に代わり、礼を言うユウヒ。
それに応えることなく、商人は悲痛な表情でテキパキと命綱で固定して青年に告げた。
「達者でな。にいちゃんと妹さんの無事を祈ってるよ」
「え?」
そんなやりとりの中、ユウヒが声を上げる。
「よし、準備完了。ヒポ、ゴー!」
カバが走り出した。
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