1−5
「はっ」
「お兄さん、気がついた?」
「俺は、確か、カバで、跳ねて」
気付け薬草で目が覚めた青年だが、まだ意識がはっきりとしない。
しっかりしろ、とでも言いたげに鞄から外に出ている兎がプスプス鼻息を立てながら鼻をぶつけている。
その様子を見ながら、ユウヒはカバの上で何やら準備をしていた。
ユウヒは今なお混乱している青年に話しかける。
「妹さんがいるのはあの山小屋であってる?」
この言葉で意識覚醒し、自分の目的を思い出した青年。
体を起こして山小屋を見る。
「ああ、間違いない!救難用に持たせた色煙粉を使ってる」
「結界石も使ってるみたいですね、これなら大丈夫かな」
「間に合ってよかった。けど」
そこまできて青年は山小屋の様子を改めて見て気づく。
「やっぱりまだゴブリンがいるな。結界が時々弾いている」
結界石は建物に結界を作ることができる魔法石だ。
作られた結界は攻撃を大きな音と光を発して弾く。
先ほどから山小屋の周りでは攻撃されていると思われる光が見えていた。
しかし、道中の破壊的な走りを体感した青年は楽天的に捉えていた。
「まあ、このカバがいればゴブリンなんて楽勝かな?」
「ヒポは戦えないよ」
「ん?だってこいつクラッシュヒポポタマスだろ?グリフォンだって弾き飛ばすっていう」
クラッシュヒポポタマス、別名突撃河馬。
陸上での生活、中でも走ることに特化して進化した河馬である。
魔力をまとって時速60km程度で走り回り、馬車や他の魔物とぶつかって弾きとばすことからこの名が付いた。
ただ、性格は臆病で食いしん坊とも言われている。
「この子は走るだけ。それに刃物とかで切られたら普通に怪我しちゃう」
「そうなのか、じゃあどうするんだ」
「私も運び屋だから。荷物を取りに行くだけだよ」
「いや、やり方を聞いているんだが」
妹の命がかかっている。
慎重になるのは責められないところだが、ユウヒは面倒臭そうに説明した。
「まずヒポで山小屋に行く」
「ん?おう」
「入り口で妹さんを呼んで。お兄さんが中に入ってもいい」
「お、おう」
「40秒入り口で待つので、その間に連れてきて」
「40秒?」
「支度するのは40秒って決まってる。妹さんとお兄さんを両方乗せたらヒポで離脱する」
「おう」
「以上」
言い終えたとばかりのユウヒ。兎も横で鼻を鳴らす。
「以上か」
「以上」
わかったようなわからんような気持ちで確認する青年に対して、再度宣言するユウヒ。
兎も横で耳を震わせている。
青年はいろいろな言葉を無理矢理飲み込んで、ユウヒに確認した。
「わかった、じゃあいつやるんだ?」
「お兄さんの心の準備ができたらいつでも」
「俺次第か。じゃあ大丈夫だ。すぐにでもやってくれ」
「了解。それじゃあ行こうか」
ユウヒは先ほど準備していたと思われる魔石を数個手に取った。
魔石とは魔力を宿した石で、簡単な魔法を込めることができる。
発動すると石が割れる使い切りのアイテムだが、呪文も要らず魔法発動までが短いので魔法使いに人気のアイテムだ。
石を取るとユウヒはカバ上で山小屋をまっすぐ見据える。
そして、指示を出した。
「とっつげきー!いけ、ヒポ!」
カバは指示に従い山小屋に向かって直進する。
と、同時にユウヒは前方に向かって魔石を投げた。
パリン、と石が割れる音がした直後大量の煙が発生する。
煙に驚いゴブリンが獣と入り混じって外に逃げ出していく。
ユウヒはその様子に構うことなく、手当たり次第に石を投げる。
パリン、ぼふっ、パリン、ぼふっ。
山小屋がもはや目視できないくらいにあたり一面が煙だらけになるが、ユウヒは迷わず直進する。
煙にも燻されてスモークポップコーン状態の青年には長く感じたが、すぐに山小屋に到達した。
「集荷場所に着いたよ。お兄さん、40秒で支度してね」
「そ、そうだった」
青年はふらふらで40秒の意味はわからないが、急がないといけないのは間違いない。
煙幕は短期的には有効だが、時間と共に薄くなってしまう。
山小屋のドアをノックして妹に叫ぶ。
「おい、助けに来たぞ!すぐに出てきてくれ!」
「お兄ちゃん!?本当に!?」
ドアが開き、駆け出す妹は兄の腕に飛び込んだ。
「間に合わないかと思った」
「助けに来てくれると信じてた、お兄ちゃん」
感動的な再会のシーンにユウヒが告げる。
「あと15秒で出発するよ。急いで乗ってね」
「そうか!」
「え?」
怪訝な表情をする妹を抱き抱えて急いでカバに乗る青年。
「しっかり掴まれ!そしてしゃべるな!」
「はい?」
青年が妹を抱き抱えながらもしっかりと手すりを握り、今一よくわかってない妹も手すりを掴んだのをユウヒが確認した。
「集荷完了!じゃあ、目的地まで配送するね。ヒポ、ゴー!」
カバはすぐにトップスピードとなる。
来た道を帰るように爆走を開始した。
「何これえ!」
「しゃべるな!」
「落ちないでねー」
「ぐぎゃっ」
途中煙幕で混乱するゴブリンを跳ねながら帰路についたのであった。
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