第47話 赤文字と姫とRPGのアレ
短いですけど、切りどころが難しかったので……
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「結論から言うと、この薬は宇宙のものでも、この星のものでもない」
姫はそう言いながら、赤い薬瓶をチャポチャポと揺らした。
「え? それってどういう事?」
「たぶんだけど、これはトンボたちが異世界って呼んでるところからきた物って事」
彼女がテレビを指差すと、画面が映ってデータが表示される。
「これ見て。解析結果なんだけど、ほとんど何にもわからないって出てるでしょ?」
たしかに、成分と書かれた欄の下には『解析不能』という赤文字がズラッと並んでいる。
解析できているものは水やアルコールぐらいのものだ。
「成分どころか瓶の素材すらわかってないでしょ? あたしたちの宇宙や、きちんとデータを入れてあるこの星から来たものなら、こんなにも何から何までわからないって事はありえないわけ」
「異世界の物かぁ……じゃあ薬の使い道も、異世界人に聞いてみないとわからないんだなぁ」
「それはそうなんだけど、そういう問題じゃなくて……」
姫は右掌で頭を押さえながらそう言い、俺の鼻先に指を突きつけながら言葉を続けた。
「今大事なのは、トンボの異能が変化してるって事。これまで繋がってたうちの銀河だけじゃなくて……異世界っていう、今まで繋がらなかった
たしかに、そう言われればそうだ。
俺のスキルはただ遠くの宇宙と繋がってるってだけじゃなく、まだその先があったって事か。
「でも、なんでだろ……? でっかい蛇を倒したからレベルアップして接続先が増えたとかかな?」
「何かを殺したからって、
三人分のお茶を入れてくれていたマーズはそう言ってから、首筋に手を当てて天井を見上げながら首を傾けた。
「あ、でももしかしてだけど……こないだダンジョンから異世界に抜けちゃったから、とかじゃないかな? それで、あの異世界のマーケットスキルの持ち主とパスが繋がっちゃったとか?」
「ええ? じゃあダンジョン抜けて、異世界に行くたびに取引先が増えるかもって事?」
「かもしれないけど、もしそうだとしても検証は難しいよね。トンボの
彼は小さな肩をちょっとすくめて、こたつの上の菓子籠から取った煎餅の袋をパリッと開けた。
たしかに、もし別の異世界から別のポーションが交換されてきたとしても、それを判別するのは正直無理だと思う。
「まーちゃんの言う通りさ、それは今は考えてもしょうがない事だと思う。問題はね、それがいい変化なのか、悪い変化なのかって事」
姫はそう言って、俺に赤い瓶を手渡した。
「え? いい事なんじゃないの?」
「ジャンクヤードは売る相手を選べないわけっしょ? トンボ、使い道もわかんない薬いっぱい持っててどうすんの?」
「あ……」
俺は手元にある瓶を見つめながら、固まってしまった。
たしかに、俺は今この薬を作っているリーヤー氏に、りんごを持っていかれているだけの状態だ。
今のところ異世界からジャンクヤードにアクセスしてきてるのはリーヤー氏以外にいないようだし、銀河側の商人たちだって使い道のわからない薬は交換しないだろう。
とはいえ、まさか人体実験をするわけにもいかないしな……
「たしかに、手放しに『いい』とは言い切れないかも……」
「りんごぐらいならいいんだけどさ。うちらの銀河からいいもの入ってきた時に、横から持ってかれちゃう可能性もあるわけよ」
「たしかになぁ……」
「あと、薬ぐらいなら最悪死蔵しときゃいいけどさ。変なもん送られてきたら困るっしょ?」
「変なもんって言ってもなぁ……」
ジャンクヤードに交換されてくるものは、俺から見ればだいたい変なものだ。
そんな事を考えながら、俺は赤い薬瓶をしまうためにジャンクヤードを開いた。
「えっ!?」
「何?」
「宝箱だ……」
そう、宝箱だ。
開いたジャンクヤードの中にあったのは……
いかにもファンタジー系RPGに出てきそうな、赤と金で彩られた大きな宝箱だった。
「ジャンクヤードに宝箱が入ってる! ほんとにあったんだ! こういう宝箱って!」
「トンボ、変なものっていうのは……そーゆーもの」
一気に少年に立ち戻って騒ぐ俺の胸を、冷静沈着な姫の人差し指がトントンとつついたのだった。
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