第60話 私の息子 ※七沢美紀視点
まさか、1人目で男の子を授かるなんて予想していなかった。
子育ての事なんて何も分からなくて、特に男の子の育て方なんて知らない。今まで生きてきた中で、夫以外の男性と関わることが一切なかったから。男性に関しては、参考にできるような知識が少なすぎる。男の子の母親になったら、どうしていいのか分からない。
不安だった。ちゃんと母親として出来るかどうか、自信がなかった。せめて何人か女の子を出産して、子育ての経験を積んでから臨みたかった。
お腹の赤ちゃんの性別が男の子だと判明してからは、すぐに育児するための準備を始めた。子育てのための用品を買い集めたり、子育て経験のある人達に話を聞いて。そうやって色々と準備を進めていた。けれど、それでも不安は拭いきれない。
私の知り合いで、男の子を出産した経験があるのは1人だけしか居なかった。その人に、男の子の育て方に関する話を聞いてみた。
女の子と比べて、男の子は繊細で気まぐれで、意欲を把握するのが難しかったり、反抗期や思春期なども大変らしい。
話を聞いてみた結果、実際にやってみないと分からないというような結論しか出てこなかった。どんなに経験があっても、難しいものは難しいらしい。実体験が少ないので、どれが正解なのかも判断できない。
そもそも、1人目で男の子を授かったというのが非常に珍しいことだった。参考にできそうな情報が少ないので、手探りでやっていくしかない。
そんな不安を抱えながら、出産の時を迎えた。そして無事、男の子が生まれた。
生まれた瞬間は、とても感動した。この時は、男の子とか女の子とか関係なくて、ただ無事に自分の子供が生まれてきてくれたことが嬉しかった。
私の子になってくれて、生まれてきてくれて本当にありがとう。これからよろしくね。心の中でそう呟いて、生まれたばかりの我が子を抱きしめた。
3日後には私の体は回復して、退院できるようになった。しかし、赤ん坊のほうはまだ入院が続く。男の子なので、綿密な検査や様々なケアが行われて生後2週間ほど経過するまでは、病院で過ごすことになった。
女の子の場合だと、母親と一緒に退院することが多いらしいけれど。
毎日必ず病院に通って、直人の様子を見ていた。そして、どんどん不安が膨らんでいった。
どうやら息子の直人は、他の男の子に比べて元気のようだ。体調も良くて、体重も増えているし健康状態も良いらしい。これからの成長に何の不安もなかった。それはとても嬉しい。健康に育ってくれることが、何よりも大事。
だからこそ、私の育て方が重要になってくる。このまま順調に育ってくれればいいのだけれど、もしも失敗してしまったら私の責任は大きい。
プレッシャーだった。直人の育児を失敗しないように、とにかく私は気をつけた。
しかし、予想に反して子育ては非常に順調だった。私の育児が上手かったわけじゃない。とにかく直人が、手のかからない良い子だったからだ。
ちゃんと言うことを聞いて、トラブルも起こさない。他の子とすぐに仲良くなって争ったりしない。私は見守っているだけで、直人はすくすく育っていった。私が手を焼くようなことを、直人は全くしなかった。
育児の経験がない私でも分かるぐらい、親にとって理想的な子供。手がかからなさ過ぎて、少し寂しいくらい。
それが、正しかったのか分からない。だけど、ちゃんとした男に育ってくれたのは間違いないだろう。魅力的で、賢くて、優しい子に育ったと思う。
ちょっとだけ気になることもある。普段からスキンシップが過剰で、小さい頃から女性に興味津々だった。それは、母親である私に対しても。そういう時だけ、直人はワガママを言ったりする。愛情表現としてそうしてくれることは嬉しい。息子からの愛情を感じることができるから。だけど、男性とのふれあいを今まで経験していない私には、刺激が強すぎた。
悪いことじゃない。世間とは少し違うのは分かっていた。だけど、何も言わない。私が口出しすると、良くないと思っていたから。口出しする必要もないし、今のままで良かったから。
あっという間に直人は育って、学校にちゃんと通って、仕事も始めて。おそらく、もう彼1人でも自立して生活していけるだろう。
仲良くなった女性に支援してもらって、何もしないで悠々自適な生活を送ることも出来ると思う。夫のように。
でも、まだ直人は私と一緒に暮らしてくれている。この生活が、いつまで続くのか分からない。いつまでも続いてほしいと、私は思っていた。この先、どうなるのか。それは彼の気持ち次第。私は、今までと同じように静かに見守るだけ。
家を出ていくと言われる日が来るのを、覚悟して備えていた。もうちょっとだけ、たった一人しかいない私の子である直人と2人だけの生活を楽しんでいたい。
【未完】男女比の狂った世界で愛を振りまく キョウキョウ @kyoukyou
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