第12話 願望と現実 ※市本花怜視点

 男の人と恋愛をしたい。そんな、夢が私にあった。自分の夢を叶えるために私は、学生の頃から死ぬ気で勉強して医者になった。そして一生懸命に仕事をして、地位と名誉と財産を手に入れた。


 これだけあれば、夢も叶うはずだ。良い男性と巡り合って、楽しい恋愛ができる。そう思っていた。


 けれど、現実はそんなに甘くはなかった。今までの人生で、一切モテることはなく今まで来てしまった。


 何度か、男性患者の手術を担当したこともある。しかし、それでも恋愛に発展する機会は皆無。患者からは、異性として見られていないようだった。それは、仕方ないことなのかもしれないけれど。


 職場では出会いなんてない。プライベートでも男性と出会うことは出来なかった。仕事も忙しいので、さらに出会う機会を失い続けてきたのだろうと思う。


 恋愛するような関係を築くことは出来なかったし、せっかく地位と財産を手に入れたというのに、夢を叶えることは不可能だと感じていた。


 普段どおりに過ごし続けたら、このまま死ぬまで出会うことなど出来ないだろう。そう考えた私は、公共サービスを利用することにした。


 施設の職員との面談を何度か繰り返して、条件とステータスをアピールしていく。


「市本さんと同じぐらいの年頃で仲良くしてくれるような相手を求めている、ということですか」

「はい。できれば、その条件に合うような相手を紹介していただけると」


 ここには、数多くの男性が登録しているらしい。それなら、条件に合うような男の人も居るかもしれない。最初の頃は、少しだけ希望があった。


 私の求める条件を聞いた職員の表情は、とても険しかった。やはり、難しいということだろうか。職員の反応を見て、私は察してしまった。


「市本さんのプロフィールを確認しましたが、年齢や職業などは特に問題ありませんでした。しかし、この条件で探すとなると……」


 ううっ。やはり、キツイ。色々と指摘されて、正直落ち込んでしまった。こんなに厳しいとは思っていなかった。やはり、男性との出会いは難しいのか。親しくなろうとするのは、夢のまた夢のような話だというのか。


 職員のアドバイスを聞いて、条件を変えたり緩くしたり、とにかく出会うことから優先していく。何人か男性を紹介してもらって、子作りに挑戦してみた。その後に、どうにかして親しくなろうと努力したのだが、全く上手くいかない。


 紹介してもらった男性は、全員が義務的に接してくるだけ。仲良くなるようなチャンスなんて、全くない。


「本日は、よろしくお願いします」

「えっと、はい。よろしくお願いします」


 施設の一部屋で簡単な挨拶をした後、行為を始める。数十分ほどで終わる。とても単調で、あっさりとしたものだった。


「お疲れ様でした」


 そう言って、すぐに部屋から出ていく彼。それで終わり。こんなの、仲良くなるなんて不可能。


 やっぱり、男性と恋愛して、デートをして、一緒に食事を楽しんで、イチャイチャするなんて夢は叶わないのだろうか。諦めるしかないのか。


 夢を諦めて、子供を作る。これからは、子育てと仕事に集中する。もしかすると、男の子が生まれてきてくれるかもしれない。そんなことを考えていた。


 そんなときに紹介されたのが、彼だった。


「七沢直人さん、ですか……?」

「はい! 彼なら、市本さんの希望を満たしてくれますよ!」


 職員から紹介されたのは、私よりもずいぶんと年下の若い男の子だった。


「でも、こんなに若い子だと私のような年上は嫌がるんじゃありませんか? 彼は、まだ学生でしょう? いくらなんでも無理ですよね?」


 プロフィールの年齢が本当なのであれば、まだ彼は学生という年頃だ。特に女性に対して拒否反応が強い歳だということを知っている。だから今まで、優先的に条件から外してきた年下の男性。絶対に無理だろうなと思っていたから。それを、職員から猛プッシュされる。


「大丈夫ですよ。彼は女性に対して非常に優しい人なので。それに、年齢差とか気にしませんから安心してください」

「本当に、そうなんですか?」

「大丈夫です。きっと、満足していただけるかと思います」


 自信満々に言い切る職員。そこまで言うのであれば、挑戦だけはしてみようかな。今までの経験から、あまり期待はできない。これで駄目なら、きっぱり諦められそうだ。そう思って、思い切って紹介してもらうことにした。


 これが最後になるだろう。私は、そう思っていた。

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