第13話 緊張の初対面から ※市本花怜視点
職員と事前の打ち合わせを繰り返して、ようやく約束の日となった。
私は、今日のために新しく買った服を着て身だしなみを完璧に整えてから挑んだ。話によると、二人で遊びに出かけたいらしい。向こう側からの要望だと聞かされた。むしろ、私にとっては好都合。それって、まるでデートじゃないのか。そう思って、私は期待していた。
そんなはずない、という悪い可能性についても色々と考えていたけれど。とにかく、会ってみないと分からない。
今までに何度か繰り返してきた、子作りのための男性との出会い。慣れてきたかなと思っていたが、全然慣れていない。むしろ、今回は特に緊張している。
今までと違う流れ。もし、顔を合わせてみて嫌だと言われたとしたら。二人で遊びに出かけるのを、断られてしまったら。そんな最悪な展開もありえる。そうなってしまったら、私はショックで立ち直れそうにない。
このまま、会わなんで帰ってしまおうか。そんなことまで考えてしまう。でも、ここまで来てしまったら会わずに帰るなんて、相手に失礼すぎる。せっかく用意をしてくれた、職員たちにも迷惑をかけてしまうだろう。だから、帰るわけにはいかない。
「はぁ……」
思わず、ため息が出る。憂鬱だった。後悔がすごい。
でも、やるしかないだろう。私は気合を入れて、約束している施設の部屋まで足を運ぶ。
約束していた時間の5分前。相手は、もうすでに来ているようだった。慌てて部屋の扉を開けて、中に入った。遅れたわけじゃないけれど、申し訳なく思う。
「はじめまして、七沢直人です」
「あ、あの。はじめまして、
待たせてしまったことを謝る前に、彼が丁寧に挨拶をしてくれた。そして、とても優しそうな笑顔だった。
その一瞬で、今まで出会ってきた男性とは違うんだと感じていた。無愛想な態度が当たり前の男性ばかり見てきたからだろうか。彼の表情や態度を見て、私は感動していた。
こんな、素敵な男の子が居るなんて。もしかして、夢を見ているのか。それほどの衝撃があった。帰らなくてよかった。気合を入れて、ここまで足を運んできて良かったと思った。彼と言葉を交わせただけで、とても満足だ。
でも、これからどうしよう。
「花怜さん、ですね。よろしくお願いします」
「は、はい……」
ジロジロと見すぎてしまったかもしれない。返事も上手くできずに、変だと思われてしまったかもしれない。うわ、最悪だ。嫌われてしまったかも。女性の些細な反応で、男性は嫌悪感を抱くらしい。特に初対面のときには、気をつけないといけない。
それなのに、私は……。失敗してしまったかも。どうしよう、どうしよう。
「まずは座りましょうか」
「あ、はい!」
落ち込んでしまいそうになる私を、彼は優しく気遣ってくれた。こんなに優しくしてくれる相手に、落ち込んでいる姿を見せるわけにはいかない。落ち込んだら、だめだ。自分を奮い立たせて、言われた通り席に座った。
落ち着かないと。ちゃんと会話して、関係を深めていきたい。今日のために色々と調べてきた。男性に関する様々な文献を読み漁って、思春期の男の子について学んできた。この知識を活かして、どうにか彼と仲良くなりたい。
それが、私の今日の目標。
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