第3話 通学路で趣味の話

「麻利恵にオススメしてもらった映画、昨日の晩に見たよ」

「どうだった?」


 二人で並んで駅に向かって歩きながら、僕たちは楽しく会話する。彼女にオススメしてもらった映画を見たと報告すると、麻利恵は嬉しそうに感想を聞いてきた。


 麻利恵の趣味は映画鑑賞。僕は、彼女から色々な映画を教えてもらっていた。そして、実際に見てみた感想を話し合うことがよくあった。


 教えてもらった映画は、かなり厳選しているようで、どれもハズレがなく面白い。昨日見た映画も非常に面白くて、早く麻利恵と感想を語り合いたいと思っていた。


「アクションのシーンが凄くて面白かった。ちょっと古い映画だったみたいだけど、最新の映像と比べても遜色ないぐらい迫力があったなぁ」

「でしょ! あの監督の作品は、どれもアクションに定評があるんだよね。CGとかワイヤーアクション、スタントマンも無しのガチアクションが魅力的なの」

「そうなんだ。あのシーンも、ワイヤーアクションを使っていなかったんだね」

「そうなの! 特にあのシーンは、何度も撮影し直して予算がオーバーしたって話があるのよ」

「なるほど。だから、あれ程の迫力が出せたんだね」

「他にも、あの映画には裏話があって――」

「へぇ。面白いね」

「それから、あとは――」


 どんどんヒートアップしていく麻利恵の話を、僕は楽しく聞いていた。とても面白くて、聞いているだけで興味が湧いてくる。彼女の映画に対する熱量を感じて、僕は思わず笑みを浮かべてしまう。楽しい時間だった。


「そ、それでね!」

「ん?」

「その監督の最新作が今、公開していて」

「なるほど、いいね。一緒に見に行こうか」

「ッ! ウン!」


 麻利恵の望みを察知して、一緒にその映画を見に行こうと誘う。彼女は嬉しそうにコクコクと首を縦に振った。


「じゃあ、今週の土曜日に」

「え!? こ、こんしゅう……?」

「あれ? 何か予定があった?」

「いいえ、予定は無いけど……」

「それじゃあ、その日に見に行こうよ。上映期間も限りがあるだろうし、早いほうがいいよね」

「あ、うん……わかった」


 心の準備が出来ていない、という感じだった麻利恵を強引に誘う。むしろ僕のほうが他の曜日に予定が詰まっていたので、その日以外に時間が取れないのだ。だから、都合が良かった。うまい具合に土曜日の予定も埋まってくれた。


「楽しみだなぁ」

「……そ、そうね」


 昨日見た映画の興奮が残っていたので、また面白い映画を見ることができそうだとワクワクしていた。


「……どうしよう、デートのプランとか」


 隣を歩く麻利恵が、小声でボソッと呟いた。そんなに気負わなくてもいいのにな。だけど、僕を楽しませようという気持ちは伝わってきたので、何も指摘することなく聞き流すことにした。

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