第65話~GI宝塚記念《後編》~

【馬番】

①ドゥラスチェソーレ

②キセキノアシ

③ミドルオブドリーム

④メリッサ

⑤ドゥラブレイズ

⑥ペルツォフカ

⑦ネオエイジ

⑧ライジングウェーブ

⑨ロードクレイアス

⑩ワナビアヒーロー

⑪パスオブグローリー

⑫キャンディボール

⑬ダノンマカヒキッド

⑭バーストインパクト

⑮ステイファートム



《さぁ! バーストインパクトが動いた! 勝負の第3コーナーを目前にしてペースが乱れる! いつ仕掛けるのかが非常に重要だ!》



 先頭はワナビアヒーロー。ドゥラスチェソーレに迫る実力の持ち主だ。そして2番手にはキセキノアシ。3番手にメリッサ。そして俺がいる。


 後ろにはすぐ近くにミドルオブドリーム。んでドゥラスチェソーレとドゥラブレイズ。んでロードクレイアスはここか。もう結構進出してきてる!


 さらにその後ろにはペルツォフカとキャンディボール。んっ、バーストインパクトが躱していった! 上がってきてやがる!


 さらに後ろには確かパスオブグローリー、ネオエイジらも居たはずだが……まだ見えない。後方から一気に来て足元をすくわれないようにしないとな。



《600標識は既に過ぎた! 先頭まだワナビアヒーロー! 押していく和多竜二キセキノアシに懸命の左ムチが入った!


ステイファートムが上がる! 後ろはドゥラスチェソーレに、もうロードクレイアスがそこまで押し上げている第4コーナーカーブを迎えます!


ネオエイジが外に進出! ドゥラブレイズも有力馬3頭をピッタリマークしている! オークス馬2頭も競り合いながら来ている!


そしてダービー馬は1番外に出した! 得意の末脚に全てを賭けた! 4コーナーを回って直線コース! さぁ先頭は!》



 前にいるコイツらの作り出したハイペース、それにロードクレイアスら有力馬に釣られた各馬で馬群がギュッと詰まってきている。



『まだまだぁ!』


「いけ! ファー!」



 ワナビアヒーローの粘り。だが4コーナーを回りきる頃には俺が並んでいた。そして鞭がすぐに入る。阪神の直線コースを俺の脚でぶっちぎる!



《先頭はステイファートム! 真ん中ドゥラスチェソーレ! 外からロードクレイアス! もうマッチレースが繰り広げられている!》



『負け、ない! 俺も、お前たちと……!』


『『私たちを除け者にすんな!』』


『ぐぅぅぅぅ! まだ粘ってやるぅぅぅ!』



 ドゥラブレイズの気迫のこもった声。喧嘩ばっかしてた牝馬2頭も今は俺達目掛けて突っ込んでくる。ワナビアヒーローも先頭は譲ったが粘り強いな。



『年上だからって、舐めないで欲しい』


『年下だからって舐めるのもなしだからね!?』


『くっ、これが、古馬の力……だからといって、譲らん!』



 ネオエイジのおっさんが最後方から意地を見せる声を、ミドルオブドリームが呼応するように、そしてまだ声変わりのしてなさそうだが、パスオブグローリーの力ある声が聞こえてくる。


 皆のレースに賭ける思いが伝わってくる。騎手の人々も、己が導く馬を勝たせようと泥に塗れながらも頑張っている。








 でも、勝つのは俺だ。



《先頭ステイファートム! 外からロードクレイアスが並ぶ! 後ろにドゥラスチェソーレだが! 2頭に離されていきます!


このメンバーでも2頭が抜け出た! 馬体が併さる! 2強の決着になるのか! 帝王か! 征服王か! 天下統一まで残り200m! もう言葉はいらないのか! 2頭のマッチレースとなった!》



 激しく加速する。息が荒い。脚を嫌というほど回して1cmでも前に出ようとする。後ろに他の馬が居るのは分かっている。でも今は……。



『突き放してやる!』


『また抜き去ってやるよ!』



 ロードクレイアス、お前しかいない! お前しか見えない! 先頭は俺が取っている。粘っている。だが、離せはしない。ずっとクレイアスの奴が離れず付いてまわりやがる。



『敗北を受け入れたお前に、勝つための奮起を無くしたお前に負けるわけない!』


『井の中の蛙は口だけ達者だな! 世界を知らない奴が俺を語るか、おこがましい!』



 グッとロードクレイアスの脚に力が入ったのが見えた。地面を抉るような走りを見せてくる。そして、完全に俺と並んだ。



《僅かに内ステイファートム! 並ぶ馬体の外ロードクレイアス! 内か外か! 僅かに内だが外から並ぶ! 外並ぶ! ダービー馬の意地! 負けられないぞロードクレイアス竹豊!》



『つ、捕まえたぁぁぁ!』


『くっ……負け、ない……負けられないぃぃぃ!』


『勝つ! 勝つ! 勝つ! お前に……勝つっ!』



《また内から伸びた! ステイファートム横川勤が差し返す!? だがロードクレイアスも懸命に脚を伸ばす! どっちが勝つのか全く分からない!


残り50m! 負けるなステイファートム! 負けるなロードクレイアス!》



 一瞬にも、何秒にも、思えた。周りから見れば戯れにも、死闘にも見えたと思う。こいつには負けたくない。こいつに……勝ちたい。



『『お前には……負けてたまるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』』



《頑張れファートム! 頑張れクレイアス! 勝て! いけっ! 内! 外! 内! 外!》



 あと数回の首の上げ下げで勝敗が変わる。そう思えた次の瞬間に刻が止まった……ように感じるほど周りの世界がゆっくりに見えた。



『なぁ、ファートム』


『なんだよ、クレイアス』


『……敗北は、己をさらに強くする。……な? 言った通りだろ?』


『……そうだな。お前も、前より強かった』


『だろ? ……やっぱ悔しいわ。どうして俺じゃ無いんだろうって。……行ってこい、頂へ』


『あぁ……行ってくる』



《内外並んだが僅かに! 最後の最後にクビ差抜け出てステイファートムが勝ちましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!


最強馬決定戦! 王道を皆勤しGI6連勝を果たしたステイファートム! クビ差ロードクレイアスが2着!


タイムは2:08.9!?!?!? とてつもないレコードタイム!!! 離れた3着はドゥラスチェソーレ三冠馬


第××回宝塚記念、勝利の女神は運命に微笑みました。競馬史に名を残す至宝の大接戦。競り勝ったのはステイファートムです》



「最高だよファー! これで堂々と世界にいけるぞ!」



 横川さんがパンパンと俺の首筋を叩く。ん? クレイアスの奴が近づいてきた。



『……俺はもう、何も言わん』


『クレイアス……』


『勝手にいけ。そんで勝手に勝ってろ』


『……おう!』



 そんな軽い口論だけしてロードクレイアスは去っていく。……さぁ! 勝ったぞ俺は! これでいける。ようやくいける……世界へ!



『ファートムさん』


『ドゥラスチェソーレか』


『……貴方が海外に行っている間に、今度は俺が国内を制圧します。クレイアスさんがいるかもだけど……俺だって、三冠馬ですから』


『はぁ!? お前ばっか良い格好させてたまるかよ!』



 ドゥラスチェソーレの発言にミドルオブドリームが待ったをかける。



『俺だってお前を倒してるんだ。勝手に自分が上だと思ってんじゃねぇよ! おいおっさんも! 覚えてろ! ……俺の夢はまだまだ続いてるってこと!』


『ふっ……舐めるな2歳王者。継承者である俺に勝つつもりか』


『俺も! 俺もいるからな!』


『ワナビアヒーローか。そうだな、お前もいた』


『忘れてたのか!? 今に見てろよ!』


『おいこら俺を無視すんな!』


『お、俺も~……』



 ドゥラスチェソーレ、ミドルオブドリーム、ワナビアヒーロー。それに若干影が薄く後ろでオドオドしてるダノンマカヒキッドも……年下のこの世代も、良い仲間に恵まれているようだな。



『ふん、中々やるようね』


『へ、変に絡んできて鬱陶しい。……でも、次は勝つ』


『来なさい。ファートムくんの1番はいつだって私よ!』


『い、いらないし。あいつの1番なんて……』



 キャンディボールとペルツォフカの2人も良い感じで纏まっている。



『ははは、もう歳か』


『ふざけんな俺より上の着順取ってといて!』


『悔しいか? なら秋だ。待ってるぞ』


『うるせぇジジイ!』



 俺より年上のネオエイジにドゥラスチェソーレらの世代より年下のパスオブグローリーの2人もなんだかんだ良い感じを出している。



『ファートム、お前の中じゃ影薄いだろうが』


『私達と同期だったってこと、忘れないでね?』


『見せてこい、俺たちのヒーロー。俺も国内で魅せるぜヒャッハァァァァァ!!!!』



 キセキノアシ、メリッサ、バーストインパクト……クラシックを共に走り、共に無冠で終わった仲間たちからの声援が贈られる。


 ヒーロー、か。……コイツらからしたら、俺は勝てないまでも善戦した仲間って認識なのかね? タマモクラウンの分もあるのかも? ……まぁ良いや。勝つ……それだけだ。



タイム2:08.9(R)


1着ステイファートム

2着ロードクレイアス クビ

3着ドゥラスチェソーレ 6

4着キャンディボール 2

5着ドゥラブレイズ 1/4

6着ミドルオブドリーム クビ

7着ワナビアヒーロー クビ

8着ペルツォフカ ハナ

9着ネオエイジ 1

10着パスオブグローリー 1/2

11着バーストインパクト 2

12着ダノンマカヒキッド 3/4

13着キセキノアシ ハナ

14着メリッサ 1/2

15着ライジングウェーブ 5



***



『む? ミヤオカか。……あぁ、見てたさ。……そうか、来るのか……凱旋門賞に』



 ふぅ、と息を吐いたシャルルゲートの馬主ベスタロン・オーグナーは先ほどまでスマホで連絡を取っていた時の発言を思い出す。



『次は、こちらの番だな』



 そう言ってワーグナーが広げた紙面に綴られた文字。そこに掲げられたシャルルゲート始動の文字。


 欧州最強馬シャルルゲートの復帰戦は去年己が世代交代を告げた相手であるグランゼルディン、そして一昨年は自身が勝利を収めた世界有数のレース。GIエクリプスSとなっていた。










『馬鹿、な……』



《欧州王者シャルルゲート先頭! しかし外からドバイのGIウィナー! ロードクレイアスを倒したオーソレミオが馬なりで迫る!


人気2頭の対決は! あっという間に! 並ばない! 並ばない! あっという間に躱した! 突き放す! オーソレミオだ!


ドバイの激走は夢じゃない! これはもう、フロックでも何でもない! オーソレミオォォォォォ!!!!!


シャルルゲート敗れる! シャルルゲート敗れる! イタリア競馬の英雄が、欧州最強馬を4馬身ちぎる圧勝劇! 去年の凱旋門賞の悔しさを完全に果たした! 一体どこまで強いんだ! この馬をもう一度敗れる馬はどこにいる!》



1着オーソレミオ

2着シャルルゲート 4



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