第50話~GIジャパンC《後編》~
【馬番】
①レーゼドラマ
②ガナーモス
③ステイファートム
④ペルツォフカ
⑤ジョイフォーリーフ
⑥アサヒメイキッド
⑦マムシドウサン
⑧ミドルオブドリーム
⑨シャルルゲート
⑩ユメノツヅキ
⑪ドゥラブレイズ
⑫マカマカ
⑬リリーオブザインカ
⑭スフォルツォ
⑮アスクマカヒキモア
⑯ブシンペルカ
⑰ガイストデゼル
⑱グランジェクト
1番人気ステイファートム2.9倍
2番人気アスクマカヒキモア3.5倍
3番人気ドゥラブレイズ5.8倍
4番人気ペルツォフカ6.7倍
5番人気シャルルゲート7.0倍
6番人気ミドルオブドリーム17.3倍
7番人気リリーオブザインカ19.4倍
8番人気レーゼドラマ30.1倍
9番人気ユメノツヅキ43.2倍
《さぁ、今年の東京競馬場を締めくくる外国馬5頭を交えた夢の12レース! ジャパンCのファンファーレです!
おっと、少しガナーモスが暴れていますね。観客の声に驚いたのでしょうか? 1番人気ステイファートム、2番人気アスクマカヒキモアは落ち着いた様子です
そして馬場適性を不安視されている凱旋門賞馬シャルルゲートも落ち着いています。さぁ、日本最強馬ロードクレイアスを撃ち破った走りは今日も炸裂するのでしょうか?
最後にまくりが得意のグランジェクトが収まります。勝つのは日本勢か、はたまた外国勢か! 威信を掛けて第××回ジャパンCスタートしました!
ステイファートム良いスタート! アスクマカヒキモアもまずまず、出遅れた馬は居ません。そしてシャルルゲートも前目で進めます
有力各馬、ドゥラブレイズとペルツォフカはスっと後ろに下げました。リリーオブザインカは中段です。さぁ、先頭は誰が行くのか
ステイファートム、シャルルゲート、レーゼドラマの3頭が競り合っているぞ。シャルルゲート抑えた。そしてステイファートム抑えた。前に出たのはレーゼドラマ
しかしこれは、少しかかっているぞ!? これと言う逃げ馬が不在のレースは前目先行が得意のレーゼドラマが引っ張る形となりました
こう言った形で第1コーナーから第2コーナーに差し掛かります》
「良いスタート! でも掛からないようにね!」
上手く出れた。それは横川さんの声からも分かるだろう。お、同じぐらい上手いのは……シャルルゲートか。一人称我のちょっとイタイ馬だ。
んで……レーゼドラマ? 有馬記念で途中から俺と先頭を入れ替えた馬か。確か2番手3番手が得意だけど、前に立つと暴走してた様な……。
『上手いな、クレイアスは下手くそだったが』
『確かにあいつ出るの下手だったな。まぁ、そんなの帳消しにする末脚があったけど』
『あぁ、あの後ろから迫る脚音の恐ろしさ、今でも覚えているさ』
前目に付けた俺とシャルルゲートはあっさりとレーゼドラマに先頭を譲る。悪いな、俺も逃げは苦手なんだ。
『にしてもここの馬場は硬いな』
『そうか? いや、他の国は馬場が違うって事か?』
『うむ、我の国はもっとグニッ、としておる』
『うわぁ……』
聞く限り、雨降った時の馬場に似てそうだ。俺あれ嫌いなんだよね。……向こうでも強かったクレイアス凄くね!? ……なんて話をしてる場合じゃないな。
さて、ドゥラブレイズは見えない。いつも通り後ろにいるな。んでリリー……リリーオブザインカと、ペルツォフカも同様だね。
まぁ、勝てるもんならやってみろって気持ちだ。そんな感じで俺はコーナーを回る。ゴールの位置は確認した。日本ダービーと同じだと思う。
そう、ロードクレイアスと最後に戦って敗れた舞台、敗れた距離……そして相手にはロードクレイアスを破った馬がいる。いいねぇ! 巻き返しとして最高の舞台だ!!!
《さぁ先頭を引っ張るのはアルゼンチン共和国杯連覇のレーゼドラマ。今日はどんなドラマを見せてくれるのか
2番手に、居ました1番人気のステイファートム。去年のダービーの雪辱、負けられないぞ横川勤。そして3番手に約20年ぶりに来日した今年の凱旋門賞馬シャルルゲートです
1馬身離れてスフォルツォ。そこから2馬身切れて2歳王者ミドルオブドリームがいます。その後ろ、内にBCターフ勝ち馬のジョイフォーリーフ、外アサヒメイキッド菊花賞馬
さらにその後ろマムシドウサンがいて、夢の続きは見れるのかユメノツヅキ。その間にドゥラブレイズ3番人気はここ!
3カ国のオークス馬リリーオブザインカはこの位置。隣にマカマカがいて、去年のディフェンディングチャンピオン、引退レースの日本総大将アスクマカヒキモアは中段後ろに位置しています
その後ろに日本のオークス馬ペルツォフカがいて、プシンペルカ、そして今上がって行ったのはグランジェクト。ミュラー・コーセーがレースを惑わせるぞ!
馬群切れて残りは2頭、ガイストデゼルとスペインから来たガナーモスが最後方と行った形で馬群を形成しています》
レーゼドラマの奴、鞍上の人は抑えようとしているけどやっぱ引っかかってるな。よぉ、シャルルゲート、お前はどんな調子だ?
『はは、言っちゃ悪いが、ちょっと走りにくい』
『やっぱりか……』
纏っていたロードクレイアスにも比肩する程のオーラが今では也を潜めている。脚元をしきりに確認し、走るのにも少し違和感があるように見えた。
『良い所、7割……いや、8割は出そう』
『はっ! 俺はいつでも全力全開だ。まぁ、無理して怪我だけはすんなよ?』
『当然だよ……!』
タマモクラウンの奴を思い出して、無理をしないように声を掛ける。シャルルゲートは肯定したが、はたしてそれは俺の全力全開についてか、怪我をしない、どっちに対しての返答なのだろうか……?
《最初の1000mは58.9!? これはちょっと速い! ハイペースを引っ張っているのはレーゼドラマ竹豊! レジェンドの逃げがどう影響するのか!
前目でスタミナを削られるステイファートム、シャルルゲートに狙いを定めた後方グループの脚は溜まっているぞ!
欅の向こうを通過して第3コーナーのカーブ! 先頭から1馬身切れてステイファートム、シャルルゲートがいる! ここで各馬動き出す!
大外からは早めに動いたグランジェクトが先行集団にいるぞ! ちょっとずつ詰まった馬群の中にアスクマカヒキモアラストラン!
外国馬5頭との共演です。勝つのは世界か、日本か! 全ては最後の直線525mに託されました!》
「ファー、行くぞ!」
『任せろ横川さんっ!』
身体に自然と力が入る。まだまだ直線は長い。この前の天皇賞・秋と同じだ。でも、レースの距離は今回の方が長い。体力もそれ相応に消費している。だから、仕掛け所は見誤っちゃいけない。
『ファートムのおじさん発見! 行くぞゴラァ!』
『血の気が多いな若いの。動きは良いが狙いが単調だよ』
ミドルオブドリームが伸びてきたが、それに待ったをかけたのはジョイフォーリーフって外国馬だった。流れるようにミドルオブドリームの斜め前に立ち、違反にならない程度に進路を妨害している。
『邪魔だ!』
『それはYouの方よ』
『っ!?』
外を塞がれたミドルオブドリームが内側に切り込もうとしたが、その場所にスっと出てきたリリーオブザインカに阻まれる。
『なぁに、真っ直ぐ走ればいけるさ少年』
『……今だ!』
それを見たアスクマカヒキモアが笑いながら外を交わしていく。他の馬が注意がそちらに引っ張られた事で、ミドルオブドリームは間を抜けるようにして再び上がってきたのだった。
『ファートムは……居た』
『ふ~ん、あんたもアイツ狙ってる訳? 別に良いけど、私の邪魔したら殺すわよ?』
『……勝ってから言え』
真ん中を突いて上がってきていたドゥラブレイズ。その後ろをピッタリマークして一緒に上がってきたペルツォフカちゃん……ちゃん付けは止めろって言われたな。ペルツォフカが食ってかかる。
《先頭レーゼドラマ。大外からグランジェクトとアスクマカヒキモアも上がって来た! 内にリリーオブザインカ! 外ジョイフォーリーフ、真ん中ミドルオブドリーム!
残り400! ここで満を持してステイファートム、シャルルゲートが先頭に並びかける! ドゥラブレイズとペルツォフカも良い脚で伸びてきた!
有力各馬そしてGI級各馬、世界の頂きに向かって全速前進! 先頭ステイファートムとシャルルゲートの競り合い!
残り300! 外からアスクマカヒキモアが来た! 連覇で飾るか有終の美! ミドルオブドリームッ!? ミドルオブドリーム来る! 来ている!》
『はっ、はっ……!』
隣で苦しむように脚を伸ばしているのはシャルルゲートだ。俺と同じ戦法、俺と同じ速度でずっと伸びてきていたが……徐々に後退し始める。
「競り落とす!」
横川さんの一声、そこで1発のムチが入った。俺の1級品の末脚が火を吹き、シャルルゲートを突き放しにかかる。
『……じゃあな』
《残り200! 先頭抜けたステイファートム! 2番手アスクマカヒキモア! シャルルゲートは3番手も苦しい! ドゥラブレイズ、ペルツォフカ、ミドルオブドリームの激しい着争い!
リリーオブザインカは沈んでいく! ステイファートム、アスクマカヒキモア、この2頭か!?》
『おっさん……!』
『よぉ……最後ぐらい、先輩に格好付けさせろや、後輩』
『はっ、悪いがおっさんにも負けてらんねぇよ。……もう誰にも負けないって、決めたからな』
『なら、実現してみろや!』
先頭は俺、その1馬身後ろにアスクマカヒキモアがいる形だ。他の馬も来ているようだがまだ見えない。
『待ちたまえよ……そんなすぐに忘れてもらっちゃ困るな』
《ステイファートム! アスクマカヒキモア! 残り100! もう一度、内からシャルルゲートが蘇ってきたァ!》
1度沈んだシャルルゲートが再び加速をする。お前、その力は……無理をしてやがるだろ。怪我したら終わりなんだ、タマモクラウンもそうだった。なのに、何で……!
『負けたくない……勝ちたいからね』
『っ! ……なら、追いついて見せろ!』
《この3頭に絞られた! 後ろは団子状態! 勝つのは、去年の覇者か! 欧州最強か! いいや……》
……目の前に存在する、まだ誰も通らないゴール板。外にはマカモアおじさんが、内にはシャルルゲートが、そこを目指して必死にもがいている。
でも悪いな。おっさん、連覇を……綺麗な最後を飾らせてあげられなくて。そしてシャルルゲート、外国からわざわざ、クレイアスを倒したほどの実力者も来てくれたのに……。
《1頭抜けた! 突き抜けた!! 3連勝だ!!! ステイファートムだァァァ!!!
勝ったのはステイファートム! 世界を相手にジャパンCを堂々優勝です!!! ガッツポーズの横川勤と共に初制覇! 2着にアスクマカヒキモア! 3着シャルルゲート! 4着以下は混戦模様!》
目の前の勝ちだけはたとえどんな事があっても譲る気になれんわ。たとえそれが誰であっても……。
『が、はぁ……はぁ……』
『シャルルゲート……大丈夫か?』
『む、無論、だ、とも……。脚を、痛めたわけ、じゃ……ない。ただちょっと、本気を、出しすぎただけの、話さ……』
慣れない気候や馬場、環境を相手にしてもシャルルゲートの奴は3着に来た。そして本調子では無い状態で、無理やり走りきったのだ。
『強かったよ、そっちは……』
『はは、そう言って、くれると助かる……でも次は向こうで、我の地元で戦いたいかな』
はっ、確かにこっちはホームを背負ってた。だから今度はそっち側のホームに乗り込めって事かよ。確かにそうじゃなきゃフェアじゃねぇよな。
『分からんが……行きたいもんだな。お前の地元に』
『ふぅ……そう思ってくれるだけで、我は満足だよ。勝利、おめでとう』
言い訳なんて幾らでも思いつく。なのにその全てを無かったかのように、彼は潔く敗北を認め、そして笑いながら俺の勝利を祝ったのだった。
『ん? どうしたファートム』
『……勝ったぞ』
負かした相手に向かって直接そう告げた行いが珍しかったのだろう。マカモアおじさんは面食らったような顔をした。
『そう、だな……俺も全力を出したが、お前には負けたよ』
『あぁ。あんたに衰えは無かったように感じた』
『当たり前よ。俺は生涯現役でいるつもりだ。そんで可愛い牝馬達に囲まれて暮らすのさ!』
『でも、あんたもサラブレッドなら分かるだろ? ……最後のレースだ』
負けた。悔しくないわけない。誰もが勝ちたかったのだから当然だ。それをシャルルゲートも、マカモアおじさんも、全然顔に出さない……。
『本気を出した。そんで負けた。何を思う必要がある……まぁ、結構楽しかったぜぇ、ボウズ』
『っ……お疲れ様です、アスクマカヒキモア』
『おうさ。後は頼んだぜ、じゃあな、ステイファートム』
こうしてシュトルムのおっさんと同様に、マカモアおじさんも自らのラストランに区切りを付けてターフを去っていった。
タイム 2:23:1
1着ステイファートム
2着アスクマカヒキモア 1 3/4
3着シャルルゲート 3/4
4着ペルツォフカ 1 1/4
5着ミドルオブドリーム ハナ
6着ドゥラブレイズ ハナ
~~
8着リリーオブザインカ 2 1/4
~~
12着ユメノツヅキ クビ
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