第49話~GIジャパンC《前編》~
東京競馬場第12R:ジャパンカップ <GI>(芝・良・左・2400m)
《晴れやかな快晴に迎えられて、世界の強豪が顔を揃えました。中でも今年は何と約20年ぶりに凱旋門賞馬の出場が叶います。今年の東京競馬場、最終レースを飾るに相応しい豪華メンバーです。実況は私、明智と》
《はい! 解説の細田です! 今年は外国馬が5頭参戦。国際レースに相応しいメンバーが揃っていますよ!》
《えぇ、シャルルゲート、リリーオブザインカを筆頭に海外馬4頭がGI馬です。そして相対する日本総大将はアスクマカヒキモア、でしょうか?》
《おや? 明智さんステイファートムの名前は言わないんですね》
《アスクマカヒキモアは去年のディフェンディングチャンピオンですからね。GI3勝のダービー馬にして5歳世代筆頭ですから。この府中2400mでなら迎え撃てると思いますし、何よりこれがラストラン……引退レースなんですから》
《そうですね。世代の王が、その頂きに届いた場所で迎えるラストレース。目が離せません!》
《それはそうとステイファートムのGI連勝も狙ってますけど笑》
《あははは。あ、誘導馬が姿を見せ始めましたね》
《さぁ、本馬場入場です! 白い誘導馬に導かれて現れました。1枠①レーゼドラマ! 去年は体調の面から回避したこの舞台、今年は前走GIIアルゼンチン共和国杯連覇から満を持して挑みます。鞍上は竹豊!
②はガナーモス。何とパートIII国スペイン原産のサラブレッドです。初めてのGI挑戦となりましたジャパンCは胸を借りる気持ちとサイドは告げています。その走りは日本で通用するのか、導くのはダニアン・ローン!
さぁ、さぁ、この歓声をお聞きください! 連対率100%継続中。クラシック無冠から秋古馬三冠の1冠目、天皇賞・秋で悲願のGI制覇に母子制覇のおまけ付き。次に狙うは世界の強豪集うダービー2着の雪辱の舞台、1番人気③ステイファートムと鞍上は全レースで手網を取る横川勤!!!
④ペルツォフカ、去年の2歳女王にして今年のオークス馬です。秋華賞2着から狙うは古馬・牡馬混合GIタイトル。鞍上は磐田康成!
こちらはアメリカから参戦、GI馬⑤ジョイフォーリーフ。去年はネオエイジをBCターフで破った実力馬です。四つ葉のクローバーで幸せ掴むぞ鞍上は乗り替わりのクリストファー・ルモール!
⑥アサヒメイキッド。3年前の菊花賞馬です。6歳馬の古豪が見せる1発はあるのか! 鞍上沼添謙一!
こちらは先出し⑦マムシドウサン。ロクテンノブナガと同じ馬主であり、同じくGI初挑戦。鞍上は乗り替わりで逆井流星が務めます
⑧ミドルオブドリームです。古馬を交えての前走は初の掲示板外。しかしその夢は終わらない。2歳王者の意地がある。距離克服に挑む相棒は引き続きラフランス・デットール!
この姿を見よ! 20年以上の時を経て、今年ロードクレイアスと日本の悲願を打ち破った欧州最強の凱旋門賞馬⑨シャルルゲートの登場です。オーナーは言う、この距離なら負けない。馬場も苦にしない。この馬こそが世界最強だと! 鞍上は引き続きクリストファー・スミヨンが取ります
2020年ジャパンCでしのぎを削った2頭の無敗三冠馬。父コントレイル母デアリングタクト。その血を受け継いだ仔が夢を紡ぐためターフに姿を現しました。⑩ユメノツヅキ! 鞍上は母の背を知る梅山弘平!
GII京都大賞典を3馬身差の快勝、重賞4勝目ながらGIではあと一歩足りない。今度こそ、父の名にかけてタイトル欲しい⑪ドゥラブレイズを後押しするのは鞍上メルコ・デムーロ!
九州産駒初の重賞馬ヨカヨカの息子が世界を相手に殴り込み。⑫マカマカと鞍上福長祐一の手網捌きをご覧あれ!
あのスノーフェアリーを超える実績馬が電撃参戦! エリザベス女王杯を回避しここ1本に絞った世界的名牝⑬リリーオブザインカと、こちらも世界的名手オリブエ・ぺリオ!
GIの頂きに辿り着くまで30戦。時にダート、時に障害を走りながらも努力を重ねて掴んだ栄光。次に輝くのは異国の地にて! ⑭スフォルツォと鞍上ジャイアン・ムーア!
去年の覇者が連覇を狙って堂々登場です。2年前の日本ダービー、去年のドバイにジャパンC。積み上げた3つの冠引っさげて、これが引退レース、有終の美を飾れるか! 日本総大将⑮アスクマカヒキモアと鞍上河田将雅
7歳馬にも意地がある。去年は4着今年は何着? 狙うは1着のみ! 重賞5勝の実績は伊達ではない! ⑯ブシンペルカと鞍上は辛英明!
去年の香港で復活の兆しを見せつつもあと一歩勝ちきれない。そんな歯がゆさは今日で終わりだ! 3年1ヶ月ぶりの勝利なるか⑰ガイストデゼルと鞍上は都崎圭太!
大外捲りが得意なので大外枠も大歓迎! 今年の目黒記念を制した脚は世界を見すえている! ⑱グランジェクトと鞍上ミューラー・コーセーのGI挑戦通算189回目です!
以上、出走する18頭の本馬場入場でした!》
【馬番】
①レーゼドラマ
②ガナーモス
③ステイファートム
④ペルツォフカ
⑤ジョイフォーリーフ
⑥アサヒメイキッド
⑦マムシドウサン
⑧ミドルオブドリーム
⑨シャルルゲート
⑩ユメノツヅキ
⑪ドゥラブレイズ
⑫マカマカ
⑬リリーオブザインカ
⑭スフォルツォ
⑮アスクマカヒキモア
⑯ブシンペルカ
⑰ガイストデゼル
⑱グランジェクト
***
ヒャッハー! 無事にGI出れることになりましたー! ジャパンCって言う名前のレースらしいの! ジャパンCよ!? 名前的にも日本の中でもめっちゃ凄いレースなんじゃない!?
ん? ……なんか数頭雰囲気の違う馬が混じってる。もちろん知らない馬だな。知り合いもドゥラブレイズにアスクマカヒキモアおじさんを筆頭に何人かいるけどさ。
ん? なんかこっちに近づいてくる馬がいる。……牝馬だな。ふぅ……よし、逃げるか。
『Hey! 待ってよそこのハンサムボーイ』
リリーオブザインカって名前の牝馬が迫ってくる。なんと言うか今までに関わった事の無い感じ……あ、騎手の人も日本人じゃない。
珍しいが、それは今までにもあったな。でも両方雰囲気が違うってことは……そうか、ジャパンCは外国馬も参加出来る国際的なレースって訳か!
つまりに世界の強豪が日本で顔を揃えている、と……世界は広い。シュトルムのおっさんはそう言っていたな。これも予行演習と考えてみるのも悪くない。
『なんで逃げるノォ!?』
『追ってくるからだけど!?』
まぁ、外国のお嬢さんとの話し合いは逃げるけどね。え、予行演習? ……それとこれとは話が別なんだよぉ!!!
『はぁ、はぁ』
『はぁ、はぁ……くそ、レース前に疲れさせる作戦かよ』
精神的に辛いので諦めると彼女は俺のそばまで寄ってきた。一体なんなんだよ……。
『貴方速いのね。顔も馬体も素晴らしいわ』
『そっちこそ……わざわざ別の国から渡ってきたんだろ。雰囲気が違う……。それで、なんで追いかけてきたの?』
『え、イケメン見つけたら普通話しかけるでしょ?』
『そんな事ねぇよ!?』
あ、今更ながら会話通じるんだ。馬語って万国共通なのかな? それか人間の言葉が分かるのは転生特典? ではなく翻訳が働いている可能性もあるが……周りを見る限りそんなことは無さそうだね。
『ねぇ、このレースで私に勝ったら種付けして!』
『……君もかよ』
デジャブ。……カレンニサキホコルお姉さんを思い出したよ。と頭を抱えていたら(比喩だぞ!)1頭の馬が現れる。
『へい彼女、今度俺と併走しな──』
『邪魔よ』
『ガフゥッ!?』
『ま、マカモアおじさぁぁぁん!?』
最初の口説き文句を最後まで言い終わることなくあっさりと撃沈したマカモアおじさん。
『さぁ、返事は?』
『人間が決めることだから、種付けは応えられない。でも……レースに勝つ、それぐらいなら軽くこなせるよ』
『良い自信ね。強い男は好きよ』
『そうかい? ありがとう。所で君、年下だよね?』
『3歳よ! 文句あるの?』
なんかノリとか雰囲気でカレンニサキホコルお姉さんとデジャブってたけど、年下の背伸びって考えたら可愛く見えてきて……来るかな? やっぱ微妙だ。
『あ、そう言えば名前を聞いていなかったわね。今更だけど』
『本当に今更だね。ステイファートムだよ。そっちはリリーオブザインカ……リリーって呼ばせてもらうよ』
『リリー……うん、じゃあこっちもファートムって呼ぶわ。それとさっきから気になっていたのだけど……彼女は知り合い?』
『いいや、俺もさっぱりだ』
俺とリリーの視線の先にはもう一頭の牝馬がいた。ペルツォフカと言うらしい。俺、彼女になにかしたのだろうか? と思ったら近づいてきた。
『ステイファートム、で合ってるわよね?』
『あぁ、ペルツォフカちゃん』
『ちゃん付けは止めて。それと……タマモクラウン。この名前に聞き覚えは?』
『……君は誰だい?』
リリーが空気を察したのだろうか、居なくなってくれた。それよりも……ペルツォフカ、この女、一体何者だ? てっきりまた顔で興味を持たれていると思っていたが違うらしい。
『……私は──』
『やぁそこの可憐なお嬢さん、今度一緒に併走でも──』
『黙ってなさい』
『ゴホォッ!?』
『お、おじさん……』
良い所だったのと口説き文句が同じで当然のように失敗していたので、さすがの俺も向ける視線は冷ややかだ。
『はぁ、まぁ良いわ。後で時間作れる?』
『あぁ……後でじっくり2人で話をしよう』
『……えっち』
『ちょ、違うからねっ!?』
マカモアおじさんのせいで彼女も白けたのか、話はレース後という訳になった。という訳で解散だ。マカモアおじさん? あぁ、こんなんでも一応知り合いだからね。骨は拾っといたよ。
『ふっ、ようやく我の出番ということか!』
……ようやく解散できると思ったら今度はキザな英国王子風のイタイ牡馬が話しかけてきた。当然のように知らない顔だ。
『っておい、無視をするな!』
『人違いです』
『まだ何も言ってないだろ!? その頭蓋に深く刻み込め……シャルルゲート。それが我の名だ』
『俺はアアアアアです。じゃ』
『じゃ、じゃない! それに名前はアアアアア? じゃなくてステイファートムだろ!? 変な嘘つくな!』
ペルツォフカとの話し合いが上手く出来なかったので多少投げやりになってしまった。え、扱い酷くないかって? シャルルゲートって奴、なんだかタガノフェイルドと似たノリを感じたからつい……。
『ロードクレイアスから聞いている。君が2人いるライバルのうちの1人だと……』
『クレイアスから?』
『我は彼に2度……2戦2勝している。しかし我に最も近づいたうちの1人だ。そんな彼のライバルと呼ばれるなら……実力を知りたくなるのも当然だろう?』
『つまり?』
『さっきから対応雑じゃない!? 我、一応君に勝ったロードクレイアスに負けたことないんだよ!? ……って、そんな事はどうでも良い』
『そうだな』
『うぉい!? ……んん、つまりは勝負をしようって訳さ。何も賭けたりはしない。だが……無様なレースだけはしないでくれ』
『最初からそれ言えよ。……アイツに勝ったんだろ? はは、良いねぇ、ぶち抜いてやる』
『素晴らしい! レースが楽しみだよ』
そう言ってシャルルゲートは去っていってしまう。……サラブレッドって奴は皆身勝手なのか!? 勝手に話しかけて勝手に去っていく! 好き勝手な奴ばっかだ! もう誰も俺に話しかけるなよォ!?
『その……こ、今回こそは俺が勝つ、からな』
『お、おう……。勝つのは俺だけど』
すまねぇドゥラブレイズ。お前だけは結構濃いキャラ達の合間合間にずっと話しかけようとしていたけど、空気を読んで我慢してたもんな。マジですまねぇ、さっきの発言は取り消すよ。お前だけだよ、空気読んでくれるの……(泣)
あと、ミドルオブドリームもカレンニサキホコルのトラウマを刺激されたのかリリーやら牝馬達に囲まれた俺を見て諦めた様子だったし……ままならん物だな。
なんて考えているうちにジャパンCのファンファーレだ。さぁて……世界が相手でも関係ねぇ、GIを連戦連勝してやりますか!
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