第48話~ジャパンCに向けて~
ふんふふーん! ……あひゃひゃひゃひゃ!!!
「ファートムの様子がおかしい。……ストレスか?」
違うぞ沢村さん!? 普通に天皇賞・秋勝った時の事で思い出し笑いしてただけだぞ!?
「次のGI、ジャパンCも不味いかもしれん」
嫌だ嫌だァァァァ!!! 出るぞ! 俺はまたレースに出るぞ! 次もGIなんだろ!? 勝つから出させろ沢村!
「お、ファー、コールが向こうにいるぞ」
『ふふ、今日も良い天気だな沢村』
「こいつ……笑」
妹ちゃんの名前を出した途端に大人しくなった俺を見て沢村さんが軽く小突いてくる。し、知らんわボケ!
「ちょ、コールの奴こっちに来てない?」
『え?』
『お兄ちゃぁぁぁぁん!!!!!』
「放馬ぁぁぁぁぁ!!!!!」
***
ハムハムハムハム……俺はコールとかれこれ5分ほどグルーミングを続けている。放馬して俺の前で止まってずっとそれをしていたので無事に確保は出来ているぞ。
『久しぶり』
『そう、久しぶりなの! 同じ場所にいるのに会えないし……レースにも負けたし』
『そうだね。惜しかった……次は勝てるさ。コールは俺の妹なんだから』
『そう? ……お兄ちゃんがそう思うなら私、頑張る』
コール……カーテンコールは俺が天皇賞・秋を走る前日に行われたGIIIアルテミスSに出走して、3着に敗れた。前走8馬身差圧勝のインパクトから1番人気に指示されたが、その期待を裏切ってしまったらしい。
特に身体の不調とかでは無かったそうだ。……俺も一緒に輸送されたから精神面でも問題は無かったと思うよ? そんな訳で拗ねたコールを甘やかしたんだが……まだ足りなかったらしい。
「コールは甘えん坊ですね。ここまで牡馬に懐くのも珍しいです」
「寂しがり屋なんですよ。それでいて人見知りっぽいし……ファートムと一緒にいさせると調子が良さそうで、これからもこうするべきかもしれないかもです」
「言うてファーの方も友達少ないですよ? フェイとはいつも併せ馬をしてるんですが、それ以外だとマカモアぐらいじゃないかなー?」
「でも群れのボスじゃないですか。シュトルム、フェイルドから移りましたけど特に問題も起こってないですし一安心です」
「まぁ、ちょっと凶暴な2歳馬、3歳馬も1週間で絞めたりしてましたし安心ではありますね」
沢村さんとコールの担当厩務員さんがそんな会話をしていた。そう言えばコールは一年以上母離れが出来なかったし本当に人見知りなんだろうな……お兄ちゃんに任せなさい!
『も~、また変顔。お兄ちゃん好きだねそれー』
『変顔ちゃうわ!?』
渾身のキメ顔は外れたらしい。なんで皆この良さが分からないんだろうか?
なお、ネット民のおもちゃになっているので喜んでいる人はいるにはいる。
***
『ファーファファファファ!!!』
『うるせぇよぶっ潰すぞ!』
タガノフェイルドはマイルCSで負けたらしい。しかも、ディープゼロスの奴に……あいつ、勝ったんだな。まぁ……良かったわ。
『俺は勝ちましたー!』
『はぁ!? こっちは3つ勝ってるしー!』
『今年GIIを1勝だけだろ? はい俺の勝ちー!』
『よし殺すー。今から併走でぶち抜いてやる~!』
『やってみろ~』
という訳でお互い昂りながら久しぶりの併せ馬をした。ちなみに俺の勝ちね。
「おいおい、ファートムの最後の1F10.8って……自己ベストじゃないか!?」
「フェイルドも1F11.0で自己ベストタイですよ! これ年内休養取りやめて香港マイル出したりしません?」
「今週のジャパンCまでは様子見と精神を落ち着かせるためにファートムと一緒にさせるって荻野さんの考えだろうけど……どうなるんだ?」
へぇ、俺のタイム最高記録らしい。フェイの奴も最高記録タイって……。お前、マイルCS走ったばっかで疲れとか残ってねぇのかよ。
荻野さんは俺の併せ馬のためにフェイルドを置いておいてくれたらしい。それはありがたいが……フェイの奴、怪我だけはしてくれるなよ? まぁこいつ、俺と違ってめちゃくちゃ身体強いし問題ないだろ!
『……そう言えばお前、ちゃんと群れのボスやってるらしいな』
『やってる覚えはないんだが……』
『見回りもするし争いも止めておいて何言ってやがる』
『ただの気分転換な散歩と生意気な歳下を絞めただけなのに……』
うーん、群れのボスをやると約束したは良いけど特別なことはしてない気がする。
『あぁ、厩舎は元々俺よりファーの方がボスっぽかったしすぐに順応してたな』
『まさか一日で入れ替わるとは思わんよ。んでこっち……美穂トレセンは……』
『1週間だな。初日にイキってたどこかの群れのボスだった奴ぶちのめしたのが良かったと思う』
あー、美穂トレセンもシュトルムに任せられたとは言えね、まさか一発目でめちゃくちゃ恐れられてた馬を絞めてたなんて思わんよ……。
そのおかげ? せい? で一気に俺が群れのボスであると全員に認識されたらしい。……あぁ、群れの序列とレース展開には関係とか無いからな! 天皇賞・秋はちゃんと俺と関係者の力だからな!!!
『さて』
『ん、また走るのか?』
『レースが近いらしいからな。GI連勝してやるよ』
『へぇ、まぁ頑張れ』
『お前もな』
『当たり前だ』
***
「んん~、いよいよ明日ですね」
ホテルで1人の外国人が目を覚ます。バイキング形式の朝食で日本食に舌鼓を打ち、本番である明日の資料に目を通していった。
「リリーオブザインカか。凱旋門賞での走りを見る限り、シャルルゲートに勝てるとは思えないけど……舞台は日本だから、なんとも言えないね」
そこでブラックコーヒーを少し口に含む。
「そして大本命、日本の有力馬は……やっぱりアスクマカヒキモアにドゥラブレイズ。ペルツォフカも怖い存在だけどやはり……ステイファートム、この馬が一番怖いかな」
パラパラと資料に記されたこれまでの戦績、血統、走法、騎手などなどを目にしながら、今年のロードクレイアスを打ち破って凱旋門賞馬となったシャルルゲートの馬主、ベスタロン・オーグナーはそう呟いた。
世界の強豪が集いしGIジャパンCの開催はいよいよ明日、幕を開ける。
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今年はジャパンカップダートがドバイで復活開催、海外勢もたくさん来るらしいので楽しみ
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