第30話~GI菊花賞《後編》~
《さぁ、枠入りは順調です。1番人気のステイファートム、2番人気のゼッフィルド、共に綺麗に収まりました。相変わらずバーストインパクトはゲート内で落ち着きを見せませんが……全馬枠入り完了です!
最後の1冠を掴むのは春の雪辱か、はたまた新星か! 第××回菊花賞スタートしました!
ややバラついたスタートで前に出たのは1枠1番ステイファートム! 出遅れたのはバーストインパクト!
クラフトオーがいく。キセキノアシもいく。そしてタマモクラウンも行くぞっ! 先頭はステイファートム! しかしキセキノアシが競りかけて、2頭並んだまま集団を引っ張る形となった
いや、ステイファートムが抑えて控える形。前に出たのはキセキノアシ! 父キセキの晩年の戦法となった逃げです。ゼッフィルドはいつも通りの最後方。さぁ、キセキノアシ先頭で最初のコーナーを回ります》
「綺麗!」
横川さんが思わず呟いた声が俺にも聞こえた。あぁ、最短距離で先頭に立つのも良いな。自由なペースで前から垂れてくる奴もいないってのは楽なんじゃ?
いや、後ろから無理やり押し出されたり後ろにずっと居られるストレスも結構あるからそんな単純じゃないか。
お、キセキノアシが並んできた。前に行くつもりか? 良いぜ、行けよ。譲ってやる。横川さんも同じ意思だしな。
それよりも、最初からいきなり坂があるのキツくね!? 坂登ってすぐコーナーかよ。これ、日本ダービーより長いならもう1回この坂を登るわけか……うぎゃぁ! 嫌だぁ!
《既に馬群は縦長となって1周目のホームストレッチに入ります。先頭キセキノアシ1馬身リード。2番目ダシコンブとクラフトオー!
さぁステイファートムは4番手と言ったところか。大歓声に見舞われて、行った行った行ったぁぁ! バーストインパクトが予想通りのかかり癖を見せて一気に捲っていくぞっ!
タマモクラウンを交わした! サザンプールはステイファートムを見る形! 2番人気のゼッフィルドは少し位置を押し上げて後方! マカマカとドゥラブレイズがマークしている!
最初の1000mは1分とコンマ0.2秒と言ったところ。平均ペースとなっています
ドゥラブレイズの後ろにライムライトがいて、最後方はナムサンストックといった体勢でコーナーを回り観客にしばしの別れを告げていきます》
前にいる奴らは大抵見たことあるばっかだな。キセキノアシとクラフトオー……あとダシコンブって奴は初めて見た。けど大したことは無さそうだな。あとジェミニリストが居れば完璧だったのに。
ゼッフィルドは……居ねぇな。後ろの方でダラダラ走ってるのか? いや、あいつは勝つと言った。競馬は好きじゃなさそうだがその時の気迫だけは本物だった。
……ロードクレイアスの奴と同じタイプで、最後の直線で一気に来るタイプってことだな。けっ、なら第4コーナーが終わる頃には楽々と先頭に立つつもりでいとくか。
「ファー、集中して」
むっ、すまん横川さん雑念が入ってたな。そうだよな、今はレース中だ。
《第2コーナーを回って向こう正面にいきます。今1度隊列を確認していきましょう。キセキ産駒のキセキノアシが先頭1馬身リード
1馬身離れてダシコンブと皐月5着のクラフトオーがいて、居ましたここに皐月2着ダービー2着、最後の1冠負けられないぞ横川勤とステイファートム!
その後ろにサザンプールとサレグスがピッタリとステイファートムの内外をマークしています。
ダービー5着のマカマカが内に進路を取っている。外に並ぶ形でデビットガイアが陣取った。ライジングエコーがその後ろについて、ドゥラブレイズ4番人気はここです!
そのドゥラブレイズを見る形で外に3番人気タマモクラウン最強未勝利馬はここ! ミッキーブラットがいて、そしてさぁ動いた! 行った行ったぞ!
バーストインパクトが我慢出来ずに向こう正面でまた動きを見せた! さらに、グランジェクトも得意のロングスパートを仕掛けたか最後方から上がってきている!
流れもペースも荒らしにかかった! さらにスルスルと2番人気のゼッフィルドも進出を開始している! 三冠馬同士の血族、最後の1冠取れるかどうか!
京都の坂でなんと3頭も動きを見せた! スパートをかけた! この出来事で何が起きる!? 何をもたらす!》
ぐぉぉぉぉ!? この坂やべぇわ! 細かく走るピッチ走法に切り替えねば! んで……前は3頭。追いつけるな。弥生賞みたいな大逃げは無い。
後ろは……サザンプールとサレグスの奴らか。こいつら何度も俺をマークしてきて正直ウザイぞ。まぁ、俺がそれだけ警戒されてると思えば何とか……。
「っ! きたっ!」
っておぉ!? なんか後ろが騒がしくなってきたな。横川さんが後ろを確認して来たって呟いたけど、なんかヤベェやつが来たんだな。
有力馬としてゼッフィルド、タマモクラウン、ドゥラブレイズ辺りか。……バーストインパクトって奴もいたな。あいつ、途中から周りが見えなくなってるみたいだし。
さてさて、坂はそろそろ終わったぜ。なら最後にコーナーを回って直線を残すだけか。行けるぞ横川さん、あんたと2人で今度こそ勝つ!
《そして後ろは残り3頭! ライムライトがいて、後ろに2頭。内にメイショウザクロス。外、ナムサンストックが殿を務めています
さぁ! 2度目の坂越えを終え、第3コーナーを迎えて先頭は依然としてキセキノアシ。2番手ダシコンブとクラフトオーだが外から襲いかかるバーストインパクトとグランジェクト!
1番人気のステイファートムはその後ろ! まだ抑えて! 鞍上横川手網は持ったまま! そしてタマモクラウン、ドゥラブレイズ、ゼッフィルド、上位人気4頭は中段まで押し上げているぞ最後の直線っ!!!》
やっぱバーストインパクト来たか! んで知らん奴も着いてきた! グランジェクトって奴ね。んで他は……全員来たぁっ!? ゼッフィルドって最後の直線で来るんじゃないの!?
「やっぱり来たな。まるでゴールドシップ並のロンスパだよ!」
俺のおじいちゃんの名前が出た! なるほど、ゼッフィルドの奴はロングスパートを掛けてくるのか。位置としてはクレイアスと一緒だけど仕掛けるタイミングが違うって訳ね。
『追いついたよぉ。さぁ、俺の後ろ空けとくからついておいでぇ』
『あ? てめぇは俺の後ろ姿だけ追ってろや殺すぞ!』
「ちょ、どうしたファー!?」
『あぁ! ファー君いたっ! 今度こそボクが勝つんだけら見てろよぉぉぉ!!!』
『俺も、あんたには勝ちたい』
《先頭キセキノアシ! 和多騎手しごいて左ムチが飛ぶ! 内からステイファートム! 並びかけてゼッフィルド! 外からドゥラブレイズもきて、最内に潜り込んでタマモクラウンだっ!
後ろからはマカマカ、メイショウザクロス、バーストインパクト、ライムライト、サレグスもいるが団子状態で伸びが悪い! サザンプールは沈んだっ!
キセキノアシを交わして先頭はステイファートムとゼッフィルド! タマモクラウン内から追いすがる! ドゥラブレイズも来ているぞ!
この4頭だ! 抜けたのは真ん中ステイファートム! 外で並んだゼッフィルド! 僅かに、前に出て! 2頭になった!
タマモクラウンは、1馬身差が詰まらない! ドゥラブレイズは4着か!?》
タマモクラウンが後ろにいる。いつも俺の後ろに居るなコイツ! クソっ、さっきの挑発に乗ったせいで変な力が入って体力が……!
やっぱ日本ダービーより長いな、体力が、持たないかもしれん。脚を、止めるな! 動かせ! コイツにだけは負けるな!
『お前には、負けん!』
『ごちゃごちゃうるさいなぁ……今はレース中なんだぞぉ? だから……俺が見てるのは、ゴールだけぇ!』
は? ……あ、やべぇ。ゼッフィルドがちょっと前に出てる。俺も伸ばせ! 伸びろ! ちょっとだけで良いから。ほんのひと伸びだけでいい!
……あぁぁぁぁぁ!!! また負けるのか!? お前だって体力は無いはずだろ? 脚が辛いはずだ! 悲鳴をあげてるはずだ!
なんで残り50mから伸びるんだよ! なんで俺は伸びないんだよ! ……さっき、無駄な体力を使ったからか? 挑発に乗って……。
《先頭ステイファートム! ゼッフィルド抜けたか!? 最後の1冠掴むのは! どっちだどっちだ! ゼッフィルドが僅かに前に出たぁぁぁ!!!
勝ったのはゼッフィルド! 故障に泣いた春クラシック! しかし掴んだ最後の切符! 無駄にはできない1戦たりとも! 全身全霊で菊戴冠!!!
今ここに、無敗の、4戦4勝の菊花賞馬が誕生しました! 主戦となったルモール騎手の魂の雄叫び! 湧き上がる興奮を隠そうともしません! タイムは3:00:5のレコード!
そして……ステイファートムはまたしても2着。そして3着にはまたしてもタマモクラウンが入線しております》
……負けた。負けた負けた!! また負けたっ!!! なんでだ!? なんで俺は勝てない!?
『はぁぁ……1つ言っとくけどさぁ、君ねぇ、バカじゃないの?』
『ん、だと?』
『だって、君は俺のことしか見てなかったじゃん。ちゃんとゴールを見ろよなぁ。もし俺がずっと後ろで来なかったら、君は多分後ろにいた子に抜かされてたよ? 何故かって言うと、挑発に乗って俺しか見てないんだもんねぇ。……競馬舐めてんのどっちだよ? ゴールも見ないで勝てるわけねぇだろ』
『……!』
『だから君の方が強いけど負けるんだよねぇ。それと……俺も命を賭けて、魂を燃やして走ってるからねぇ。偏見はやめてくれよぉ? あぁ……やっぱ脚、怪我しちゃってるかもぉ』
そう言ったゼッフィルドの脚は明らかに異常があるのがわかった。コイツが言うには怪我しているらしい。あの時の……新馬戦の時の、俺と同じって事か。そりゃぁ、勝てねぇわ。
こっちは挑発に乗って集中力を欠き、体力を無駄に消費して、最後のひと伸びも出来なかった。……そうだよ、競馬はレースなんだ。
18頭で走ってるんだ。狙いを定めた1人と競い合ってる訳じゃない。……こんな当たり前のことに、俺は気づいてなかった。
皐月賞は執念の徹底マークと垂れた馬の不利を受けて2着、日本ダービーは油断と慢心で予想外に上がってきたクレイアスにビビって2着。そして今回は……レースに向き合わなくて2着。
これじゃ今までの俺は格下相手にスペックだけで勝ってきた雑魚狩り専門役。身体能力だけじゃ……このままじゃGIには、届かない! ……あぁ、競馬って、勝つって、難しいんだな……。
1着 ゼッフィルド
2着 ステイファートム クビ差
3着 タマモクラウン 3/4
4着 ドゥラブレイズ 1
5着 メイショウザクロス 3
タイム 3:00:5(R)
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