第29話~GI菊花賞《前編》~

京都競馬場第11R:菊花賞 <GI>(芝・良・右・3000m)



《秋風の吹く淀川の隣で今、クラシックロード最終地点、GI菊花賞が幕を開けようとしています。2度の坂がある京都3000m。3歳馬にとっては苦しい戦いとなるでしょう


皐月賞馬、日本ダービー馬、そして2歳GI馬は不在。ここに集う猛者の中から初めてのGIタイトルを手にするのはどの馬なんでしょうか? 実況は私、明智と》


《解説の細田でお送りさせてもらいます。明智さん、ついに最後の1冠、菊花賞が始まろうとしていますね。私の推しのロードクレイアスは凱旋門賞で惜しくも3着でしたが


強いと話題のあるこの世代。そして最も強い馬が勝つという格言のあるレース。ここを勝った馬が世代を統べると言っても過言ではないんじゃないですか?》


《えぇ、私の推しはステイファートムですが、是非最強の名を手にして欲しい気持ちです。それでは現在の単勝オッズを確認していきましょうか》



1番人気ステイファートム2.1倍

2番人気ゼッフィルド3.4倍

3番人気ドゥラブレイズ7.9倍

4番人気タマモクラウン8.2倍

以下15倍程度で続く



《さて、皆さんおまたせしました本馬場入場です! まず1枠1番! トライアルGII神戸新聞杯を4馬身突き抜けての圧勝。春の悔しさは秋の京都で覚醒する。初めて迎えるGIでの堂々1番人気①ステイファートム鞍上横川勤!


春クラシック共に怪物に阻まれ無冠に終わりマイル路線へ向かった父サリオスが挑戦しなかった菊花賞へ、その息子が挑みます。神戸新聞杯2着の②サレグスと鞍上 梅山うめやま騎手!


ダートからの転向で才能開花! 芝未勝利から破竹の3連勝で芝GIの舞台に登り詰めました③ライジングエコーと鞍上──!


去年の夏デビューから半年以上の未勝利戦。春先からついに染み出してきた旨みは菊の花を添えて飲み干したい④ダシコンブと鞍上──!


初のGI舞台。3戦3勝。未だ無敗馬で2度走ったGIIでは共に完勝。親子は共に三冠馬。この1冠だけはどうしても譲れない2番人気⑤ゼッフィルドと鞍上はルモール騎手!


ゲート難でありながら陣営は試行錯誤を続けました。その結果は条件戦での圧勝劇。重賞でも見せ場十分なクラシック皆勤組の実力をとくと見よ! ⑥バーストインパクトと鞍上は沼添騎手!


こちらは3勝クラスを勝って晴れてのオープン入り。最初に見据えた初の重賞はなんとGIの舞台。3連勝で駆け上がれ⑦ナムサンストックと鞍上──!


若駒Sで見せた強さを今再び。こちらもクラシック皆勤組の1頭⑧サザンプールと鞍上──!


父が取った日本ダービーでは5着と掲示板を確保。ならばこの悔しさは父が出走できなかった菊の舞台で晴らそうじゃないか! ⑨マカマカと鞍上──!


前走で見せたロングスパートはGI舞台の今日も炸裂するのか! ⑩グランジェクトと鞍上──!


日本ダービーは抽選漏れで出走できませんでした。しかし父キセキは夏の上がり馬として名を挙げ豪雨の中で菊花賞馬になりました。さぁ見せてくれキセキが見せた奇跡の足を! ⑪キセキノアシと鞍上は和田騎手!


古馬を含めたスーパーGII札幌記念を勝ったタイトルホルダー産駒⑫ドゥラブレイズ。父が格の違いを見せた菊花賞の舞台でGIに届くかどうか。鞍上──。


夏の上がり馬として挑んだ神戸新聞杯ではステイファートムの5着。クラシック組との差を痛感した悔しさをバネに悪夢を起こそう! ⑬デビットガイアと鞍上──!


ロマン血統と侮ることなかれ! 若葉Sで見せた2馬身差の完勝はその目に焼き付いているぞ。最後の1冠取るのは俺だ。⑭メイショウザクロスと鞍上──!


重賞2着3回、GI3着3回。しかし未だ勝ち星は上げられない。世代屈指の実力はこの菊の舞台で開花させるか、最強の未勝利馬⑮タマモクラウンと鞍上 磐田いわた騎手!


逃げ先行、差し追い込み、全て異なる戦法で勝ち上がってきた異質さと底知れぬ魅力が臨機応変に出現する。さぁ舞台をひっくり返そう! ⑯ライムライトと鞍上──!


GII京都新聞杯を最低人気から覆したその実力。フロックと侮ることなかれ⑰ミッキーブラットと鞍上──!


1勝クラスから臨んだ皐月賞は掲示板確保の5着。王の名を冠する者として譲れない物がある! ⑱クラフトオーと鞍上──!


以上、全18頭のご紹介でした。それでは──》



【馬番】

①ステイファートム

②サレグス

③ライジングエコー

④ダシコンブ

⑤ゼッフィルド

⑥バーストインパクト

⑦ナムサンストック

⑧サザンプール

⑨マカマカ

⑩グランジェクト

⑪キセキノアシ

⑫ドゥラブレイズ

⑬デビットガイア

⑭メイショウザクロス

⑮タマモクラウン

⑯ライムライト

⑰ミッキーブラット

⑱クラフトオー



***



 ふははは! ついに、ついに時が来たぞ! 最後の1冠、GI菊花賞とやらだ! さぁ! 予想通りディープゼロスの奴は居なかったがロードクレイアスの奴には復讐してや──…………あれ?


 周りを見渡してもロードクレイアスの奴が居ない。……ま、まさか、あいつまで消えるのか!? この三冠レースって勝ったやつから勝ち抜けていくシステムだったりして!?


 だからタマモクラウンの奴がいたり知らない奴が増えていたり……? いや、なら勝ってない他の馬も居なかったり増えたりしてるからそうじゃないのか?


 うん、分からん! ただ言えることは、ライバルが不在って事だけだ。え、タマモクラウン? あいつはいつも俺の後ろにいるモブキャラだし格付けも済んでるでしょ?



『ボクは今日こそ勝つんだぞぉぉぉっ! ちょっとファー君聞いてるのっ!?』



 はいはーい、タマモクラウンが絡んできたけど無視だ無視! ……それにしても、日本ダービーに比べたらメンツが寂しいな。


 いや、ディープゼロスの印象も強かったから皐月賞が一番メンツ的には良かったかも? ……この前に倒した奴らが数頭いるし、後は他のレースで倒した奴らばっか。


 知らない馬はライジングエコー、ダシコンブ、グランジェクト、ライムライトの4頭と、そして……。



『ゼッフィルド、か……』



 先に挙げた4頭は似たようなレベルだ。タマモクラウンより明らかに弱い。たたコイツだけは違うな。ディープゼロスとロードクレイアス……には及ばないと思いたいが、比べることができる程度には強いと思う。


 多分、タマモクラウンと同じかそれ以上だ。だってオッズを見ても俺が一番人気だが、ゼッフィルドって奴が結構僅差で2番人気になってやがるんだからな。


 今まで見たことも無かったが、コイツには十分気をつけなければ。ん、横川さんもゼッフィルドに注目してる。やっぱ今回の強敵はアイツって訳ね。任せろ!



『……はぁ、また走るのかぁ。嫌だなぁ、面倒くさいなぁ……』



 ん? 今のセリフを吐いた奴は誰だ? 今すぐ出てこい! 蹴り飛ばしてやるからさ。そんで出ていけ! 誰だよ!


 ふざけるなよ! 俺は勝つためにこの舞台に立ってるんだ。他の奴ら……タマモクラウンなんかもそう思ってる。なのにそんな気持ちのやつがいたら邪魔にしかならんだろうが!


 そう思って発言の主を探すが、幸いにしてその相手はすぐ見つかった。ただ、その相手が幸いかは分からない。だってさっきの気弱な発言をしたのは2番人気のゼッフィルドだったのだから。



『よりにもよってお前かよ』


『えぇ? なにぃ? 俺になんか用なのぉ?』


『俺と差のない2番人気だからどんな奴かと期待したら、こんな卑屈無気力野郎なんて最悪の気分だ』


『だってぇ、俺って走る度に怪我するんだよぉ? こんなの怪我するために走ってるようなもんじゃんかぁ』



 なるほど。コイツを今まで見なかったのは、強かったけど身体が丈夫じゃなかったせいで……もしくは、無いと思うが俺の新馬戦のように全力を尽くしすぎて壊れて休息を取っていたからって訳ね。


 て言うか怪我をして、そんで休み明けでのレースを走るのにこいつは俺と差が無い人気を持っている。なんて野郎だ。非常にムカつく!



『怪我……確かに痛いさ。辛いさ。だからって俺達は走ることを止めたりなんてしてたまるか! 俺達は命を燃やしてこの場所に立ってる。栄誉や名声を得るために! それを面倒くさいなんて言ってるなら他の馬の邪魔だ。レースに参加すんな!』


『う~ん、それは嫌だなぁ。どうせ走らされるしぃ……どうせ走るなら1着が良いでしょ? 名誉とかはどうでも良いけど、負けるのも好きじゃないんだよねぇ……嫌々だけど、走る以上は勝つ。それが俺の主義』


『……そうかよ、なら全力で掛かってこい。ぶっ潰してやる』


『怖いねぇ君。……俺は俺の競馬をするだけ。もし競り合ったらその時にまた』



 ゼッフィルドの奴はマイペースな様子でそのまま俺の傍から離れていった。ちっ、ムカつく奴だぜ。ディープゼロスは世の中を舐めたぼっちゃんって感じだったし、ロードクレイアスは自然と相手を見下していたが、2人とも競い合う良いライバルって認識だった。


 ただアイツは好きになれねぇな。2人はゼッフィルドと違ってレースには真剣に向き合う姿勢を見せていた。今のアイツからはそれが感じられん。……最後の1冠とかはどうでも良い。勝つ! 絶対に勝ってやる!


 そう考えているうちにレースは近づいていた。

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