第18話~皐月賞《後編》~

《軽いアクシデントはありましたがロードクレイアスも無事収まります。今日、この世代で最も速い馬が決まる第××回皐月賞スタートしました!》



ガコンっ!



《おおっとロードクレイアスはまさかの出遅れ! バーストインパクトは何もしてませんよ! そしてスっと前に出たのはステイファートム。そのまま1番手に……はならない。横からシャドーフェイス、最内ジェミニリストの逃げ馬2頭が姿を見せて激しく先頭集団を引っ張っていきます!》



 最高のスタートだっ! でも前に戦ったこともある2頭が前でめっちゃ競り合ってる。あ、俺はこの位置をキープね。問題ないよ、ちゃんと脚も残しておくから。


 それにしても、走るコースは前回と一緒だな。出てすぐに急坂があって、このまま1周して最後にまた急坂を登った所がゴールか?



《そこから少し離れて3番手にキセキノアシ。後ろにトーセンベルベット。外にステイファートムで……居ましたディープゼロスは中段寄り、そして1番人気のロードクレイアスは最後方! 各馬第1コーナーを回ります》



 ふっ、俺の華麗なコーナリングを見よ! お、掛かってるわけじゃないよ横川さん! 確かに調子には乗ったけど。



《さぁ、向こう正面の長い直線に入ります。先頭は結局シャドーフェイスが引っ張りそのすぐ後ろにジェミニリスト。そこから3馬身ほど離れてダリア賞勝ち馬キセキノアシ。すぐ後ろにホープフルS3着のトーセンベルベット。そして、2頭を見る形で2番人気の弥生賞馬ステイファートムと横川ジョッキーはここ!


ステイファートムをマークするようにサザンプールとデュクシーンの2頭。クラフトオーがいて、その後ろに居ました3番人気の2歳王者ディープゼロスと福長ジョッキーはここ!


その後ろに外ヘクターソン、内タマモクラウン、真ん中コングレイルの3頭がいて、ゲートをちゃんと出たシラガネギがいます。


ここで半分の1000m通過タイムはなんと56.9秒!? これが3歳馬か!? マイル戦並のタイム! 短距離馬の逃げがレースをかき乱すぞっ!


そこから3馬身ほど切れてドゥラブレイズとメイショウザクロスおっとここでバーストインパクトが仕掛けた! いやこれは掛かっているぞ!? 我慢できなかったか!? 鞍上沼添はロングスパートに切り替えたか!?


そしてマチカネテキサスがいて1馬身ほど離れた最後方に1番人気のロードクレイアスです。大外枠からあの出遅れを巻き返すことが出来るのか、注目しましょう!》



「前は潰れるな。上手く抜け出して1着取るぞ」



 お、前の馬が仕掛け出したぞ。あれは……キセキノアシか。んで後ろにいた……サザンプールが俺の横から覆い被さるように出てきて、ここでまたコーナーがやってきたぞ。



《さぁ第3コーナー。ステイファートムはまだ中段前寄り! ディープゼロスは中段後ろ寄り! そしてロードクレイアスは依然として最後方から追い出そうとしているが!?


さぁ、三強か! 伏兵か! 各馬に思いを乗せて、後は中山の短い直線コースを残すのみ!


垂れたシャドーフェイスを交わしてジェミニリストが先頭に立つ。真ん中からキセキノアシ! ステイファートムはまだ上がって来ない!


真ん中からディープゼロスがサザンプールを交わしてきたぞ! そしてなんとクラフトオーも来た!


そしてそして、大外から一気にタマモクラウンとドゥラブレイズ! さらに1番人気のロードクレイアスも最後方から伸びてきている!


先頭はジェミニリストとキセキノアシ! 2番手ディープゼロス! ステイファートムが内から一気に来る!》



 くっそ! あのバカ逃げしてたシャドーフェイスの奴が邪魔でせっかくのダッシュが不発に終わっちまった! 外はサザンプールの奴が塞いでて出れなかったし……。


 横川さんが促してたし言う通り脚を使ってでも出るべきだったか。俺はてっきり前走の結果、逃げ切りを許すかもって展開を思い出して焦ったんだと勝手に納得して無視しちゃった失敗した失敗した失敗した!!!


 でもジェミニリストとキセキノアシ、前の2頭は交した。んで1番前にいるのが……ディープゼロス! 前回は俺が一番前だったけど、今回は俺が追いつく番か。良いぜ、俺の脚に怯えろ!



《残り200を通過した! 先頭は変わってディープゼロス! 内からステイファートム! 3番手にタマモクラウン。ロードクレイアスも凄い脚だが届くかどうか!?》



 ディープゼロスの鞍上は見えた。でもあと少し、横顔が見えない。クソ、外からも何頭か来てたし、もしかしたら2着も無理なのかもしれない!


 嫌だ! また負けるなんて嫌だ! 勝ちたい! 勝ちたい! 勝ちたい! あと少し……あと、少しでディープゼロスの横顔が見えそうなんだ。


 あと半馬身! ……あとクビ差! 徐々に差は縮まってる。横川さんが激しく動かす手網。それに苦しそうなディープゼロスの息遣いも聞こえた。


 そしてようやく……ディープゼロスの奴がハミを噛み締めて、懸命に顔を前に押し出そうとする横顔が見えた。よし、追いついた。ここから追い越せば……! 少しだけ鼻を先に伸ばして……!



「ファー、ファー!」



 急に失速したディープゼロスをあっという間に交わして先頭に立つ。そんな時に横川さんの言葉が耳に入って、ふと我に返った。


 慌てて周りを見渡して見る。今の俺は第1コーナーも走り終えており、レースのゴール版はとっくに過ぎ去っていた。


 …………あぁ、レースは終わってたのか。……あれ、勝負は? 勝ったの? それとも……負けたの?



『ふぅ、ふぅ……』



 まだ整わない息をなんとか抑えながら、ゆっくり戻ってターフビジョンに目をやる。



?着 ⑥ディープゼロス 

?着 ⑪ステイファートム 写真

?着 ⑨タマモクラウン 1 1/2

?着 ⑱ロードクレイアス 写真

5着 ⑩クラフトオー 2



《大接戦! ディープゼロス福長の無敗皐月賞制覇か、ステイファートム横川のGI2勝目か! 外から急追タマモクラウンとロードクレイアスも写真判定。そこから2馬身差離れて飛び込んできたのはなんとなんとクラフトオーです》



 まだ、確定してないのか。タマモクラウンとロードクレイアスの奴がちょっと後ろに来てたんだな。んで……誰だよクラフトオーって?



「勝ったはず、勝ったはず! 少なくとも同着だったはずだ」



 横川さんはなんか自信あるらしい。俺は……覚えてない。正直4着だったぞと言われても泣きながら信じるレベル。……もちろん18着とか言われたらさすがに疑うぞ。最後の記憶の位置的にな。



『はぁ、はぁ……や、やぁ。ステイ、ファートム……はぁ』


『お前、息、切れすぎだろ……ふぅ』



 俺も疲れたとは言ってもそれは一気に全力を尽くした感じだ。でもディープゼロスの奴はなんと言うか、明らかに無理をしたって感じだ。


 デブがマラソン走らされたとまでは行かないけど、ちょっと距離適性? って奴がギリギリなんじゃないか? 俺はまだ余裕があるけど、明らかに前に戦った時よりもキツそうだ。



『ふん、今回は……多分、同じだったと思う。だから……次はもう一度突き放して上げるよ』


『はっ、ギリギリな癖に強がるなよ……それよりアイツ止めないと』



 俺の視線の先にはロードクレイアスが負けた自分が許せなくて酷く暴れていた。



『ふん、出遅れなんて気を抜いていたんじゃないのかい? ちょっとガッカリだよ』


『つまづいたとか俺らもたまにあるだろ? 事情は知らんが止めるぞ』


『仕方ないなぁ……』



 そこで歓声が上がる。どうやらターフビジョンに結果が映されたらしい。その結果を見て俺は暴れ、ディープゼロスの奴はついでに喚き散らしてきたタマモクラウンを含めての3頭を宥めるハメになった。


1着 ⑥ディープゼロス 

2着 ⑪ステイファートム ハナ

3着 ⑨タマモクラウン 1 1/2

4着 ⑱ロードクレイアス ハナ

5着 ⑩クラフトオー 2


タイム1:57.9



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明けましておめでとうございます。皆さんの応援のおかげで現代ドラマ週間ランキング入りもするほど伸びています。今年もよろしくお願いします。

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