第17話~皐月賞《前編》~

 へいへーい! やって来ましたGI皐月賞! やーっとGIに立てますよ! 俺の目標は天皇賞・秋なんだけどね。


 でもなんか皆が殺気立ってて怖い。あー、やっぱGIって凄いんだな。こりゃまた期待に応えないと……って、あぁぁぁ!?!?!?



「ん、どうしたファー……って、なるほどね」



 俺と同じパドックでグルグル回っている中に、かの憎きディープゼロスとロードクレイアスがいた。沢村さんが納得した表情を見せる。


 よーし、アイツらもいるのか。次は勝つぞ! 絶対に100馬身は突き放してやる!!!



『あー、ねぇねぇファー君、ファー君!』


『うおっ、お前……タマモクラウンだったか。なんだよ』



 いきなり後ろから馴れ馴れしく話しかけてきたタマモクラウンに俺がビビる。ちくしょ、こいつの距離感なんか苦手だ。てかいつの間にファー君呼びしてんだよ!?



『ボクね、今度こそ勝つんだよ! ボクを応援してくれる皆が頑張れ! 頑張れ! って言ってくれてるんだ』



 へー、そりゃ頑張って欲しいね。お前の戦績は知らんが。てか誰に聞いたのそのセリフ。人間の言葉が分かるわけじゃないだろうし……コイツを慕ってる子馬でも居るのか?



『残念だけど勝つの俺だから。お前は2番で我慢してくれ』


『ブーブー!』



 お、タマモクラウンの奴が列を乱したようで厩務員さんが懸命に引っ張っていく。んじゃまた後で、レースでな。



中山競馬場第11R:皐月賞<GI>(芝・良・右・2000m)



《さぁ、役者は揃いました。今年は非常にハイレベルと称される3歳世代で最も早い馬が今日、決まります。クラシック第一冠、皐月賞です。実況は私、明智です。そして──》


《解説の細田です。明智さん、ついに今日がやって来ましたね! フルゲート18頭、選ばれし18頭の中から3歳世代最速の馬が誕生するんですよ!》


《えぇ、オッズを見てもわかる限り、3頭の怪物と評される馬たちが見事に三強を形成していますね》


《この3頭が同じ新馬戦で戦い、1着と2着同着を分け合いました。その後、うち2頭は東西のGI馬として。最後の1頭はトライアルを大幅な不利を受けながらも勝ち上がってきました》


《えぇ、皐月賞はこの3頭による熾烈な争いが予想されます。三強か、あるいは思いもよらぬ伏兵か。個人的に私はステイファートム推しです》


《ちなみに私はロードクレイアス推しです。明智さん、そろそろ本馬場入場ですよ!》



 真っ白な馬体の誘導馬に導かれて皐月賞を戦う選ばれし18頭の馬が姿を見せた。



《まず姿を現したのは1枠1番、逃げに最適な枠を得た逃げ馬ほど怖いものはありません。怪物にも届きかけたその脚が牙を向く。①ジェミニリストと鞍上──。



続いてはGIIIきさらぎ賞での最後に見せた豪脚の抜けっぷりは三強にも通用するのか。②マチカネテキサスと鞍上──。



若駒Sで見せた3馬身差の圧勝。弥生賞3着から掴むはクラシックの第一冠目。③サザンプールと鞍上──。



京成杯の勝ち馬④コングレイルです。3戦3勝の無敗街道は続くのか。鞍上は──。



さぁキセキファンの皆さんお待たせしました⑤キセキノアシです。OPダリア賞の勝ち馬。初の重賞舞台で見せるは奇跡の脚! 鞍上は父キセキの晩年の主戦騎手、和多ジョッキー!



三強の一角がターフに姿を現しました2歳王者⑥ディープゼロスです。去年の最優秀2歳牡馬。そして父コントレイルと同じ3戦3勝で無敗のまま皐月賞に駒を進めます。鞍上は父の背中を世界で1番知る男、福長ジョッキー!



その逃げはまさに暴走機関車。荒れ狂う狂気の短距離馬がクラシックに電撃参戦。あっと言わせてみせよう⑦シャドーフェイスと鞍上──!



芙蓉Sの勝ち馬⑧デュクシーンです。前走弥生賞4着から得意の2000mで巻き返せるか。鞍上は引き続き──です。



未完の大器が顔を見せました。異例の未勝利ながら重賞はおろかGIでも馬券内を確保。トライアル、スプリングSでも2着で権利を取りクラシック1冠目へ挑みます。最強の未勝利馬こと⑨タマモクラウン! 鞍上は共にGI未勝利の──。



2分の1の抽選突破組、前走一勝クラスの辛勝から場内をあっと言わせるか、⑩クラフトオーと鞍上──!



第3の怪物です。母母父トウカイテイオーの血を受け継いだその脚で見せたテイオーステップ。しかしマスコットと侮ることなかれ。

不利を受けて最後方になりつつも見せたその末脚はとても先行馬とは思えません。トライアル弥生賞の勝ち馬⑪ステイファートムと、鞍上は母の背中を知る横川ジョッキー!



札幌2歳Sの勝ち馬⑫ヘクターソン。それ以降勝ち鞍はありませんが、堅実な走りで掲示板は外していません。鞍上──が共にGI初制覇を狙います。



続いてこちらが⑬シラガネギ。ラジオN杯京都2歳Sの勝ち馬です。ゲートが苦手な彼にピッタリの鞍上──が手網を握ります。



GIII共同通信杯を3馬身差の完勝。父タイトルホルダーが取れなかった皐月のタイトルは息子が取ります。⑭ドゥラブレイズと鞍上は──!



最低人気を覆して年末のホープフルSはなんと3着。今年も波乱を演じるのか⑮トーセンベルベットと鞍上──!



世紀末覇王とそのライバルの血が混ざったロマン血統。ダート出身ながら若葉S覇者となった彼が1冠目を制するのか! ⑯メイショウザクロスと鞍上──。



ゲート再試験に平地競走再試験を共に1回ずつ。果てしない苦労を乗り越えてGI出走への権利を手にした厩舎と騎手と競走馬に訪れるのは悲願のGIタイトルか果たして。⑰バーストインパクトと鞍上は癖馬のスペシャリスト沼添ジョッキーに乗り替わってます!



最後の1頭、そして最後の怪物です。父はGI8勝を上げて二年連続年度代表馬に選出されたロードクレセント。その初年度産駒が父の果たせなかった皐月賞制覇に大外枠から挑みます。⑱ロードクレイアスと鞍上は父の背中を知る競馬界のレジェンド竹豊!



以上、18頭の本馬場入場です》


【馬番】

①ジェミニリスト

②マチカネテキサス

③サザンプール

④コングレイル

⑤キセキノアシ

⑥ディープゼロス

⑦シャドーフェイス

⑧デュクシーン

⑨タマモクラウン

⑩クラフトオー

⑪ステイファートム

⑫ヘクターソン

⑬シラガネギ

⑭ドゥラブレイズ

⑮トーセンベルベット

⑯メイショウザクロス

⑰バーストインパクト

⑱ロードクレイアス



 うっわ、めちゃ観客いるじゃん。過去最高だぞこりゃ。……人がゴミのようだ。



『やぁ、久しぶりだねステイファートム』


『お、ディープゼロス』


『君ともう1人……ロードクレイアスと戦えるのを楽しみにしていたよ。他の馬じゃどうも歯ごたえがなくてね。精々、僕を楽しませてくれたまえ』


『そりゃ無理なお願いだ。俺が勝ってお前が泣いちゃうんだから』


『くく、そんな口を聞いてくるなんてやっぱり君は面白い。決着はレースで付けようか。それじゃ』



 ディープゼロスの奴が去っていった。早くあの王様気取りのやんちゃ坊主を俺の足でぶちのめしてやりてぇ。



『ねぇ……さっきの言葉、訂正した方が良いよ』


『んで次はロードクレイアスか。ん? 訂正だと?』


『うん。勝つのは……俺、だから』


『……はは、なんだそんな事かよ。じゃあ訂正する必要はねぇな』


『親切心、だったのに……じゃ、後で訂正しておいてね』


『そりゃ聞けないお願いだ。レースで潰してやるよ』



 最後にタマモクラウンは……お、来ないな。さっき俺に絡みにいったせいで向こうの人達から行かせないよう警戒されてるじゃん。



《あ、そろそろスターターが立ちますね》



 おー、金管楽器の壮大なファンファーレだ。今まで聞いたことない曲だな。終わるとすっげぇ大きい拍手と歓声が聞こえてきた。半分ぐらいの馬がびっくりしてるぞ。



《さぁ、まずは奇数番号の馬からゲートに収まっていきます。心配なのは⑰バーストインパクトですが今のところは大人しいです。



そして大外枠のロードクレイアスが収まろうとしておおっと、バーストインパクトが暴れています。沼添が1度降りまして……再度跨りました》



 お、ゲート入りが始まっていくな。今回は奇数番号だから先に入ってと……。んで次々に他の馬も入っていくな。ん? なんかちょっと騒がしい気がするんだが? ……おっと、集中集中!



《軽いアクシデントはありましたがロードクレイアスも無事収まります。今日、この世代で最も速い馬が決まる第××回皐月賞スタートしました!》



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皆さん今年もお疲れ様でした。本作ともども来年も引き続きよろしくお願いします。

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