第19話~皐月賞その後~

「あれは勝ってました! 少なくとも同着でした!!!」



 横川の奴が荒れた様子で叫ぶ。あれは……そう言っても仕方がない。なんせ1cm差と言われたのだ。納得しろと言われても無理だろう。



「ファーの方が強かった! 道中から最後まで不利の無かったディープゼロスと違って執拗なサザンプールのマーク、垂れたシャドーフェイスを避けるのに掛かった不利。どれか少しでも緩かったら確実に勝ってました!」


「落ち着け横川っ!」


「でも、荻野先生……っ! 俺が、もっと上手ければ……っ!」



 言いたいことは分かる。むしろ俺もそう思ってる。だが……競馬とは結果が全てだ。そして決まった結果を覆す方法はない。



「あと5m直線が長かったら勝てたな。だから次だ」


「……東京優駿日本ダービー」


「府中の直線なら勝てたろ? しかも相手は距離適性が無いと見た。まっ、ロードクレイアスの方も怖いがな」


「……ファーを、ダービー馬に……やってみせます!」


「その意気だ。んじゃまずは……オーナーへの謝罪だな」



 横川は慌てた様子で宮岡オーナーの元に走って向かい頭を下げたそうだが、戻ってきた様子を見るに何事もなかったようだ。



「全力で乗ってくれたのに降ろすだなんてとんでもない。手を抜かない限り、ファーの主戦騎手は横川さん、あなたです。何よりファーが納得しないでしょうから」



 と横川は言われたらしい。全く、さすがだな宮岡オーナーは。プリモールに当時まだ100勝を上げたばかりの新人ジョッキー横川を乗せてそのままGI舞台も主戦騎手にしただけはある。



「……はぁ、今回以上のデキか。ちっと限界超えるしかねぇな」



 まずは全力を出したファーの奴がどれだけ疲労を溜めているか、またそれらを取り除き、ダービーまでに仕上げるかについて私は頭を悩ませた。そしてファー達は短期放牧に出る。



***



 お、放牧か。……って、母さんや妹ちゃんのいる北海道に帰るわけじゃないのね。へぇ、知らない馬がいるな。そう言えばトレセンでも知らない馬とすれ違ったりしたな。


 たまにめっちゃ生意気だったり凶暴な奴いるんだよ。もちろんムカつくから威嚇したり喧嘩して勝つけど。



『おい、俺はまた勝ったぞ!』


『そうか、死ね』


『はぁぁぁ!?!?!?』



 GIIIの毎日杯ってレースを勝ったらしいタガノフェイルド……フェイの奴が絡んできた。皐月賞を負けた俺にこんな事を言ってくるとか……ムカついたからとりあえず悪態をつく。


 その後はまた模擬レースをして俺の勝ち星を増やす。ふはは! 戦績は俺が4戦2勝でフェイが4戦3勝だけど直接対決して勝ってる俺の方が強い! あとロードクレイアスに負けたお前より勝ってる俺の方が強い!!!



『悪い、死ねは言いすぎたな』


『当たり前だろ!』


『くたばれ』


『一緒じゃねぇか!』



 俺こいつ好きだわ。ノリが結構合うし。そんなこんなで適当に英気を養っていると、衝撃の情報が飛び込んできた。はっきり言って俺は信じられず、フェイの奴に八つ当たりをした。


 それぐらい有り得ない事だった。信じられないことだった。だってそんな事あるはずないじゃないか。だって……ディープゼロスの奴が、俺を2回も破ったアイツが負けるなんて、あってたまるかよ……。


 そんな気持ちを抱えながら、俺は次のレースを迎える。

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