第十五話 マリシーヌ(3)

「と、いうことでマリシーヌがパーティに加わることになった」


 翌日の教室。


 ナインはマリシーヌと一緒に加入申請書をアイシアに提出する。


「よかったです! わだかまりを乗り越えて手を差し伸べたナインくんにも、勇気を出して登校したマリシーヌさんも、二人ともとてもいい子なので、それぞれ10アイシアポイント差し上げます」


 アイシアが加入申請書を受け取り、両手の人差し指を指を顔の横で振る。


「なんですか、そのふざけた非公式ポイントは」


「なんか溜まると頭を撫でられるらしい」


「はっ、ここは幼児科ですの? ああ、でも、殿方はこういうあざとい女がお好きですものね。シスターやら、先生やら、王女やら」


 マリシーヌがやたら王女のところを強調して言うと、髪をかき上げた。


 ナインは「お前も童貞シックスの妄想話を具現化した程度にはあざとい外見だ」という言葉が喉まで出かかったが、我慢した。


「とにかく、これであと一名ですね。次の実習までに何とかなりそうですか?」


 アイシアはマリシーヌの嫌味を特に気にした様子もなく尋ねる。


「その点は余裕ではなくて? ヘレンとかいう女の戦闘力は存じ上げませんけれど、ワタクシとナインだけで余裕でこのクラスの全員を圧倒するだけの力があるのですから、新規加入者の立場からすると寄生できるならお得ですわ。とにかく、新規加入者の実力は問わないということでよろしいんですわよね?」


「ああ。役に立つ奴ならありがたいが、数合わせでも十分だ」


 ナインは頷く。


「決まりですわね。そういうことならば、新規メンバーのスカウトはワタクシが承りますわ」


「期待していますね。それと、先生からの確認事項ですが、マリシーヌさんは授業には不参加でも筆記のテストはトップクラスなので、その点の補講は不要です。ですが、実習の不参加を補うため、規定の魔物を討伐して提出してもらいます」


 アイシアは淡々と告げる。


「わかった。マリシーヌは最低限の討伐ノルマをクリアしてくれればいい。後は俺が魔物を狩ってパーティの平均討伐数を底上げしておく。一位は譲らない」


 期日までに二人加入者が増えると、パーティの平均討伐数は半分になる。


 希釈化されても余裕なぐらいに狩っておかなければならない。


 ナイン自体は正直、他のグループに対する競争心は薄い。だが、まだ一つもナンバーズの夢は叶えられていないのも事実だ。なのでとりあえず確実に達成できそうな、ファイブの『学校をトップの成績で卒業する』くらいは成し遂げてみたいと思う。


「まあ、役割分担としてはそんなところでしょうね。ワタクシの交渉術にかかれば、きっと一人どころかダース単位で応募者が殺到しますわ。箱舟に乗ったつもりでご安心なさって」


 マリシーヌが胸を張る。


「おう、そうか。頼もしいな」


 ナインはほっと息を吐き出す。


 折衝事をマリシーヌに押し付けられるのは素直にありがたい。


 ナンバーズだった頃も、ナインはあまり交渉事が得意ではなかった。


 そういうのは専らファーストの領分だった。


 男からも女も好かれたファースト。最後まで男か女か分からなかったファースト。


 中性的な彼か彼女の記憶を思い出のなかにしまい込み、ナインは効率的な討伐計画を考え始めた。




***************あとがき*****************

 いつも拙作をお読み頂き、まことにありがとうございます。

 マリシーヌちゃんもパーティに加わりました。

 ただの噛ませゲロ要員ではなく、意外としぶとい娘だったようです。

 もし、「おもしろい」、「続きが気になる」、「マリシーヌちゃんが引きこもりを脱出できてよかった」などと思って頂けましたら、★やお気に入りなどの形で評価を頂けるとありがたいです。

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