第20幕 おもかげ
リザベート刑務所でウィルの代わりに留置室に入ったシエルとリーガルは…。
「あの、はじめましてウィルのお母さん!私はシエルです」
「リーガルです」
留置室の柵越しに話す。
「はじめましてぇ。ウィルソンの母のメリルでしす」
3人は挨拶を交わす。
「あれ!ウィルソン•ウィンターズは!?」
看守の1人が奥から歩いてきて、メリルの隣に居た警察官に聞く。
「ウィルソン•ウィンターズは今、ダグラス•ウィンターズの捜索に向かっている。彼の代わりにお仲間さんが留置室で待機中だ」
「何をそんな勝手な…」
「まぁまぁ、大丈夫だから。あなたもパン食べて。私が2人を見張っているから」
メリルが警察官を制止。
「あっ!やっぱり待って!お仲間さんにもパンを持ってくるから!」
メリルはそう言って階段を小走りで上がって行った。
「…あれが本当にウィルのお母さんなのか?」
「…すごいほんわかしてるわね…」
留置室の柵に手をかけぽかーんとしている2人。
「おい、シエル!ボタン閉めとけ」
リーガルはシエルのパジャマのボタンが外れていることを指摘した。
「え?あぁ、ごめんごめん」
シエルは平然とボタンを閉め直す。
しばらくしてメリルがバスケットを持って階段を降りて来た。
「はい、お待たせ~。お仲間さんたちのパン持ってきましたぁ」
パンの入ったバスケットを看守机に置いた。
「良かったら食べて。クロワッサンとクリームパンを持ってきたから」
メリルは右手にクロワッサン、左手にクリームパンを持ち、留置室の柵に手を突っ込む。
「あぁ…どうも…」
「ありがとうございます…」
シエルとリーガルはパンを受け取る。
「メリルさん。お店に居なくて大丈夫なんですか?」
警察官の1人が聞く。
「大丈夫。closeの看板提げてきたから」
そういってメリルは留置室前の看守机に座る。
「このお二人は私が付いているから。あなた方は奥でお仕事していて構わないですぅ。はい。奥へどうぞ」
「あぁ…そうですか。何かあったらすぐに呼んでください」
警察官2人は建物の奥へ消えて行った。
「ウィルソンは…本当に良い子に育ってますね…。安心しました…すごく」
メリルが呟く。
「そうですね。私もウィルのことは6歳の頃から知ってますけど…。本当に強くて、優しい人ですね」
私も幼い頃から稽古や遠征を共にしてきた仲間であり、ライバルのような存在のウィルの成長をずっと見てきた1人だからね。
「俺っちもあいつの成長速度には驚かされますよ。お菓子作りも上手いんです。団員の皆がウィルの料理を喜んでくれる…。凄いやつですよあいつは」
もし、あの時。当時6歳のウィルソンを玄関先で追い返していたら。こんなに"仲間の絆"というものを実感できる事はなかったんじゃないかと思うぞ。
シエル、リーガルもそれぞれ思い返しながらウィルソンの成長をメリルに言い聞かせる。
「お菓子作りが好きか……。やっぱり私に似てるのかなぁ…。…あの人にそっくりな…立派な顔立ちになって…。会えてよかったわ…ほんと…」
年の離れた夫の事を心から信用していたわけでは無いけれど…。私が手放してしまったあの日から…生きてさえいればって…半分諦めていた私を許してね、ウィルソン。
「じゃあ、シエルさん」
「はい?」
メリルに急に呼ばれハッとするシエル。
「これを…後でウィルソンに渡して貰えない?」
メリルはシエルに白い封筒を渡した。
「これは?」
「母親からのラブレター…かな!」
少し弾みながら看守机に戻る。
「はい!必ず、渡します。」
渡された封筒をシエルは懐に忍ばせる。
__________
ウィルソンとマイルの協力により、助け出されたネルソン。マリーの案内で屋敷の中を案内されている。
「へぇー、すごい立派なお屋敷ですねぇ。廊下の至るところにシャンデリアが…眩しいな」
「そうですねぇ、海外から取り寄せは特注品ばかりだとお聞きしております」
屋敷の廊下を歩く3人。屋敷の装飾についてマリーから説明を受ける。
(なぁ、マイル)
ネルソンがマイルに小声で話す。
(なんだよネルソン)
マイルも小声で返す。
(あのメイドさん何歳ぐらいなんだろうなぁ?)
(はぁ?)
(28歳ぐらいかな?若く見えるなスタイルも良いし)
(だからなんだよ)
(押せば"良いこと"ありそうじゃね?誘ってみようぜ?)
(はぁ?俺はいい)
(あっそう)
マリーの後ろを歩く2人のこそこそ話しが終わったようだ。
「ねぇ~メイドさん。今夜一緒に――」
ネルソンがマリーの肩に手を置いた瞬間。
マイルが見た光景は、
肩に置かれていた右腕はネルソンの後ろ手に拘束し、マリーはメイド服のスカートを捲り上げ、太ももに装着さていたホルスターからシースナイフを取り出しネルソンの喉元に突き立てていた…。1秒と掛からない早業で。
「どうかなさいましたか?ネルソンさん」
冷静が表情のマリー
「…いいえ…なにも…」
一瞬の出来事で状況が見えないが、殺されかけたのは確かだ…。
「すごいじゃないですかマリーさん」
マイルが近づく。
「…えぇ。自分の身を護るのもメイドの仕事のひとつですから、ウィルソン坊っちゃまのお知り合いとはいえ、容赦しませんわ」
マリーは優しく微笑んでいた。
すっと喉元のナイフを引き、ホルスターにしまう。
「さぁ、奥で手当てとお食事の準備ですね。こちらです」
「…失礼…しました…」
「ふっ、お前にはまだ手に追えないな」
床に崩れ落ちていたネルソンをマイルは起き上がらせる。
__________
ウィルソンの父親の居る"キルト"に向かうため、夜行バスに乗り込んだウィルソンとアリシアは。
「お父さんの居る街には何時に着くのかなぁ」
「…えっとねぇ…」
運転席上部の時刻表には"キルト市4時33分着"と表示されている。
「4時33分だって、明日の早朝だね」
ウィルは確認した時刻をアリシアに伝える。
「あれ…ここかな…あれぇ…」
アリシアは座席シートを倒すレバーを探して辺りをキョロキョロ見渡していた。
ウィルソンは何も言わず、後ろの席に乗客が居ないことを確認し、座席の下部にあったレバーに手を添える。
「これじゃない?…倒すよ」
「え?あ、うん」
急に倒れて行かないようにシートに手を添え、ゆっくり倒す。
「着いたら起こすから、ゆっくりおやすみ」
ウィルソンは座席に常備されたブランケットを取り出しアリシアの肩まで掛ける。
「ありがとうウィル。おやすみなさい」
アリシアはにこっと笑って目を閉じる。
「おやすみ」
2人が乗った夜行バスは北門ゲートを抜け、林道を走る。東の街キルトを目指す。
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