第19幕 東の故郷へ

ウィンターズ家の屋敷の丘の上。

月明かりが原っぱを優しい照らす。

月明かりの明るさに目がだんだん慣れて来た。


「ネルソンさんとおっしゃるんですね。申し訳ありません。私があなたを驚かせてしまったせいですよね…」

マリーが3人の元に歩み寄り、ネルソンに話し掛ける。

「私はウィンターズ家の屋敷でメイドをしております。マリーと申します。」

「え!あぁ…いや、俺の不注意なんで、こっちこそすいません」

「ウィルもマイルさんもおじさんも無事で良かったぁ」

アリシアも駆け寄ってきた。

「あ!さっきの小っこいのか。ていうか俺はまだ17歳だ!おじさんって呼ぶなネルソンだ」

「小っこいのじゃなくてアリシアよ」

ふん、とお互いそっぽを向いた。

「ごめんよアリシアちゃん心配掛けて」

ウィルがアリシアに話し掛ける。

「3人とも仲直り出来たみたいね。そんな時はこれよ、"みなとまちのパイ~"」

アリシアは肩に掛けていたショルダーバッグから港街でウィルが配ったお菓子を取り出した。

「あ、それウィルが作ったお菓子じゃん」

マイルが反応した。

「ん?なんだそれ」

ネルソンも反応した。

「僕が港街で配ったお菓子だよ。カバンに入れていたんだねアリシアちゃん」

「そうなの。シエルお姉ちゃんが持たせてくれたの!」

「姉さんが」

「ちょうど3つあるから3人で食べてもっと仲直り、ね!」

「ありがとうアリシアちゃん」

「俺もまだ食べてなかったんだぁ」

ウィルソンとマイルがアリシアからお菓子を受け取る。

「ウィルソンの…作ったお菓子…」

ネルソンが渋る。

「食べてみろよ。お前ウィルの作ったお菓子今まで食べようとしなかっただろ」

マイルがネルソンにお菓子を勧める。

「ぉ…おぅ」

ネルソンがお菓子を受け取る。

「はい!せーの!」

「「「いっただっきまぁす」」」

3人同時にお菓子を噛る。

「…こんなに美味いのか…ウィルソンのお菓子…」

「やっぱりうまいぞウィル」

「そっか、ありがとう」

「これで仲直りね!」

アリシアがにこっと笑った。

「……父さんがウィルソンの作った飯をよく誉めていたんだ。その気持ちが分かったよ……」

ネルソンは父親の事を思い出していた。

「あ!そういえば!マリー!今何時?」

ウィルが慌ててマリーに聞く。

「今ですか?…20時52分ですね」

マリーは持っていた懐中時計で時間を確認する。

「マズい!バスの時間が!アリシアちゃん行こう!」

「あ!そうだった!」

ウィルソンはアリシアと手を繋ぎ、階段を降りていく。

「…お気をつけて…」

「なんだ?」「さぁ」

マイルとネルソンは顔を見合せた。

「あ!皆さん夜も遅いです。良かったらお屋敷で休んでくださいませ」

マリーが提案した。

「えっ!いいんですかメイドさん!」

ネルソンが反応した。

「ありがとうマリーさん。宜しくお願いします」

マリーの案内で屋敷に入って行く。

「お前背中ビリビリに破けてるじゃねぇか」

「あ、どうりで寒いと思ったぜ」

「怪我をしているかも知れませんね。手当てしないと…」

___________


階段を降りたウィルソンとアリシアは。

「バスどこで乗れるのかなぁ」

「市街地に行けばバス停あるかもね」

サーカス団の馬車が止まるホテル前に近づく。

隣の駐在所の掲示板に目が行った。

蛍光灯で照らされている。

"逃走犯ダグラス•ウィンターズ"の貼り紙。

「お父さま…、何があった…」

「この写真がウィルのお父さん?」

「…そう…だね」

薄金の髪をオールバックにして、黒淵メガネを掛けている。キリッとした目付き。

いつ撮られたものかは分からないが間違いなくお父さまだ…。

隣にはバスの時刻表の貼り紙。

「ぁ…」

夜行バスの出発時は"21時26分"と記されている。

"リザベート市役所前バス発着所"。

「急ごうアリシアちゃん」

「うん!」

2人は市役所に向かうため、市街地への坂道を登る。坂道沿いのショップは閉まっていて灯りが疎らだ。

坂道を登り突き当たり。

「あ!バス停!」

アリシアが北の方を指差す。

バス停前には深緑色の2段の寝台バスが停まっている。

まだ出発はしていないようだ。

2人はバス停に近づき、バスのドアに手をかける。

「大人1人と子供1人。"キルト"までお願い出来ますか?」

ウィルが運転手に聞く。

「はい。子供は何歳です…アリシアじゃないか?」

「マイクお兄ちゃん?!」

アリシアと運転手が声をあげた。

「知ってるの?アリシアちゃん」

「うん。ジニーのお兄さんで"マイクお兄ちゃん"」

知り合いだった。

「いや~、正月振りだな。っていってもそんなしゃべってないけど…」

マイクがアリシアに笑って話しかける。

「お兄ちゃんもバスの運転手とは聞いていたけどこのバスを運転しているなんて!」

「まぁいいや。もう出発時間だからドア締めるぞ。"ドア締まりまぁす"」

プシューと空気の抜ける音と共にバスのドアが閉まる。

「キルトまでだと大人は4200Gだ。アリシアは1200Gだが、俺が後で出しておいてやる」

「そんな!良いんですか!?」

ウィルソンがマイクに聞く。

「良いよ。ご近所さんの好みってやつ」

マイクは答えてくれた。

「お兄さんは4200Gだよ」

「ぁ…って言っても何も持ってない…」

急に警察官に連行されて、何も準備していなかった。

「4200Gね。待ってて」

アリシアはショルダーバッグを漁る。

「えっ?あるのアリシアちゃん!?」

「あるよ、お母さんに10,000G貰ってきたもん」

アリシアはバッグからピンク色の財布を出す。

「はい!マイクお兄ちゃん」

「確かに。満席じゃないから好きな所乗ってな。"出発しまぁす"」

号令と共にクラクションを短く鳴らす。

アリシアはウィルの手を引き席に座る。

「ワクワクだね!ウィル」

「ぁ…、う、うん」

アリシアはにっこにこな笑顔でウィルの顔を見る。

バスが動き出す。

お父さまが居るというキルトに向かう。













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