第18幕 素直な気持ち

赤レンガ造りの街並みと商業の街リザベート。

今から25年前、リザベート政府は観光と商業の発展に力を入れるため、街の景観が崩れると市街地の中心部にあった「リザベート刑務所」を廃止。

リザベート郊外の"ハインズ"という村の一画を政府の所有土地とし、その民家の地下に刑務所の新設及び収容者の移送が行われた。

その2年後、元リザベート刑務所の建物を買取し、"ダヴィンチスーツ"のアパレル会社を立ち上げたのが"ダグラス•ウィンターズ"の父である前社長の"ジーク•ウィンターズ"である。

しかし、リザベートの街に"ダヴィンチスーツ1号店"を開業して2年後、ジーク•ウィンターズが逝去。25歳の若さでダグラスが経営を引き継ぐことになったのであった。


そしてウィルソンが連行された刑務所では…。

パンを届けに来たメリルの衝撃の一言にびっくりする一同。

「お父さまがお家に居るって?」

ウィルソンは母に聞く。

「えぇ。あっ、お家って言ってもこの隣じゃなくて、"キルト"にね。ウィルソンが生まれた所よ」

メリルはほんわかした落ち着いた声で話す。

「あれぇ?ウィルソンは何でそんな所に入っているのぉ?…あっ!もしかしてアリシアちゃんに早速"夜のお誘い"したとかぁ?」

「「はっ!?」」

リーガルと警察官がウィルソンを、アリシアとシエルがメリルの顔を見る。

「!!っそんなことしてないよお母さん!!」

「そうよ!ウィルはしないわよ。確かにアリシアちゃんは"ウィルソンLOVE"だけど」

すかさずシエルがフォローに入る。

「!…………くはぁ」

アリシアが顔真っ赤になって床にへたり込む。

「おぉっと、大丈夫かアリシアちゃん」

リーガルがアリシアを起き上がらせる。


「メリルさんどうして隠していたんですか!」

警察官はメリルに聞く。

「隠すっていうかぁ、聞かれなかったしぃ。それに離婚もしてるから他人なんじゃないの?」

「情報を知っていたなら教えて頂ければ良かったんですが…」

呆れた口調で話す警察官。

「じゃぁ、ウィルの父親をここに連れて来ればウィルは解放してくれるのね?!」

シエルが警察官に聞く。

「交換条件ですか?必ず連れて来れる保証はありますか?」

「…それは…」

確かに、途中で逃げられたら終わりだ。

「それじゃぁね。ウィルソンとアリシアちゃんでお父さんを迎えに行ってもらいましょうよ」

メリルが提案する。

「それで誰かがここに残るの。そうすれば何とかしてでも連れて帰ってくるんじゃないかしらぁ」

だいぶブッ飛んでることをまったりと口にするメリル。

「メリルさん…あんまり捜査のことには…」

「お願い。ダメなら私も責任取るから」

「お母さん、そんな約束したら…」

「大丈夫、そんな気がするわ…。あなたもアリシアちゃんもお仲間さんも…顔を見ていたら分かるもの…。信頼してるんだなって」

「……分かりましたよ。では誰を残すんです?」

警察官が母の説得に応じたようだ。

「私が残るわよ!あとリーガルも!」

「!俺っちもかよ…。まぁ、わかったよ」

「決まりね!さぁ、ウィルを牢屋から出して!」

警察官は留置室の鍵を開け、ウィルが外に出る。

「じゃぁ、代わりに2人が入るんだな」

留置室の扉を開けたまま、シエルとリーガルを留置室の中へ手招きする。

(頼むわよウィル)

(わかった)

すれ違いざまに小声で話す。

シエルとリーガルが留置室に入る。

警察官が鍵を閉める。

「ほら!行くよアリシアちゃん」

「……ぁ、あはい!」

ウィルソンがアリシアの手を引き階段をあがる。

「街からの夜行バス21時最終だから急いでねぇ」

メリルが手を振り見送る。

「はぁい、おかあさま!」

アリシアが手を振り返す。


「行ったみたいねぇ」

安堵のため息をつき看守机の椅子に座るメリル。

「本当に大丈夫ですかメリルさん」

警察官がメリルに聞く。

「大丈夫。私の息子ですから。それに…お仲間さんたちにウィルソンのお話聞きたいし!」

「あぁ、そうですか…」

いつもお世話になっている分、警察官もメリルには甘いようだ。

___________


階段を上がり外へ出たウィルソンとアリシアが南門ゲートをくぐる。

外はもうすっかり日が落ち、月が顔を出していた。

「この街にはバスがあるのね。私は漁船にはいっぱい乗せて貰ったけど、バスには乗ったことない!楽しみ!」

「そうか。お父さんは漁師だったね」

「うん。私泳ぎは得意よ!ウィルが溺れたら助けてあげるね!」

「わかった。ありがとう」

頼もしい言葉で元気付けてくれているのかな。

本当に優しい女の子だ。


「ネルソン!」「そんな!」

「大丈夫か!今助けるからな!」

丘の上から聞き慣れた声が聞こえてきた。

「ねぇ!あれ蝶ネクタイのおじさんじゃない!」

アリシアが指差す。

ネクタイが崖の途中で木の枝に引っ掛かり止まっていた。

「大変だ!アリシアちゃんここで待ってて!」

ウィルソンは石階段を上り、丘の上へ急ぐ。

ネルソンは崖下8mの高さの所で宙吊りになっていた。落ちたらただでは済まないだろう。

「マイル!今手伝うから!」

階段下からマイルに叫ぶ

「お!なんだウィル居るじゃねぇかよ。頼む!ネルソンが!」

ウィルソンがマイルの隣に駆け寄る。

2人は地面に寝そべりネルソンに手を伸ばす。

が、もう少し長さが足りない。

「くそっ!もう少しなのに!ネルソン腕を上に伸ばせるか!」

ネルソンが恐る恐る左腕を上にあげる。

マイルが前に乗り出す。ウィルがマイルの背中に右腕を回し、地面から生えた木の根っこを掴む。

ネルソンの手をマイルは掴むことが出来た。

「よし!掴んだっ!右手も上げて俺に掴まれ!」

ネルソンの右手はマイルの手首を掴むことが出来た。

「よし!上げろ!」

ウィルソンの左手がネルソンの手首を掴む。

2人は力を合わせ、ネルソンを引き上げることに成功した。

3人は息を切らし地面にへたり込む。

「…ぃや~、あぶねぇ。悪いなマイル。ウィルソン…」

ネルソンは感謝を口にするが軽く聞こえた。

パシッ! ウィルがネルソンの頬を叩く。

ウィルソンはネルソンの胸ぐらを掴む。

「しっかりしろよ!お前が死んだら誰がサーカス団を守るんだよ!」

「ウィル…」

「マイルだって今僕がここに居なかったら、一緒に落ちていたかも知れないんだぞ!へらへらしてんじゃねぇよ団長なんだから!ふらふらするなよ!お前は団長なんだから!」

「………なんだよ、何も知らないくせに…」

「知ってるよ誰よりも!お前のお父さんは誰よりも家族思いで!息子の悪口は絶対言わない。入団した仲間にはたっぷり愛情を注ぐんだ!知らないのはお前の方だ!入団したら僕たちは家族なんだ!お前が死んだら皆悲しむんだよ!わかったかバカ息子!」

「…もういい。ありがとうウィル」

マイルが優しく止めた。

ネルソンは正座をし、地面に両手をついた。

「…………ごめん…なさい」


ー「なぁウィルソン…。俺の息子のネルソンは、人に甘えるのを恥ずかしがるヤツなんだ…。だからお前だけでもあいつのそばで…、味方で居てやってくれな…」

「団長…。わかり…ました…」ー


「良かった…無事で…」

ウィルソンは安堵のため息をつく。

「ウィルが言ってることは本当だ。俺もシエルも、リーガルだってネルソンが居なくなったら寂しいさ。団長の息子だからじゃない。俺たちは家族なんだ…入団した時から」

マイルがネルソンの肩を擦りながら優しい口調で話す。

「…あぁ…俺だって…、父さんのように優しい団長になりたいさ…」

ネルソンが地面に頭を着けたまま話す。

「ウィルソンの足の怪我だって、治ったら迎えに行こうと思っていた…。次の街に行って公演に参加出来ないんじゃ、もっと辛い思いするのはウィルソンだろ?」

「ネルソン、お前…」

ネルソンの言葉にマイルが反応した。

「じつはさっき…、足の怪我が治ったって話を聞いて安心したんだ。飼育小屋に隠れていたのには驚いたけどな…」

ネルソンは顔を上げ、少し恥じらいながら本音を話す。

「俺の言葉が足りなかったんだ…。本当にすまない…」

「なんだよ…素直に言えば良いじゃねぇか水臭い」

「そうさ、僕たちの間に隠し事は無しだから」

「…ウィルソン…」

「ここの丘の上から…僕の兄さんは落ちて死んだんだ……。大事な人を同じ場所でまた失くすのはごめんだよ…。本当に、良かった無事で」


ねぇネルソン、団長だって息子が病気になったら飛んで駆けつけるんだ。大事にされて無いとか仲間外れだなんて、そんなことないよ。


マリーがロープを手に持ったまま、こちらを見て微笑んでいる。

アリシアも階段を上がって来ていた。






















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