第16幕 父親について

シエルは南門ゲートの保安官に話を聞くことにした。

受付台にバン!と両手をつく。

「おじさん!犯人を閉じ込める牢屋とか近くあるの知らない?!」

シエルは小屋の中で椅子に座る保安官に話し掛けた。

「ぁ?…なんだ、牢屋がどうしたって?」

保安官は椅子から立ち上がり、シエルの前に立つ。

「急になんだお嬢さん!そんな聞いてどうするんだ…ょ…」

「お願い!急いでるの!教えておじさん!」

シエルは紺色のパジャマ姿で第2ボタンまで外れている。受付台に手を付いた状態は、自然と谷間を強調。保安官の目線からは絶景だった…。

「………っ。この小屋の道路向かい。あの家の地下だよ」

保安官はすぐ近くの民家を指差す。

「ありがと!」

シエルは保安官に礼を言い、走っていった。

「サンキュー保安官さん!」

リーガルが追い付いてゲートを抜けた。


指示された民家の前。

「この家の地下?…どうして」

「…はぁ、はぁ…やっと追い付いたぁ…」

リーガルも民家前に到着。

2人は民家のウェスタンドアをくぐる。

民家を入るとバーカウンターと酒瓶がズラリと並ぶ棚は目に入った。

カウンターには人は居ない。

「ぁ、シエルお姉ちゃん。」

右側からアリシアの声がした。

「あぁ、良かったアリシアちゃん見つかって…」

「1人でよく入れたな偉いぞ」

シエルはアリシアを見つけて安心した。

リーガルはアリシアを褒めた。

「この下から警察の人の声がするよ?」

アリシアは地下に繋がっているであろう階段を指差す。

「行きましょ」

__________


ウィンターズ家の屋敷前に居たネルソンは…。

入り口の門の柵の看板には「庭園内ご自由にどうぞ」の文字。

「…入って良いのか…」

ネルソンは門をくぐり庭園に入る。

「"ウィルのことが気にいらない"…か…。おれが言葉足らずなんだな……」


……………


「それじゃダメだウィルソン!そんなんじゃショーには出してやれないぞ!」

「はい!」

パシン!と地面に鞭を打つ音が、稽古場のステージに響く。

「もう一回だ!もう一回!」

「はい!」

リズワルドサーカスの本拠地である宿舎兼稽古部屋。

ウィルソンがリズワルドに入団してから1週間が経つ。

団長の"ゴードン"がウィルソンに綱渡りの稽古をつけている。

2メートル高さの台の上に、ウィルソンが重さ10kgのダンベルを持って立っている。

ピンと張られた5cm幅のロープと、台と台の距離は10m。

平衡感覚の持続力を伸ばす稽古だ。

この稽古を始めて3日目、最初のロープの距離は3mスタートだった。

「見てよ姉さん!あの小っこいの、もう10mだ」

「なかなかやるわね」

観客席で稽古の様子を見ている双子姉弟、シエルとマイルがこそこそ話している。

ウィルソンはロープに右足を乗せ、深呼吸。

ふっ、と息を止めロープを渡る。途中ロープを渡るスピードを緩めるとバランスを崩してしまう。

スピードを保ったままロープを渡るウィルソン。

10mのロープを渡りきり、無事反対側の台に右足を乗せた。

「あわっ!」ドスッ!

台まで渡りきったは良いが、ダンベルを地面に落としてしまった。

「よし!今日はこれぐらいで良いだろう。また明日だウィルソン」

団長の低い声は身体の奥に響く。

「ありがとうございます団長さん!」

ウィルソンはゴードンに頭を下げた。

ゴードンは何も言わず稽古部屋を出ていった。

ウィルソンが台の上でへたり込んだ。

緊張の糸が切れたように力が抜けた。

「あんたすごいわね!もう10mやってるの!」

「まだ始めて3日だろ?」

双子姉弟がステージに上がってきた。

「ぇ?…ぁ…まぁ…ね」

疲れすぎて声が出ない。

「…どうした?」

「なによ、しっかりしなさい!」

シエルがウィルソンの腕を引っ張る。

ウィルソンは立つことが出来た。

「私は"シエル•クラーク"9歳。で、こっちが弟の"マイル•クラーク"。私たち双子の姉弟なの。よろしくねウィルソン」

シエルはウィルソンに自己紹介をした。

「ぁ、うん。団長さんからお話だけ聞いてたよ。赤い髪の双子って」

「へぇ、団長が俺たちのこと話すんだ…」

「分かっていたならそれで良いわ。夜ご飯食べに行こう!」

「うん」

3人は稽古部屋を出ていく。

……「…あの双子も、父さんも…。あんなに楽しそうに……、ウィルソンか……」

___________


次の日、また稽古部屋。


昼過ぎ。

白銀のオオカミが教えてくれたクロヒョウの"レオン"と稽古することになった。

「クロヒョウ…。オオカミさんが言っていた…」

台車に乗った黒い檻の中の漆黒の毛並みのヒョウがウィルソンを見ている。

稽古部屋の照明の反射で整った毛並みがキラキラ輝いて見える。

(初めて見る顔だな…、よろしく坊主)

「はい。お願いします、"レオン兄貴"さん」

(どこで聞いたか知らないが…、懐かしい呼び名だ…)

ウィルソンの両足には5㎏の重り。

「準備は良いかウィルソン」

「はい!」

ゴードンが檻の扉を開け、レオンが飛び出す。

「遠慮はいらないぞレオン…。はじめっ!」

"サーカス団の動物と心を通わせ、信頼関係を築け"という新たな稽古が始まった。









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