第15幕 ウィルソンとネルソン
サーカス団が泊まる赤レンガのホテルにオレンジ色の夕日が差す。
女子部屋組では…。
シャワーを浴び終わり、2人はベッドに座る。
シエルがアリシアの髪をドライヤーで乾かす。
「この服本当に貰っていいの?」
「えぇ、私にはもうぴちぴちで小さいから、アリシアにそのTシャツあげるわ」
「うん!ありがとうシエルお姉ちゃん」
胸元に"Love"と書かれた黒のTシャツは、アリシアが着ると首元や袖が大きく開いている。
胸のところの布は確かに引っ張られて伸びている気がする。
シエルはシルク素材の上下紺色のパジャマ姿だ。
「はい。もういいよー」
アリシアの髪を乾かし終わった。
アリシアはぴょんとベッドから降りる。
コンコン、と廊下の方で音がした。
「隣のお部屋?」
アリシアは女子部屋のドアを少し開ける。
「ぁー、ウィルソン•ウィンターズだな。一緒に来てもらうぞ」
「…え?」
「…な…かの…違いじゃ………」
隣は男子部屋だ。男子部屋の前の廊下に警察官が2人立っているのが見えた。
ウィルと警察の人が何かしゃべってる。
「…ウィル?」
警察官2人の間にウィルが入り、廊下を歩いていく。
アリシアは廊下へ出た。
「ウィルー、どうしたの?」
「ぁ…なんか…、ちょっと行ってく……」
警察官に連れられ階段を降りて行った。
「シエルお姉ちゃん!ウィルが警察の人に連れていかれちゃったー」
ベッドに座るシエルを呼ぶ。
「は?なにそれ!」
シエルは慌てて廊下に出る。
「階段降りて行っちゃったみたい…」
シエルが男子部屋に入る。
バスルームでシャワーの音がする。
ガララッ!
「わお!なんだよ」
リーガルが慌てて股関を隠す。
「ウィルが連れて行かれた!」
「…は?」
___________
シエルはアリシアと一緒に1階へ降りた。
アリシアだけ先に玄関を出た。
「あとそれと……リーガルにはコーヒー牛乳か」
売店に買い物途中のマイルが居た。
「マイル!買い物はあと!ウィルを一緒に探して!」
「え?ウィル?」
マイルは商品を棚に戻し、シエルに駆け寄る。
「警察に連れて行かれたって!」
「は?なんで!」
「知らないわよ。またネルソンじゃないの」
「ぁ…マジかよ」
双子姉弟は外へ出て辺りを見渡す。
アリシアの姿も見当たらない。
「どっちだ?!」
「私は北の方!あんたは南の方を探して!」
「はいよ!」
ふた手に別れてウィルの行方を探す。
___________
少し時間を戻して、アリシアはというと。
「ウィル…どっちに行ったのかなぁ」
ホテルを出たアリシアは辺りを見渡す。
南門ゲートの方に向かい警察官が歩いている。
よく見るとウィルも間に居た。
「あ!いた!」
アリシアはショルダーバッグを肩に掛け、走って警察官のあとを追い掛ける。
ウィルを連れた警察官が南門ゲートを通り過ぎた。
「あれ?そっちってパン屋さんの方?」
ゲートを抜けた警察官は村にある1軒の民家にウィルを連れ、入って行くのが見えた。
「あ、待って!」
アリシアは必死で追い掛けた。
_________
そして双子姉弟。
南の方を探しに行くマイルは…。
少し奥には昼間入ってきた南門ゲートがある。
「さすがに街の外には出ないだろうけど…」
ホテルの隣の駐在所は閉まっているようだった。
「なんで誰も居ないんだよ…。くそ~、全然わかんねぇ!もっとあっち―ガフッ!」
「きゃっ!」
走り出そうとしたマイルが誰かとぶつかった。
「あぁ、ごめんなさい!大丈夫ですか?」
マイルは倒れ込んだ女性に駆け寄り、手を差しのべる。
「…はぃ、こちらこそ申し訳ありません。よそ見をしておりました…」
あずき色メイド服姿の女性はマイルの手を取り立ち上がった。
「メイドさん…ですか」
マイルは女性に聞いた。
「ぁ、はい。丘の上のウィンターズのお屋敷でメイドをしております」
「ウィンターズって…ウィルの苗字と一緒だな」
「ウィル?ウィルソン坊っちゃまとお知り合いですか?」
「ウィルソン坊っちゃま?」
_________
北の方を探しに行ったシエルは…。
「ウィル…、アリシアちゃんも…どこよ」
黒Tシャツを着た少女も警察官に捕まったというウィルもどこに行ったのか検討もつかない。
シエルは市街地の方に向かうことにした。
コンクリートで舗装された坂道を登っていく。
坂道沿いには観光客向けのショップが並ぶ。
ジュエリーショップに目が行った。
ショーウィンドウの棚に一際目立つダイヤのネックレスが…。
「うわー、めっちゃ綺麗!…おっと」
冷静を取り戻すシエル。
「あとでまた観に来よう!」
坂道を登るとT字路で別れていて傾斜になっていた。
シエルは更に坂道を登る。すると目の前の坂道の先に見慣れた蝶ネクタイが立っていた。
「あー!ここに居たなネルソン!」
シエルは走ってネルソンに近づく。
走ってくる足音に気が付いたネルソンは、
「ん?あぁシエルか。今ここに…」
シエルがネルソンの胸ぐらを掴む。
「ホテルに警察呼んだのあんたか!?いくらウィルのことが気にいらないからって警察巻き込むことはないでしょうが!」
シエルは強く怒鳴った。
「俺はあのホテルに指名手配犯の息子が居るって言っただけだ!」
「…指名手配犯?」
「この屋敷。ウィルソンの家みたいだぞ」
2人が立つ目の前に、大きな門と庭が広がった屋敷があった。
「大きなお屋敷ね…」
「ウィンターズの屋敷。ダグラス•ウィンターズはウィルソンの親父さんで、ここはウィルソンの"実家"ってことだ」
「あんたそれを調べていたの?」
「まぁな。ウィルソンをどうしろとかは警察には指示していない」
てっきりネルソンが嘘の情報でも警察に垂れ流したのかと思った。
「それより、警察がどこに犯人を連行するのか知らない?」
「あー、南門ゲートの手前の村って言っていたような…」
「村?…マイルが探しに行った方か!」
シエルは急いで来た道を戻る。
「……なんだ?」
シエルは急いで坂道を下りる。
リズワルドの馬車が停まるホテル前。
シャワーを浴び終わったリーガルが外に出てくるところだった。
「リーガル。あんたも一緒に来て!」
「お?…おぅ!」
南門ゲートに向かう。
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