第14幕 縮まらない距離
サーカス団の馬車は赤レンガ造りの2階建てのホテルの前に泊まっていた。
「あ!サーカス団の馬車!」
アリシアが馬車を指差した。
「そうだね、もうホテルの中に皆入ったのかな?」
ウィルは飼育小屋を覗く。
「やぁ、マリッサ。後でお土産買ってくるからね」
(今度はちゃんとバナナね!バナナ!)
「うん、わかった」
(おれは付いて行くー!)
リズがウィルソンの肩に飛び乗った。
「はいはい…」
ウィルは飼育小屋のカーテンを閉めた。
「……動物とおしゃべり出来るの!?すごいかわいい!」
アリシアが興奮していた。
「あれ?…言ってなかったっけ?」
昔話の途中、いつアリシアが眠ったのか気付かなかっただけかな?
ウィルソンは右腕を伸ばし、アリシアの顔の前に出す。
リズが肩から指の先まで降りてくる。
リズがしっぽでアリシアの頬を撫でた。
「ふふっ、くすぐったい」
客車からシエルが降りてきた。
「も~!チェックインまだ~マイル…。ぁ、ウィルにアリシアちゃん。追い付いたわね」
「なに!ウィル?」
ネルソンが出てきた…。
「お前なんでここに居る!怪我した足は?」
「ずっと飼育小屋に乗っていたわよ!それに怪我した足は、リモエイド湖で治したわ。あんたはいびきかいて寝てたけど!」
シエルが代わりに説明してくれた。
「蝶ネクタイのおじさんひどい!こんなに優しいウィルを置いて行こうとするなんて!」
アリシアが続いて怒った。
「ん?なんだよこいつ」
「この子はアリシアちゃん!港街で私が入団許可したわ」
「はぁ?そんな勝手な…」
「まぁまぁ、そんな怒るな団長」
リーガルが降りて来てネルソンの肩に手を置く。
「こんな可愛らしい子が看板娘なら、お客さんも増えますよ!」
「…そうか?」
「ん?私は看板娘にはなれないってか?お?」
シエルが腕を組み、リーガルを睨む。
「ぁ…、いや~美人なお姉さんが居て俺っちも元気出ちゃうわ~はは…」
リーガルは誤魔化してホテルの中へ入って行った。
「まぁいいわ。ほらウィルもアリシアちゃんも中に入りましょ!私も早くベッドで寝たいわ」
シエルがウィルソンとアリシアの背中を押す。
「べー」
アリシアがネルソンに向け、舌を出す。
「んな!」
ネルソンは1人取り残された。
ホテルの隣は駐在所だった。
「ん?」
ネルソンは壁の掲示板を見た。
掲示板には"逃走犯ダグラス•ウィンターズ"と顔写真の付いた貼り紙があった。
「ウィンターズってウィルソンの…。それに確かこのリザベートって……へ~」
ネルソンが何やら思い付いた。
ネルソンはホテルに入らず、市街地へ消えて行った。
ホテルに入ったサーカス団一行。
マイルは気を遣い、男女別で隣同士で2部屋用意してくれていた。
各自馬車から荷物を運び、部屋に置いた。
女子部屋組では…。
「ねぇ~、一緒に入らないの~」
2日振りのお風呂。シャワーを浴びるシエルがバスルームからアリシアを呼ぶ。
アリシアは脱衣所で戸惑っていた。
(だってお母さん以外の人とシャワー浴びるの初めてなんだもん!)
「…ぁ、…失礼…します…」
バスルームの扉を開け、中に入る。
浴室内は湯気が充満。うっすらシエルの肌が見える。
「あぁ、いらっしゃい。身体洗ってあげよっか」
シエルはシャワーを止め、アリシアに近寄る。
「ぁ…はぃ…」
(…やっぱりシエルお姉ちゃん大きい…。女の子同士だけどのぼせそう…)
アリシアはバスチェアに腰掛ける。
シエルが床に膝を付き、ボディソープを手に取り泡立てる。
柔らかい胸がアリシアの頭に乗る…。
「…どうしたらそんなに大きくなれるの?」
アリシアがシエルに聞いた。
「え?あぁ、私ミートパイが好きで良く食べるのよ。鶏肉のパイね。あといっぱい寝てたらおっきくなってた」
「えっ!マジですか!」
「マジマジ。きっとあなたもこれからおっきくなるわよっ!」
「ふえ!」
シエルはアリシアに後ろから抱き付き、ボディタオルでアリシアのお腹を洗った。
男子部屋組では…。
「足の具合は大丈夫か?」
マイルがウィルソンに聞いた。
「うん、補助なしでも歩いて平気なぐらい治ってきているよ」
「へぇ、やっぱりあの湖すげぇんだな。アリシアちゃんがずっとお前と手を繋いでくれていたからまだ痛むんだと思ってた」
「アリシアちゃんはずっとそばにいてくれるね…。とっても良い子だよ」
「まぁ、年の離れた女の子と一緒に歩いているんだ。疑われて通報されないようにな…」
「ぁー、あるかもね。気を付けるよ」
言われてみれば、どう見ても兄妹には見えないもんなぁ…。
「あれー、どこやったっけなぁ…」
リーガルがカバンに手を突っ込み、何かを探している。
「なに探してるのリーガル」
ウィルソンはリーガルに聞く。
「あぁ、俺っち愛用の髭剃りだよ。"これであなたもイケてる男肌"ってな!」
「…ぁ…そぅなんだ…」
「おっ!あったあったぁ」
リーガルが髭剃りを見つけたようだ。
リーガルがバスルームに向かう。
「一緒に入る?」
チラッとこちらを見る。
「えっ!」
「キモいぞおっさん!」
「くくく…冗談だ」
リーガルは脱衣所に入っていった。
「あぁ、1階の売店で飲み物買ってくるけど…何が良い?」
マイルはベッドから立ち上がる。
「ん~、レモンティーかな」
「OK。待ってろ」
マイルは部屋を出て行った。
少し経って、コンコンとノックの音がした。
ウィルソンは部屋のドアを開けた。
「ぁー、ウィルソン•ウィンターズだな。一緒に来てもらうぞ」
「…えっ?」
2人の警官がドアの前に立っていた。
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