罪と赦しの言葉
その日呼ばれたのは、東京都心にそびえる高級マンションの上層階だった。
私は、案内された部屋の前に立ちその重い玄関をゆっくりと開ける。鍵は空けておくから自由に入っていいと言われていたのだが、玄関の先には綺麗な廊下が広がっているだけで、人の姿は見えない。私は丁寧に靴を脱ぎ、恐る恐る廊下突き当たりのドアを開けると、広く開放的なリビングが広がっていた。おしゃれなダイニングキッチンに特大サイズのテレビ。そして正面のガラス張りの壁からは東京の夜景がキラキラと無駄に輝いていた。
私がそんなリビングに見惚れていると、部屋の中央。これまた大きなソファに腰をかけた三人の人物が私を優しく迎えてくれた。その三人はそれぞれが顔つきも肌の色も異なり、その中で日本人らしい人物は私以外にいなかった。一人目はアジア系の爽やかな青年で当時の私より少し年上ほど、二人目は中東系のイケメンで私よりも若い。そして三人目は、四十歳後半ほどで白髪混じりのアメリカ系の男性であった。
外国人とも、複数人いるとも聞いていなかった私が驚いていると、アジア系の彼が優しく声をかけてくれた。
「彼らは日本語があまり喋れないから、何かあったら私に言ってね」
そして彼は私をそのままシャワールームに案内し、そしてそのまま三人に回されることになった。
これまでいろんな人としてきたが、日本人以外とのセックスはその日が初めてだった。アジア系の彼が言った通り、彼らとは言葉によるコミュニケーションが取れなかった。だから次にどんなことをされるのかが分からない。気がつけば持ち上げられ、口に入れられ、四つん這いにされる。特に中東系イケメンのソレは硬く大きく、しかも絶倫のようで、立て続けに二回、三回と私の中に入ってきた。正直言ってこれまでの人生で彼らとのセックスが一番気持ちよかったと思う。
結局終わったのはどのくらい時間が経った後だっただろうか。何せ三人前だったので終わる頃私はベッドの上でくたくたになっていた。そして、誰かが私に布団をかけると、そのまま三人は半裸のままベランダに集まり何かを始めていた。
正直このまま寝てしまいたかったが、彼らが何をしているのか気になり、未だ震える腰に力をいれ、三人の近くまで寄っていく事にした。
彼らはそこで、静かに何かを唱えていた。
おそらく英語だが、英語が全く駄目な私にとって彼らが何をしているのか見当もつかなかった。すると、私に気づいたアジア系の彼は、子供を黙らせるように指先を鼻の下にあてるジェスチャーをしながら、小さい声で教えてくれた。
彼曰く、今の時間彼らは、聖書を朗読しているのだという。それがどの宗教のものなのかまでは聞かなかったのでわからないが、彼らは静かに、長いあいだ祈りを続けていた。
時に、聖書によれば、同性愛は醜態であり罪と記載されている。性行為の目的は新しい命の誕生であり、男女の性行為以外でこの目的は果たせない為だ。元に中世ヨーロッパでは夫婦間以外の性行為は厳しい戒律の元制限されていたのだと言う。
しかし同時に、同性愛者を偏見の目で見たり、その行為を否定する事も否定されている。これは人間は誰しもが、何かしらのマイノリティに属しているからだ。確かに、同性愛は聖書上で罪ではあるが、金銭欲や支配欲もまた等しく罪である。だからこそ、同性愛だけならず全てに寛容である事が大事だと言う事である。
私に告白をした彼女もまた、実に寛容な人間だった。
私はある日、自分の「あたりまえ」ではない性的マイノリティについて彼女に打ち明けた事があった。それで彼女がショックを受け、自分の元から離れて行くことも良しと思っていたし、それも仕方ないと思った。だから、私は全てを打ち明けた。自分は男性と、それも複数の相手との肉体関係を持つことになんの躊躇いもない事を。そして伝えた。彼女と付き合ってからもそれはやめていない事を。
彼女はしばらく沈黙だった。それはそうだ、彼女はストレートな恋愛を求めており、私の言う「あたりまえ」側の人間だったから。
そして、彼女は私に訊ねる。
「付き合ってから、私以外の女性とした?」
私は答えた。正直に。
「女性とは、して無い」
彼女は、言葉を細かく切りながら続ける。
「なら、許す。結婚しているわけでもないから、束縛も強制もしない。でもいつかは、私以外だけを見て欲しい」そして最後に彼女は「打ち明けてくれてありがとう」と言った。
決してお礼を言われる立場じゃ無いのに。罵られ、殴られる覚悟もしていたのに、彼女は優しく、声を震わせながら、確かにそう私に言った。
そして私はその時気付いた。彼女だけが、こんな私の事だけを真っ直ぐに見てくれる事を。
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