どんなバカでもルールは作れる

「どんなバカでもルールは作れる」とヘンリー・デイヴィッド・ソローが言うように、貞操観念が崩壊している私にも三つだけルールがある。


一つ、感染予防として、避妊具の着用は厳守。

何をするにおいても元気な身体があってこそ、体が資本。特に性行為においては慢性的な病にかかるリスクがある為、これは必須事項だ。


二つ、必ず合意の上でしか行わない。そしてキスはしない。

前者は人として当然として。後者に関しては正直戯れ言だ。でもそう決めていた。まあ、実際無理やりされることも、その場の雰囲気に呑まれしてしまうことも多かったので戯れ言だ。


三つ、知り合った相手とは深く干渉し合わず、最大でも二回までしか会わない。

会うまでの連絡は最小限。一回目でお互いを知り。二回目の機会があれば一回目より良いことをする。そこで終わり。前の話でも言ったが、私の欲に情や執着はいらない。だから、それらが芽生える可能性のある行為はしないと決めていた。

では何故二回なのか。これは大体三回目から相手の行為がエスカレートすることが多いと分かったからだ。


そして、私にそう強く思わせる様になった一件も三回目に起こった。


色々な人と出会う様になった私の次の相手は、四十歳前後の男性だった。彼は、いつも身体を気遣ってくれ、さらに行為の後は必ず貧乏学生の私にご飯をご馳走してくれていた。貢がれるのは嫌いと言ったが一緒に取る食事は別だ。都合がいいとは思われるだろうが、空腹には抗えない。


そういえば、その男性は食事中に、自分はバツイチだと話してくれたのを覚えている。だいぶ前に離婚したらしいが、それまで性の対象は女性だったのだと言う。それが今では再婚も諦め、こうして男女問わず、知り合った相手と身体を合わせているのだと。

これは個人の意見だが、普段から女性と男性の両方とセックスしている人が一番気持ち良い。また、次に気持ちが良いのは男性相手で、最後が女性相手だとも思う。女性とは言ってもその手のプロとはした事がないので、あくまで私の経験則からなる偏見でしかないが、やはり男性はこちらのツボがわかっているだけ有利だと思う。ちなみに、私のソレも気持ちいいと評判だが、まあこれも戯言だ。


そんなこんなで、彼との行為は気に入っており、あっという間に三度目を迎えていた。

その日、私は裸のまま、後ろで縛りで目隠しをされ彼のシャワーが終わるのを待っていた。アブノーマルなプレイ程好きな私にとって、それ自体は全く抵抗はなかったが問題はその後だった。


私はじっと何をされるのか若干の期待と共に、真っ暗なアイマスクの内側を眺めていたのだが、次の瞬間、鼻の粘膜を突き刺すような刺激臭を感じた。匂いの詳細は覚えていないが、理科の実験を思い出させるような、嗅いではいけないものを直接嗅いでしまったような鋭い感覚だった。


私は思わずのけぞり拘束を解こうとしたが。それも叶わず、そのまま押し倒される。そして気づいた頃には、一通り行為が終わっていた。あれがなんだったのか、それは今でもわからないままだ。身体への影響は何もなかったので大丈夫だと思うが、初めて危機感を感じた瞬間だった。


勿論それ以降その男性とは会っていない。

そして、その日から同一の相手とは二回しか会わないと決めた。こんな経験をしたのであれば、知らない人と会う事自体止めるべきだと人は言うかもしれないが、その考えは私にはなかったし、今でもそうは思わない。二回目までの彼は確かに優しい男性だったからだ。



そういえば、バイト先で知り合ったその女性と付き合い始めたのは、彼女が何度私の家に来た時だったか。


強烈な酒の匂いが充満した布団の中で、彼女の「気づいているとは思うけど」から始まった告白を承諾したことは覚えている。当時好きでも無い彼女の告白を、あろうことか酒で回らない頭で承諾してしまった。

その時の事はあまり覚えていないが「セックスできればなんでもいいか」と最低な事しか考えてなかったと思う。少なくとも「恋人にしたい」とは思っていなかった。


これまでも、異性から愛の告白をされることは何度かあった。だが、好意の欠片すら持っていない相手からの告白を承諾したのはこれが初めてで、そして明確な恋愛感情のある相手とのセックスも初めてだった。


三回目から行為がエスカレートする。

それは果たして相手にだけ起因する問題だったのだろうか。そして、彼女から告白を受けたその日は何日目だっただろうか。そこまで覚えているほど、私の記憶力は良くはない。

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