What is it ?

@touka0920

What is it ?

旅の途中で出会った、目の前に浮かぶ「それ」は、宝石のようだった。

男が今まで見たものの中で、最も綺麗なものだった。

角度が変わると放つ色も変わり、非の打ちどころがなかった。

男は、それが欲しくなった。

ためらいもなく手を伸ばし、男はそれを手に入れた。

男は幸せだった。もう何もいらない、そう思った。

しかし、それは最初だけだった。


「それ」は、日に日に輝きを失っていった。

色は灰色と化し、同時に重くなっていった。

男はそれを捨てたくなったが、手にくっついて離れない。

「それ」は鉛のようだった。


なにをしても無駄だった。

だから「それ」を持ったまま、進むしかなかった。

その重さが、心にのしかかってきた。

「欲しい」と感じた、あのときの自分を憎んだ。


それでも男は、長い長い距離を進んだ。

いつか「それ」が離れてくれることを願って。

男のマントはすっかり色褪せ、元の色さえ分からなくなっていた。


男はすこし、休むことにした。

今までの疲れが、眠りの世界へと、一気に連れ去っていった。

男は目を覚ました。その瞳に青い空が映った。

その瞬間、心に、現実がのしかかってきた。

「これさえなければ、こんな苦しい思いなんてしなかったのに!」

男は「それ」を持つ手を振り上げた。


「あれ?」


手に重みを感じない。

いつのまにか「それ」は無くなっていた。

頬に触れる風を感じ、男は起き上がった。

目の前には、今まで見たことのない美しい景色が、どこまでもどこまでも広がっていた。


男は辿り着いた。

そこは、想像していたよりも、ずっと美しい世界だった。

男の「夢」は叶ったのだ。




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