Del

 SVD、ドラグノフ狙撃銃、これは道具だ。目的に見合った機能が有れば良い、それが今、使い慣れない銃を構えている理由だ。この国に有ってもおかしく無い銃、それがこの銃だっただけだ。もちろん、事前に銃の特性は把握してある、これは繊細な作業だからだ。

「なんだかきな臭くなってきたぞ、上手く隠れてるが、広場の周りに武装した奴が数人いる」

 隣で双眼鏡を構える相棒が小声で話し掛けてくる。

「軍の覆面部隊とかでなくか?」

 予定の時間が近い、俺は広場に設置された演台から照準を外す訳にはいかない。

「多分、レジスタンスのゲリラだ。まぁアイツらの標的が出て来るんだから、当然だな」

 この国の建国記念式典、そこで党の代表が演説を行う。だから、俺達もここにいる。

「一旦、今の気温と風を教えてくれ。スコープの中に風が見える物が入ら無い」

 相棒は双眼鏡を置いて、測量器を構える。

「ついでに距離も測ろか? 大尉殿」

 そう軽口を叩きながら相棒は測量したデータを伝達した。

「こっちが目標を補足する前に動かれると面倒だな、周囲を警戒して置いてくれ」

「ああ、変化が有れば教える」

 相棒は双眼鏡を構え直す。それから少しして、広場から歓声が聞こえて来た。目標がポイントに立つまで数十秒、静かに呼吸を整えて引き金にかかる指に意識を集中する。

「ゲリラが動き出した」

 相棒は俺の集中を見出さないように、静かに淡々と状況を伝える。そして、目標が演台の前に立ち、スコープで捉えた瞬間、目標は不自然に身構えた。音は遅れて聞こえてくる。銃声だ。

「風は?」

「変化無し」

 目標に人が覆い被さる、落ち付いて照準をずらし射線の空いた部位を捉え引き金を引く。

「脚にヒット、まだ生きてる」

 反動でズレた照準を直しながら、スコープの中に目標を探す。丁度捉え直したとき、狙撃に気付いたボディガードが姿勢を変えた。目標の上体を捉え引き金を引く。

「ヒット、頸部、おそらく致命傷だ」

 再度、照準を修正し目標を捉えたが、3発目は必要無かった。

「目標沈黙、よし離脱しよう」

 銃声はまだ聞こえていた。軍とゲリラが撃ち合いを続けているんだろう。俺と相棒は手際良く後始末をし、痕跡を消す為に火をかける。もちろん、銃は残して行く。現地ゲリラの仕業に見せ掛ける為だ。そして、走って現場を離れ、ジープに乗り込んで市街へ向かう。車は安全運転ギリギリで飛ばす、モタモタしてると封鎖される。そしてしばらくして、安全圏まで来たのを確認し、相棒はしばらくぶりに口を開いた。

「ヒヤッとしたな、危うく任務失敗だ。それにしても、あんなにもタイミングが勝ち合うとは」

「ゲリラの規模は? 長引くとこの国を出られ無くなるぞ、俺達見たいな怪しい外人は特に」

 小さなスコープでは、多くのものを見ることは出来ない。

「数人の小規模な部隊だろう、玉砕覚悟だな、もう鎮圧されたんじゃ無いか? それに見方を変えれは絶好のタイミングだ。これで狙撃もゲリラの仕業に見える」

「第三国の工作員の仕業には見えない、か?」

 相棒はそれには答えず、車を走らせていた。長い時間同じ姿勢で、その上いきなり全速力だ。気付けば体の節々が痛かった。

「なぁ、意味が有ると思うか?」

 相棒は珍しくシリアスな口振りだ。

「どうした藪から棒に、任務の効用を考えるのは分析官の仕事だ、違うか」

「今日死んだ奴は最悪の独裁者だったかもしれない、次に立つ奴がもっと悪い奴じゃ無いなんて分からない。そうだろ?」

「良いか悪いかじゃ無い、アイツよりもコントロールしやすいならそれで良い。それが分析官の判断だ」

 相棒は苦笑いを浮かべていた。

「ドライな奴だよお前は、良いか? 次の奴が最悪なら、また俺達見たいのが汚れ仕事をすることになる、俺は嫌だぜこんな仕事」

「何年先の話だ、そんときは誰かがミサイルのボタンでも押して、リセットして再起動だ」

「イカれてるよ」

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