これでいいのか我らが青春

前編1:ブランドは金になる

 いつのまにか寝ていたと思ったら、目の前に半裸の女の子が寝ていた件について。


 上半身裸、下もパンティー1枚というアウトな格好。短めの乱れた赤髪に小さな顔、小麦色の肌。毛布もかけずに眠るその姿は、野蛮ながら綺麗にも映る。同棲ながらも、どきりとしてしまいそうだった。


 身長は後路よりも少し高いくらいだろうか。


「誰……?」


 色々と疑問はある。なぜこんなところにいるのだとか、昨日はあのあと何があったのだろうかとか、なぜ自分は全裸なのだろうかとか―――。


「何で全裸!?」


 いや、よく見ると色気も何もない無地のパンティーは履いている。しかし、周りを見ても自分の服はないし、それは目の前の少女も同様だった。


「……んあー?」


 後路の声に反応したように、赤髪の少女が薄目を開けて声を上げる。

 目と目が合う二人。段々と意識が浮上してきたらしく、赤髪の少女は「ふむふむ」とはっきりとした声をあげた。


「目が覚めたのかー。いやーよかったよかった。一時はどうなるかと―――「あ、あなた誰ですか!? 私に何したんですか!? 何で裸なんですか!? ま、まさかあんなことやこんなことを――――!?」おー……」


 声を被せて捲し立てる後路を見て、赤髪の少女は何か思いついたように手を叩き、ニヤリと含み笑いを浮かべる。


 そのまま後路の耳元へ顔を寄せると、作ったような声で。


「昨日はヨかったぜ、子猫ちゃん……」


「!?!?!?!?!?」


「可愛い声で泣いちゃって……敏感なんだな、お前って」


 後路の前に顔を持っていき、わざとらしいドヤ顔を決める赤髪の少女。


 後路の脇腹が、「つんっ」と突かれた。


「ぁん……」


「ほら。こんなふうに、ね」


「ふ、ふえぇ……」


 まさにされるがまま。脇腹が敏感だったのも良くなかったのだろう。後路はだんだんと変な気分になってきていた。


「わ、私、知らないうちに一線を越えちゃったんですね……」


「ん? ああ、そうそう―――ふっ、おもしれー女」


「うう……」


 啜り声をあげながら枕に顔を埋める後路。


「……なにしてんの?」


 そんなことをしていると、上の方から聞き慣れた―――筒木の冷ややかな声が、響くのだった。





「改めましてぇ、私の名前は吾孫煤武! 五個目の口と孫であびこ、煤くさい武術ですすすむ! 好きなものは格闘ゲーム! 嫌いなものは家事の手伝い! 特技は青春! よろしく!」


「は、はぁ……」


 朝から元気だなぁと、後路は曖昧に頷く。


 現在、筒木の持ってきた服に着替えた後路達は、宿のオープンスペースにやってきていた。


 どうやらここは筒木達が借りている宿のようだった。後路が借りていた宿と比べるとランクは下がるが、冒険者ギルドへのアクセスはこちらの方が近いらしい。


 ちなみに、煤武は長い髪を後ろで折りたたむようにしてまとめている。陽キャレベル10アップ(後路調べ)。


「あ、影宮後路です……」


 後路は俯き気味に名乗りながら、ちらりと煤武を盗み見る。


 髪色が違ったのですぐにはわからなかったが、改めてみると煤武の顔には覚えがある。いつもクラスで馬鹿をやっては怒られていたのだ。睡眠妨害―――実際には寝たフリだが―――をされたこともある。


「うん、知ってる。つーか、敬語いらないよ? ゲロ吐きあった仲じゃん」


「……で、でも―――いまなんて?」


 聞き捨てならない単語に、後路は顔を上げる。

 筒木が付け足すように続けた。


「えっとね、昨日ウシロちゃんが食べたのは、結構強めの、お酒の漬物だったんだよ。頑張ってここまで連れてはきたんだけど……」


「酒盛りしてた私が、お前の服にゲロっちゃってさー。そしたらお前、貰いゲロしてやんのー!」


「もら……げ……」


 わははははーと笑う煤武を前に、後路は魚のように口をパクパクと開閉させたかと思えば、絶望に打ちひしがれるように膝を折った。


 筒木はその肩を「ぽん」と叩くと、


「あんたに言われたくはないと思うけどね……大丈夫だよ、ウシロちゃん。女の子だって人間なんだから、生理現象は仕方ない―――」


「我が制服 ゲロにまみれて 銭成らず……」


「―――こ、この子、異世界生活に染まりきってる……」


 そういえば昨日はゲロまみれだったんだよなと、さりげなく肩から手を離す筒木だった。


 服を着替えたとはいえ、それはそれ。これはこれである。


「ま、もう嫌です、こんな生活っ! 何で私、こんなにお金の心配しなきゃいけないんですか……! 16歳なのに! 本当なら華の女子高生なのに!」


「うーん……確かに言われてみれば、異世界に来てから、私たちもお金の心配ばっかしてるよねぇ」


「なら、そろそろ行ってみるー?」


「? どこに?」


「そりゃあ、異世界で金を稼ぐっていったら、一つしかないっしょ」


 ―――モンスター退治に、だよ。

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