前編2:ぬるぬるしてれば大体納豆
後路達は街の外へとやってきた。
流石にモンスター狩りとなれば適当な装備ではいけないと、それぞれ準備しての出撃である。
煤武はとんがり帽子に黒のローブ。
筒木は革鎧とショートソード、加えて木の盾。
後路は元々もっていた寝巻き用のジャージと、手にぐるぐると巻いた包帯。
なんとも頼りない装備だが、役割的にはタンク・物理アタッカー(笑)・魔法アタッカーと、よくはないが悪くもないパーティーと言えるだろう。
「え、えっと、何を倒すんですか?」
後路が訊く。
後路が引きこもる前に調べた限りでは、この町の周辺には危険なモンスターは存在しない。大体が草食系で、こちらから攻撃しなければ何もしてこないのだ。平和的なモンスターばかりである。
とはいえ、モンスターが増えすぎると森の幸が食べ尽くされたり、畑被害も増えるので、冒険者ギルドでは常に討伐依頼が張り出されているのだが。
「グローブカンガルーを探そう!」
煤武が答えた。
グローブカンガルーとは、文字通りボクシンググローブのようなものを手にはめているカンガルーのことだ。食肉には向かないが、その手にはめたグローブは高音で売れる。グローブとしての価値はないが、その素材が非常に扱いやすいらしい。粘土のように柔らかく、熱を加えるとプラスチックのように固まるのだ。
「そ、それはわかりましたけど……私、何もできませんよ……?」
事前の打ち合わせで、後路のスキルがまともに使えないものであることは伝えてある。かといってスキルがなければ運動音痴かつ飛べないヤムチャがいるようなもので、正直何の役にも立てない。
ただ、煤武がどうしてもモンスターを狩れるようになりたいというので、渋々やってきた後路だった。
なんでも、煤武たちのもう一人の転生者――後路は覚えていないが、委員長と言っていた――が転生組の中で唯一一人でモンスターを狩れるのだという。収入もバイトをしている二人よりも多いようだ。
流石にまずいということで、こうして後路を入れた三人だけでやってきた次第だった。
秘密の特訓ということらしい。
「大丈夫! 作戦がある!」
豪語する煤武に、筒木が懐疑的な視線を向けた。
「作戦? あの煤武が?」
「なにその言い方!? まるで私が馬鹿みたいな!」
「そう言ったつもりなんだけど……」
「ぐっ…………後路、お前は筒木みたいになってくれるなよ」
「は、はぁ……」
むしろ筒木のようになりたい後路は、曖昧に相槌を打つ。
とりあえず、筒木のように煤武を馬鹿だと思うことした。
「とにかくだ。まず、私はヒーラーだから前衛を務める」
「ヒー……ラー……?」
煤武の格好がどう見ても魔術師のそれだとか、他二人が前衛なのにだとか、色々と突っ込みたいところのある後路だったが、それ以前に。
「……ヒーラーが、前衛?」
「当たり前だろ? 私は怪我をしても自分の意思ですぐに治療ができる。お前らはできない。簡単な話だ」
「え? え? これ私がおかしいんですか?」
あまりに堂々と言い切る煤武をみて不安になった後路は、助けを求めるように筒木を見た。
筒木はハイライトの消えた瞳を浮かべて、明後日の方向を見ていた。
「啄木鳥さん!?」
「馬鹿は死んでも治らないってことだよ」
「いったい何があったんですか!?」
筒木は悟りを開いた修行僧のように、何の感情もない表情を後路へ向けた。
「知ってる? ウシロちゃん。スライムと大豆を混ぜても、納豆にはならないんだよ……」
「それはそうですね!?」
というか、それは煤武がやったということなのだろうか―――そしてその被害者に、自分もなろうとしているのか……。
暗い未来を想像して戦慄しつつも、筒木だけは守ろうと決心する後路だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます