第3話 special christmas03

 グボオオオオオォォォォォ!!


 苦しむような声を上げ、赤い目の部分から無数に青い光の筋が伸び体がどんどん縮み始めると、最後には小さな青い光の箱になった。


 その光の箱をハルキは手に取る。


「どういうことか説明してくれます? ハルキさん」

「ああ、イッコか。ちょっと待っててな。もうすぐ……」


 言い終える前にニッタが駆け寄ってくる。


「ハルキさん! 俺をゴーストの口に投げたっすよね?!」

「そうか? そうだったか?」


「投げる前にごめんって言ったっすよね?」

「言ったかなあ。覚えてないや」


「酷いっすよぉ。マジで死ぬかと思ったっすよぉ」

 と、騒いでいる二人にイッコとホリが近づく。


「ニッタさん、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

「無茶しすぎだぞ、ハルキ」


「やっぱイッコさんは優しいっすねえ。ハルキさんとは大違いっす」

「仕方ないだろ、ああするしかなかったんだから。あ、そうだ、その箱な、お前が開けろ」


「へ? オレっすか?」

「うん。なんかお前が開けた方がいい気がしてさ」


 ハルキの言葉を聞いたニッタは少し考えてから


「まあいいっすけどね、ハルキさん、またオレを騙くらかそうと思ってないっすか?」

「お前はほんと失礼だね。俺がいつお前を騙くらかしたんだよ」


「ハルキさん、本気で言っているなら私があなたをイレイスしますよ」

「なんなら俺がやってやろうか?」

 イッコとホリがそれぞれ武器を構えながら言う。


「わかったわかった、悪かった。んじゃあ、頼むぞ、ニッタ」

「はーーいっと。んじゃいくっすよ~。ふぬうぅぅ!」

 ニッタは両手に力を入れる。


「ぐっ…… ぬっ! んんんんんん!!!」


 悪戦苦闘のニッタを見ながらイッコとホリが話しかける。


「結局、彼はいったい何者なの?」

「だから言ったろ、あいつは魔法を増幅させるんだって。俺があいつと出会ったのは、あいつがまだ五歳にもならないくらいの時だったんだけどな。親もなし、身内もなし、金もなし。何にも持ってなくてな。んで、あいつの近くで特定の条件が揃った魔法放つと増幅されちまうからさ、火事やらなんやらで大騒ぎ。んで、あいつ化け物扱いされててな。原因はわからないけどこいつがいるところでそんな騒ぎが起こる。そりゃ周りの奴らは気持ち悪いわな。しかも本人の記憶がなくなるだろ。だから本人はなんも覚えてないし悪気もない。子どもには酷な話だよな」


「それでハルキさんが引き取って?」

「まあそんなところだ。ただ俺もまだ若かったからな、実際には俺が育った孤児院に預けてたんだけどな」

 ハルキは淡々と語る。


「なぜ国に報告しないのです?」

「できるわけないだろ、そんなこと。あいつは俺の家族だぞ。国になんか渡してたまるかよ」


「し、しかしこの件は国に報告すべき案件……」

 イッコが話そうとするのをホリが制止する。


「ま、お前らにはお前らの仕事があるだろうからな。言わないでくれとは頼めねえけどな。まあただ……」

 ハルキが歩き始める。


「国があいつを手に入れようってんなら俺は国と戦うぞ」

 そう言うとニッタの元に向かう。


「はぁ…… 仕方ないわね。貸し一つよ」

 イッコが言う。


「バカ言うな、今までこっちはいくつ貸してると思ってんだ!」

 と叫んだ後


「ありがとな」

 と小さくつぶやいた。


「んじゃあ礼に一つ教えてやるよ。あの箱の中身な。あれ、たぶん消えた聖剣だぞ」


「「ええ?!」」


「多分な。ほら、ニッタ! あとちょっとで開くぞ。がんばれっ!!」

 そう言うと


「おおおお!! やったっす!」

 ニッタが勢いよく箱を開ける。


 中から光が溢れ出すと光の欠片が徐々に消えていき、そこには一太刀の短剣が光っていた。


 その光景を見たイッコとホリが驚く。

 この剣は、聖剣トーニセルーンに間違いなかった。


「なんで?! どうしてこんなことになってるんです!?」


「一旦イレイスには成功したんだろうけどな。呪いの残滓がまだ力を持ってたんだろう。聖剣の力と呪いの残滓、んで今日はセントレイスデイのイブ。よっぽどひどい呪いだったんだろうな、イブじゃなきゃ倒せたかどうかわかんなかったなあ」


「そっかあ、なんかわかんないっすけど、これで解決っすね! よかったよかった!」

 ニッタははしゃいで言う。


「ハルキさん、これ……」

 イッコが不安そうに言う。


「ああ、まあ持ち主はニッタって事になるだろうなあ。聖剣に選ばれちゃってるしな」


「ど、どど、どうするつもりなんですっ?!」


「そりゃあお前、この聖剣はどこかに飛んで行ったんだろ? 行方不明だろうが」


「えっ? いや、そんな事! 私には報告する義務が」


「仕方ないじゃねえか。それとも何か? 俺らと国とで戦争すんのか?」

「いえ、それは、困りますけど…… でも、これをどう」


「大丈夫だって、お前らが言わなきゃバレないしさ。こっちはこっちで何とかするし」


「何とかって?」


「おいニッタ! その剣な。セントレイスデイのプレゼントにイッコがお前にやるってよ」


「おおおう! マジっすか?! やったあ! すげえっす! ありがとうございます! イッコさん!!」


「な、これで解決だよ。あいつは伝説の聖剣なんて持ってない。セントレイスデイのプレゼントにお前らに短剣をもらっただけ。これで万事解決。はい、イレイス完了!」


 ハルキは胸を張る。


 ニッタは大喜びしている。


 イッコとホリは呆れている。



 ――――――



「遅いよ、ハルキ。何やってたの?」


「あんたが指令出したんだろうが! 広場のツリー見に行ってたんだよ!」


「ああ、そうか。まあそうなんだけどさ。で、どうだったの?」


「ああ、なんもなかったっすよ。ガセもいいところ。ところでツノダさん。なんでいつも鍋なんすか?」


「ん? 年末だし?」


「なんで疑問形で返すんだよ。しかも今日はセントレイスデイのイブだろ?」


「あー! なに、お前。そんなの気にしてんの? イブにはケーキって決まってるもんな。だけどな、ケーキと鍋は意外と合うんだぞ」


「そんなの聞いたことねえよ」


 そんな話をしているとニッタが戻ってくる。


「いやあ、ないっす! 無理っすよ、イブのこんな夜中にケーキなんて売ってないっすよ、ハルキさん」


「あれ? お前ケーキ買いに行ってたの?」


「そうなんっすよ、ハルキさんがどうしてもケーキが食べたいから買って来いって」


「ひっどいなあ。そりゃあ売り切れてるよなあ。って、なんでお前そんなにニコニコしてんの?」


「オレっすか? そうっすか? ニコニコしてますかね?」


「してるよ。なあ、ハルキ」


「知らないっすよ」


「まあいいや。んじゃあ、恒例の鍋パーティー始めまーす!」


「なんだよそれ、いつ恒例になったのか知らないし、なんで鍋なのかもわかんないよ」


「いいんだよ、なんでも。それでは」


 ―――カンパーイ!!



 セントレイスデイイブの夜は楽しく更けていく。




「オレ、こんな楽しくていいんすかね?」


「ん? なんか言ったか、ニッタ」


「いえ、なんでもないっす。にしても二人とも飲み過ぎっすよ、明日はホテルでごちそうしてやるー、って言ってたじゃないすか。そんな酔っ払って大丈夫なんすか? ハルキさん」


「ったりめえだ。ツノダさんなんてもう寝ちゃってるけどな。俺はまだまだぜんっぜん大丈夫」


「比べるところが小さいっすよ」


「なんだとこの野郎、最近生意気になってきたなあ。ま、良いことだけどな」


「え? 最後なんて言ったんすか?」


「なんでもねえよ。さて、明日は何を消すんだろうねえ」



(完)




――――――――――――――――――


 皆様、メリークリスマスです。

 お楽しみただけましたでしょうか?


 この世界だとクリスマスって言うのもなんだかなあと思い勝手にセントレイスデイってのを作っちゃいましたw


 どうか良い年末をお過ごしください。


 UD

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イレイサー:File02_聖剣の行方:指令があれば何でも消します、「憑きモノ」を「ないモノ」に。クリスマスバージョン UD @UdAsato

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