第2話 special christmas02

「こんなところにお一人で?」


「いや、お前そんな格好で何やってんだよ、イッコ」

「あら、私たちはセントレイスデイを楽しみに来たんですよ」


「ってか、ホリさん。その格好はずかしく……」

「言うな」

 と、イッコの横でボソリと話すホリ。


 この二人、実は国家情報保安局の職員である。


 イッコとホリがここにいるという事はやはりゴーストは「憑き者」なのかもしれない。


「ま、今お一人ならちょうどよかったです。バグトンで見た彼のあの光は何なのです?」


「あー、ちょっと説明しづらいんだわ。その件、国家情報保安局には?」

「まだ詳しい事が分かりませんので上にはあげていませんが」


「そっか。ニッタが戻るまでに話せる自信がないからまた今度ゆっくり話すけどな。あいつ、魔法を増幅させる体質なんだわ」


「は?!」


「特定の魔法をあいつの身体に通すとな、増幅して放出する。けどあいつ自身には傷もつかない。ただ、その間の記憶はなくしてる」


「そんなバカな話を信じろと?」


「信じる信じないは勝手だけどな。あ、本人はそのこと知らないから、よろしくね」


「え? 知らないんですか? いや、でも、それではまるで……」


「ん?」


「いえ、なんでもありません。納得はいきませんがとりあえず了解しました。いずれじっくりとお話を聞かせてもらいます」


「へいへい。んで? お前らもゴースト関係か?」


「何のことでしょう? 私はただセントレイスデイを楽しみに来ただけですよ」


「へー、そう。んじゃまあ、俺たちも楽しませてもらうわ」


 しばらくして屋台の食べ物を持ったニッタが戻ると


「お待たせしましたっす。ってあれ、イッコさん? ホリさんも。いっぱい買ってきたんで、はい、これ、どうぞ」


「ああ、ありがとう」

 四人はベンチに座って食べ始める。


「そう言えばセントレイスデイってなんなんすか?」


「「「え?」」」


 ニッタは不思議そうな顔でみんなを見る。


「あなたセントレイスデイの由来を知らないの?」


「知らないっすねえ。有名なんすか?」


 三人は顔を見合わせるとため息をつき、ニッタは首を傾げて三人の様子を見ている。


 イッコもう一度大きなため息をつき説明を始めた。


 昔、国の危機に英雄が現れ、騎士たちと共に神々と戦った。

 その戦いで多くの仲間を失った王と仲間たちがレイス領に戻ると王の恋人がレイス領を守るために戦い亡くなっていた。

 その後も激しい戦いが続いたが、全ての戦いが終わり、レイス領戦場に一本だけ残った大きなもみの木に仲間や家族、恋人のために騎士たちが剣を突き刺し慰霊を行う風習が生まれた。

 王はその風習を聞き、自らも恋人の短剣をもみの木に突き刺した。

 そこに恋人が女神となって現れ


『悲しみを乗り越えて。姿は見えなくてもあなたをずっと見守っています』


 と言い、木に刺さった剣が集まり新しい聖剣ができ、その聖剣を携えた王は剣の力で国を導いた。

 人々はその事を喜び、その日は聖なる日として祀り、女性や王、騎士などの亡霊が現れる日と言い伝えられるようになった。


 というのがセントレイスデイの由来ですけれど、とイッコが説明を終えるとニッタは感心したようにうなずく。


 それを見ていたイッコとホリはまた、ため息をついた。

 ハルキはあきれたようにニッタを睨むが、ふと気になりツリーの方を見ると そこには一人の男が立っていた。


(あれ? あの男、なんか違和感が……)


 ツリーの周りで遊んでいた子供たちに男は話し掛けると、子供の一人がツリーの根本に走って行き、そこに刺さっている剣を引き抜こうとする。


 それを見ていた周りの大人たちが慌てて駆け寄り、すぐに子供を叱りつけた。


 だが、次の瞬間、ツリーの照明が消えたかと思うと辺り一面真っ暗になった。

 

 ガシャァン!


 爆発が起こったかのような音とともにツリーのガラス部分が飛び散り、あたりからは悲鳴が上がり人々が逃げ惑う。


 イッコとホリは驚いた表情を一瞬で納めると動き始める。


 ハルキは素早く動くと逃げる人々の流れに逆らいながら走り、ツリーの傍まで行くと 男に向かって叫ぶ。


「てっめえ、何やってんだ!」


 男の頭上には黒い球体が浮かんでいる。


(やっぱりこいつゴーストだ!)


 ハルキは男の胸に魔銃を向けると有無をも言わさず銃弾を打ち込む。

 しかし、弾丸は見えない壁に弾かれた。


 続けて二発目、三発目を撃つが結果は同じだった。


 その時、ゴーストと暗闇が繋がり、暗闇の中に浮かび上がる巨大な影が広がり、その影から無数の赤い目が光る。


「んなっ?! おい、ニッタぁ! お前あれ、なんとかしろ!」

「無理っすよぉ!」


「はあ? お前が見たがってたやつだろうが!」


「ええ? あんなの見たくないっすよおお!」

「この野郎! ん?」

 ハルキはニッタを怒鳴る。


 その間もゴーストはゆっくりと近づくと、炎の球を放ちはじめる。

 イッコとホリはその火の玉を水の魔法で防ぐと、今度は水と風の刃を放つが、それも見えない壁によって阻まれてしまう。


 イッコとホリが焦り始めた時、ハルキの声がかかる。

 その声は冷静そのもので、恐怖も何も感じられないものだった。

 次の瞬間


 ガンッ!!


 と鈍い音が響く。


 ガンッ、ゴンッ!

 ゴンッ、バキッ!


 激しい音を響かせながら魔銃でゴーストを連続で殴り続ける。


 イッコとホリは驚きのあまり、動けずその様子を見ている。


「おいニッタァ!! お前、ちょっとこっち来い!!」


「はーい! なんなんっすか?!」


 黒いゴーストから逃れながらハルキのそばまで何とかたどり着く。


「攻撃、全然効かないっすねえ、どうすんです? これ」

「そうなんだよ、さっきからボコってるのにぜんっぜん効かないんだよ」

「ですよねえ」


「んでな、ニッタ」

「はい。なんすか? はい」


「ごめんな」


 ハルキはそう言うとニッタを掴み放り投げた。



「ええぇぇぇ?!?!」



 ニッタは叫びながら黒いゴーストの口に吸い込まれていくと同時にハルキがゴーストの口に向け魔銃を向ける。



 ズキューーン!!



 魔銃から放たれた青い光が黒いゴーストの口に吸い込まれていく。


 数秒後、ニッタを口に入れた黒いゴーストが苦しみ始める。

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