イレイサー:File02_聖剣の行方:指令があれば何でも消します、「憑きモノ」を「ないモノ」に。クリスマスバージョン

UD

第1話 special christmas01

「ハルキ〜、ハルキ、ハルキ、ハルキー!」


「おっさんが見つめながら何回も呼ぶな!」


「ハルキ! 大変なんだよ、俺はもうどうしたらいいのかわからんよ」


 イレイサー事務所ではツノダがハルキを見つめながら困った顔をしている。


「なんなんすか? 今度は。俺は何もしてないすよ」


「そうなんだよ、こないだお前たちがバグトンに行ってる間な、他のバディ何組かに聖剣のイレイス指令が来てたの、お前知ってるだろ?」


「ええ、あの時はほんっとツノダさんに騙されましたよ、偽情報掴まされて、挙げ句に鐘の化け物退治させられて。おかげでニッタの事が国家情報保安局にバレちゃったじゃないすか、どうすんですかほんと」


「だからそれはごめんて。あー、それどころじゃないんだよ」


「それどころじゃないだと? ツノダ、もう呼び捨てる。ツノダ、ツノダ!」


「え? あ、はい」


「んで? 何があったんす?」


「実はその聖剣な。イレイスには成功したんだけどな。憑き物を落とした途端、本来の力を取り戻しちゃって光り輝いてどっかに飛んでっちゃったんだって。どうすんだよ、また上に何言われるか……」


「俺にどうしろって言うんです? 見つかるわけないじゃないっすかそんなもん。新しい持ち主を聖剣が選ぶまで出てこないっすよ」


「そうなんだよお、だから困ってんだよー」


 そこにハルキのバディであるニッタが慌てた様子で入室する。


「ハルキさん、ハルキさん! 大変なんっすよお!」


「なんなんだよ今日は! なんでみんな俺の名前を見つめながら呼ぶんだよ。んで? お前はなんでそんな格好してんだ?」


 ニッタは赤いとんがり帽子のてっぺんに白いほわほわが付いた物をかぶり、赤字に白いラインの入った上下のスーツを着ている。


「え? 変っすかね?」

「変に決まってんだろ。なんだその格好は」


「なーんか最近流行ってんすよ、この格好。街で見かけません? 流行りみたいなんでオレも乗っかったんす。似合いません?」

「知らねーよ、興味ねえよ、似合うわけねぇだろ。いいからさっさと着替えろよ」


「いやそれがあ、これ、この格好、流行り始めたのはここ一月くらいなんすけど、明日ってセントレイスデイじゃないっすか」


「ああ、そういやあもうそんな季節かあ。今年も終わるんだなあ。あー、平穏に年を越したかったなあ」


「なに言ってんすか? ツノダさん」


「ほっとけほっとけ、俺たちを騙した報いを受けてんだよ、この人は」


「そんなひどい事をしたんっすか、プロデューサー。いっつもオレたちに『過去の『遺物』(魔道具、武器や防具)の中に稀に「ある」者が憑りついている。イレイサーの仕事はの存在を消して、「憑りつかれている遺物」を「通常の遺物」に戻すことだあ』とか言って無茶なことさせてるからっすか?」


「させてないよ? ってかなにそのモノマネ。あーあ、この一年まっとうな仕事しかしてないよ俺は。なんでこんな事になったのかなあ」

 ツノダは口を尖らせながら言い返す。


「じゃあもういいっすか? 話戻しますけど。セントレイスデイに街の広場で毎年行われるイベントがあるんすよ。それで街中イルミネーションとか飾ったり、あちこちにツリーを飾ったりするんすけどね」

「ああ、知ってるよ、まあ俺には関係ないけどな」


「いや、それがあ、今年の街の広場の大ツリーがあるじゃないっすか。夜中、ツリーのイルミネーションが消えてるはずなのに明かりがついてゴーストが出るって言うんすよ。なんなんすかねえ、気になるっすよねえ。で、見に行きません?」

「行かないよ、なんで俺がお前と行かなきゃいけないんだよ」


「なんでですか? 一緒に見に行きましょうよ」


「なんでですか? じゃねえよ! なんでおれがイブにお前と広場でツリー見るんだよ!」


「そこをなんとか、お願いしますよ」


 ニッタは手を合わせて頭を下げる。


「まあまあ、二人で行ってくればいいじゃないか」


 と、ツノダは吹き出しそうな顔をして言う。


「ツノダさん。あんたわかって言ってんだろ? いいかセントレイスデイって言うのはなあ」


「ああ、そっか。あれ、恋人同士が見に行くのかぁ」


 そう言ってニッタは笑っている。


「お前笑ってんじゃないよ。まあそういう事だ、行くなら一人で行けよ。まあせいぜい楽しめ」


「えー、行きましょうよお。そこで良い出会いがあるかもしんないっすよ」


 ニッタは子供のように頬を膨らませて文句を言う。


「あるわけねえだろ、恋人同士が見に行くところで何と出会うんだよ、行かないよ。絶対行かない」

 ハルキは頑として拒否するが


「ハルキ、ゴーストが出るって話、気にならないか?」


「気にならないよ。知らない」


 結局、ツノダの『これは指令だ!』という一言で無理やりハルキとニッタに広場の大ツリーのイレイス指令を出すのだった。


 ――――――


 街の広場はいつもより人が多く賑わっていた。大ツリーを中心にして屋台が立ち並び、家族連れやカップルなどで溢れかえり皆思い思いに楽しんでいるようだ。


 ツリーの根元には騎士団の紋章の入った旗や、昔話の英雄たちの似顔絵などが飾られ、沢山の人がいてみんなツリーを見上げて楽しんでいる。


「なんにもねえじゃねえか、もう帰ろうぜ」

 ハルキが面白くなさそうに言う。


「ちょっと待って下さいよ。せっかく来たんですから少し見てから帰りましょうよお?」


「なんでだよ、見たってしょうがないだろ? ゴーストは夜中に出るんだろ? なんでこんな時間から出張ってなきゃいけないんだよ」


「それはそうっすけど。噂だと騎士や女のゴーストがツリーの横に現れるって。だから今年はみんな照明が消えてからも随分残ってるんですって」


「なにが楽しいんだよ、そんなもん。あーあ、腹減ったなあ。おいニッタ。なんか買ってきて」


「え? 今っすか?」


「十秒な、はい十! 九!」


「はーーーい」


 急いで走り出すニッタ。


(ん? あれは?)


 ハルキが見つめる先にはやはり赤いとんがり帽子に上下赤い服を着た眼鏡の女性とスキンヘッドに赤い帽子にサングラス赤いタンクトップに赤いズボンの男の姿を確認する。


(はぁ、あいつら何やってんだよ)


 見なかったことにしてその場を立ち去ろうとすると、男女もこちらに気が付いた様子で近づいて来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る