第四大陸サリータリティ

夜。




 その日は、幾千もの星が我がもの顔でそれぞれに自らの美を誇っていた。

 太陽王の伴侶、月の王妃が姿を眩ませるので、その瞬く輝きはは目を瞠るものがあった。


 ――新月。


 夜の統一者の監視が行き届かず、その夜だけは魔性の者もなんの誓約に縛られない。

 本当の意味での自由を手にすることができる、夢の時間。


 場所は、広大な森の中で存在する、柱状の干しレンガと石を組合せて造られた古き塔。


 黒衣に身を包む彼女は、突然夜陰に響き渡った大きすぎる羽音に空を仰ぐ。

 塔の屋上から飛び立ったその影は、新月の闇に埋もれているはずなのに、しっかりと彼女の目に映った。

 宇宙の闇を全て吸い取ったかのような、深く濃い、闇の翼。その翼が動かされるたびに乱れる翼と同じ色の髪。目立つことを厭ったのか、身に纏う黒衣は風に押されてそのしなやかな肢体の輪郭を際立たせている。

 遥か遠くを望んでいた横顔が、ふいに彼女に気づいた。

 赤と青の視線が交差する。


 忘れもしない。

 忘れることなんてできない。

 あの男は私の希望を持ち去ったのだから。




 太陽の光を厭い、月明かりの下でさえ身を潜める。

 白妙の魔女。それが、彼女の二つ名であった。

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