第2話 流転
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■ 流転
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▼ 退職 ▼
「課長~!、お客様が見えられてますので応接室にお通して置きましたよ~」
由香里の連絡に「あぁ……わかった。」と返事をしながらも、客?
MR時代ならまだしも今の役職になってからは客が訪ねてくることなど皆無だった信二は不審に思いながらも応接室へと向かった。
応接室に行くと少し崩れた感じの黒のスーツを着た30代後半と思える男性…いかにもって感じで怪しげな雰囲気をまとっている男だった。
その横に座るもう一人の男性は40代と思しき男性でこちらはきちんとした服装をしていた。
「綺羅沢ですがどういったご要件でしょうか?」
訝しげに尋ねる信二に崩れた格好の男が少し間を置いて口を開いた。
「あぁ、あんたが綺羅沢信二さん?」
「はい、そうですが……」
男はカバンから書類を出すと開口一番……
「困ってるんですよねぇ~……
中井茂雄さんが支払いもせずに姿くらましちゃってさぁ……連帯保証人のオタクに払ってもらわないといけなくてね。こうして訪ねてきたんですよ。」
「はぁ~……な、なんなんですかぁ~」
「あぁ……あんた恍けるつもりかい?、ふざけるなよ。こうしてきちんと借用書の連帯保証人の欄に署名、捺印があるんだ、どこに出してもきちんと通る書類だ」
男はそう言うとテーブルに置いた借用書を”バン”と叩いた。
「ちょっと拝見させて下さい。」
信二は借用書を手に取るとたしかに以前書いた借用書に間違いなかった。署名してからまだ、ひと月ほどしか経ってないのにいくらなんでもおかしいのではないか?
そう思った信二は自宅に電話をかけるが出ない……妻のスマフォに書けるが”おかけになった番号は現在、使われておりません”という無機質な音声が答えてくれた。
どうなってるんだ?
朝は通常通り妻も娘たちもいて送り出してくれた……
なのにどうして通じないんだ……
信二の顔に冷たい汗が流れるのを感じた。
「と、とりあえず、よくわからないところもありますので義父に確認もしたいので数日猶予をもらえませんか?」
「ま、良いでしょう。我々も今日、いきなり全額返済してもらえるなんて思ってませんでしたから、そうですね、1週間待ちましょう。その時には完済するなりきちんとした
男はテーブルにあった借用書をとり、代わりに名刺を置くと出してあったお茶を一気飲みすると出ていった。
「ふぅ……な、何なんだいったいどうなってる?」
信二はいてもたまらずにその後の仕事は手につかないために早退して自宅に帰った。
▼ 自宅 ▼
自宅に帰って呼び鈴を押してみても返事はなかった。
(妻はでかけているのか?)
妻は昼間でかけていることは特に珍しくはないため通常なら不審に思う事もないのだが今回に限っては嫌な予感が横切る。
鍵を開けて自宅に入る。
キッチンに向かってみるとテーブルの上になにやら置いてあるような……
離婚届と一枚のメモ……
『あなたごめんなさい。
義父の借金の事は知っていますでもこのままだと娘たちを育てて行けないので勝手ですが離婚して下さい。
貯金は娘たちの養育費としてもらっていきます。
離婚届はなるべく早くに役所に提出して下さい。』
「はぁーーーーーーーっ、何いってんだぁーーーーっ」
お前の親父のせいで借金を越させて勝手に離婚してくれだと……
おまけに貯金まで……
一体俺にどうしろと……
なんとなく最近は嫌な予感がしていた。
2年ほど前から妻との間がよそよそしくなっていった気がしていた、時を同じ頃に娘たちも俺に接することもなってきた。
夫婦によくある倦怠期かとそう対して気にもしていなかったし、娘たちに関しては思春期だから父離れもある程度は仕方ないのだと思っていたが……
まさか、妻に男でもいたのか?
信二の予想は一部ではあたっていたが事態はもっとひどかった。
信二の妻は2年前から浮気をしていたし、今回の借金騒動も実家を巻き込んでの計画だとは夢にも思っていなかった。
はぁ……
さて、どうする、とりあえず弁護士に相談してみるか、信二はその足で弁護士の事務所へと向かった。
弁護士に相談してみたが結果は芳しいものではなかった。
書類が正当なものである以上返済義務は発生しており、諦めて返済するか、その能力がなければ破産宣告をするように進められたが破産宣告をするにも50万の着手金が必要だった。
今の信二には50万どころか掻き集めても10万の金すらなかった。
着手金を作るためにカードでのキャッシングを思いついたが、カードはすでに限度額まで借り入れてされていて借りるどころか返済を求められた。
俺はもう、死ぬしかないのか……
これまで必死に働いてきたのは何だったのか?
幸せをつかんだと思っていた。このまま、いずれは孫たちに囲まれて悔いのない一生だったと思いながら終焉の時を迎えるものだと思っていたが、てんでそんな事は完全に不可能なことだと思い知らされる。
混乱でまともな思考ができずに死ぬことばかりを考えて最初は首をつろうと考えたが適当なヒモもなく場所もなかったため、カミソリで手首を切ろうと考え、以前に仕事のストレスで鬱になりかけたときにもらった睡眠導入剤の残りに気がついて残っていた導入剤5錠を飲んで手首を切った。
手首からあふれる血を見ながらあぁ、『俺はこれで死ぬんだ...ろくな人生ではなかったな。でも、それもこれで終わりだ。』
自殺は地獄行きって聞いたことが有る、きっと天国にいる両親には会えないのだろうなと思うと寂しくもあった。
『父さん、母さん。ごめんよ。』
飲んだ睡眠導入剤が聞いてきたのか信二の意識は段々と闇に落ちて行った。
翌日
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