第22話

 5月3日

 どうも、おはようございやす。藤堂だ。

突然だが今日からゴールデンウイーク後半がスタートした。

本来であれば寝続けたい所ではあるが今日は猫を飼うための準備をせねばならん。

餅は餅屋、ペットのことはペットショップ。

されどこの辺にはペットショップはない。

……悪い、嘘ついた。アカツキデパートにはある。そっちには妹と母が行く。

閑話休題、ここで問題です。

俺はどこに買い物に行けばいいか。

答えは二行後。


 さてやってきました、ショップタライント。

結局ここに行く着くのか、と思ったそこの君。

安心しろ、俺もそう思っている。

というかペット用品売っとるんかいな……。

母曰く、

「大丈夫、売ってるわよ……多分!」

ということらしい。いや多分ってあーたねぇ……。

まぁ着いてしまったものは仕方ない。頼まれているのはキャットフード等諸々だったか。

……今更だけどこれ全部アカツキデパートで揃うくね? 何故俺が頼まれたのだろうか。

そのうち考えていると1つの考えに辿り着く。

俺は考えるのを止めた。


 店に入ればカウンターに座っているオッサンのジロっとした目線が向けられる。

「なんだ、お前か……」

あからさまに落胆した顔を見せるオッサン。

「なんだ、オッサンかぁ……」

仕返しにと俺も落胆した表情を見せる。

「「ハッハッハ……チッ」」

客に舌打ちしやがったぞ。だから客がいないのではなかろうか。

「んで、今日はどうした?」

「……」

「? 言ってくれなきゃ分からんぞ」

「水を35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、少量の15の元素を頼む」

「人間の錬成でもすんのかよ……というかウチにはねぇぞ。例えばアンモニアだとかフッ素とかは薬局の方に行ったほうがいいだろうしな。それに他の素材だって使うならなるべく高級なものを使った方が良い」

「何か妙に詳しいっすね……あ、もしかしてやったことあります?」

「……詮索はおすすめしねぇな」

ふっとそっぽを向いて暗い顔を見せるオッサン。

マジもんか……と訝しんでいるとふと、オッサンの頭が電気の光を反射する。

「なぁオッサン、もしかしてその頭……」

「……ああ、持って行かれた……! 毛根からゴッソリと! 全てなぁ! ……って何言わせんだ!」

「あ、違うの?」

「ちゃうわい! テキトー並べてそれっぽい演技しただけだ!」

なんか残念。


 「で、結局何を買いに来たんだ?」

オッサンが息を整えながら問いかけてくる。

「ペット用品ってある? メーカーは何でもいいからさ、子猫用のやつとかが特に欲しいんだけど」

「ザックリとした指定だなぁおい……ちょっと待ってろ」

「あーい」


 5分くらいして店の奥からオッサンが戻ってくる。手にはいくつかのブツが。

「本来ならウチには無いんだがな、どうも最近妹も猫を飼い始めたらしい。おかげさまで使いも食いもしねぇ子猫の用品を押し付けられたんだ。お前のお陰で家の整理ができて万々歳だ」

えーと何々……キャットフードやパウチパック等子猫の為の用品がある。

まぁこれくらいでいいだろう。他は女性陣に期待だな。

「どうも。いくら?」

「あー……いいぜ、代金は。どうせ家の整理品だしな。持ってけ」

それはありがたい。礼を述べ店から出て行った。


 外に出れば収穫は上々、天気も良くて気温も過ごしやすい。

スキップでもしたいぐらいだ。

帰ろ帰ろ、と思った瞬間声をかけられる。

「おや、藤堂さんじゃあないですか?」

振り返るとそこには高宮がいた。

「ああおはよう、高宮。そんじゃな」

「はーい、さようならー」

さあ帰ろ帰ろ。あ、おもちゃとか買いに行った方がいいかな。

高宮と別れて歩き出す。

いや、まぁ女性陣が買ってくるだろ、多分。

「ふぁ……」

やはり眠いわ。こりゃ帰ったら二度寝「ちょ、ちょっと待ってください!」……という訳にはいかないようですね、はい。


 再び振り返れば高宮。今更ながら私服である。

「早くないですか⁉︎ 別れるの!」

「いや、まぁ、ねぇ……ほら、近所の人にあっても挨拶するぐらいだろ? それだよ、それ」

「まぁ確かにそうですけど……こーんな可愛いクラスメイトと日中会えたんですよ? 行き先ぐらい聞きませんか?」

「いや、聞いてもラノベの主人公みたく何かある訳じゃあ無いしな。つまり、聞くメリットがない」

「寂しい人生ですねぇ……」

「あれ、何で俺会う人会う人にディスられなきゃならないんだ?」

オッサンには舌打ちされ、クラスメイトには寂しい人生だとなじられる……やはり早急に帰って二度寝した方がいい。

しかし、ここで強引に切り上げるのもいかがなものかと思われる。昨日の電話で迷惑をかけてもしまったかもしれないし。という訳で会話を続行することにした。


 「……で、お前さんは何処に行くんで? 俺は家に帰るけど」

「……」

珍獣を見るかのようにジロジロ見てくる高宮。急にどうしたんだコイツ。

「……? ううん……いや、でも……」

互いに見つめ合うこと10秒。高宮はウンウン唸っている。

「藤堂さん?に質問があります」

「どうぞ……?」

「家族構成は?」

「父と母、姉と妹……ああ、今日から猫が2匹だ」

「ふむふむ成程、メモメモ、と……ハッ!

え、ええと……す、好きな食べ物は?」

「野菜スティック」

「ご趣味は……?」

「最近ゲームを少々……って何だこのお見合いもどきみたいな問答は」

「いやぁ……まさか私と会話をしようだなんて……本当に藤堂さんかな、と思いまして」

「ええ……」


 「何かこれだけでどっと疲れたんだけど……」

「ま、まぁいいじゃないですか。……で、私の行き先でしたっけ。私は今絶賛散歩中です、はい」

「ほーん……わかった。それじゃあまた学校で」

「……いや、もう流されませんよ……?

会話、会話……あ、そうだ! 猫ちゃん! 猫ちゃんはどうしました⁉︎」

「今日の午後引き取りに行くんだ」

「ほうほう、それで?」

「楽しみだなぁーって」

「確かにそうですね、他には?」

「今、買い物に行ってきた所だ」

      「「……」」

まさか、とは思うがまさかなのか? 行き先言っていないし……いや、ううむ……

「……なぁ、俺からも質問いいか?」

「どうぞ!」

「実は迷ってたりする?」

「大正解です! 景品は私と散歩する権利でどうですか?」

「謹んで辞退致します……っていうのは?」

「駄目でーす♪」

ああ、グッバイ。俺の二度寝ぇ……


 半強制的にだが高宮と歩く。行き先? どうしよう……。女性と行く所、ねぇ……アカツキデパート、とも思ったけどそりゃあかん。

下手をしたら我が家の女性陣とエンカウントする。もし会ったりすればネタにされることは確定だ。それだけは避けたい。かといって他に思い浮かばない。高宮に聞いてみるか。

「高宮、行きたいところある? そこまで送るぞ」

「んー……特には。これと言ってないですねぇ。逆に藤堂さんは何処に行きたいですか?」

「いや、俺も特には。……そうだな。したいこととかはないか? その目的によっては場所も決まるだろ」

「確かにそうですね。ふむふむ……したいこと、したいこと……したい、死体?

そういえば初めて藤堂さん会った時に死んだフリごっこしてましたよね」

「……そういえばあったな、そんなこと」

何故したいことで死体を連想してしまうのか。

頭の中をかち割って中を見てみたい……冗談だ。

そしてここからは慎重に答えなければならない気がする。

「私、ちょっと気になります! あの公園に行ってしてみましょう!」

もうコイツ置いて帰っていいかな。


 

 「お前、正気か?」

公園への道すがら高宮に話しかける。

「正気です。……というかよーく考えてみれば私と出会った時にそれをしていた藤堂さんの方が異常なのでは?」

「確かに……じゃあなかった。俺ほど正常な人間はいないぞ? 古事記にもそう書かれている」

「異常な人ほど言うんですよ、そういうの。というかそのネタ、つまらないです」

「嘘だ、俺の……広嗣ジョークがつまらない……だと⁉︎ もう駄目だ、明日から人とどう話せばいいんだ……?」

「いや、そこまでのことでは……あ、公園につきそうですね」

「どうしよう、このネタはああした方が、いやしかし……」

「いつまで引きずってるんですか……」


 っといけないいけない……。人をクスッと笑わせるようなジョークを考えているうちに公園に着いたようだ。

人は……いるねぇ。子供がチラホラといる。

まぁ休日だしな、いても不思議じゃない。

「本当にやんのか?」

一応の最終確認。引き返すなら今だ。

「本気と書いてマジと読みます。マジです」

「どんな感じでやるん?」

「何分初めての身でして。おすすめはありますか?」

「寝ているようで死んでいる、みたいな感じのやつ」

「……それ、寝てるだけでは?」

「そうともいうな。……まあ、今はやめとこう。今10時くらいで日が強くなってきた。あと俺は最低でも昼には帰りたい。悪いな」

「あ、そっか……そういえば午後に猫ちゃんを引き取りに行くんでしたっけ」

「ああ」

「じゃあしょうがないですね。その代わり、猫ちゃんの写真、くださいね?」

「もちろんだ」

高宮と公園で雑談をした。


 高宮を駅の方へ送り家に帰る。

家に帰れば……あっぶねぇー……よかった、俺の方が先に帰ってきたようだ。

家の鍵を開けて入って手を洗い、猫の用品をリビングの机の上に置いた。

今は大体11時半だから……うん、時間はまだある。

「よし、二度寝だな」

ソファーで寝ることにした。


 それからどれくらい経ったかはわからない。ふと目が覚めると視界には机の上にコップがあるのが見える。

「……」

さらに体を起こし、目を擦れば……わぁ、誰もいない。

嫌な予感がしてくる。

「……置いてかれた?」


 一気に意識が覚醒した。今時間は……1時。

車は? よかった、ある。どうやら置いてかれた訳では無さそうだ。

じゃあ女性陣は何処へ? 母は……あ、気付かなかった。俺の対岸で寝とる。

妹はいないがまぁ自分の部屋にでもいるんだろう、多分。

引き取りに行くのがあと30分くらいか。

起こした方がいいな。

母を起こすと少しして妹もリビングにのっそりと現れた。

「あ、そろそろ出発する?」

「確かにいい時間ね。行きましょう」


 動物病院に着いて母が手続きを済ませる。

「2匹とも命に別状は無かったよ。まぁ1匹は少し危ない状態だったけど、君が早くウチにしてくれたおかげで大丈夫そうだ。ありがとう」

受け取る際に先生からそう告げられる。

照れて「ど、どうも」としか言えなかったけど。

他にも説明を受ける。

病気の予防の注射はまだしていないので折りを見て受けにくることや噛まれないように注意すること、最初は怯えているかもしれないので距離感に注意すること等々……参考になった。

「「ありがとうございました」」

妹と共に感謝を告げて動物病院を後にした。


 家に帰り猫を放す。と同時に俺は母たちが買ってきたケージを図を見ながら建てる。

父は今日は臨時で仕事に入っているので現在は妹が手伝ってくれている。

「妹ー、A」

「……これ?」

「ちょい待ち。それAやない、Bや。……ま、見た目とか形も変わらんし代替してもいいか」

「ダメに決まってんでしょ……」

ワイワイしながら小屋を建てる。

ふと視線を感じたのでそちらの方を見ると猫たちが寄り添ってこちらを見ている。可愛い。

「ふふ、カワイイ……何見てんのよ」

「いや、何も」

「は? キモ……」

もう今日は厄日なのかもしれない。猫が来たということと会う人会う人に何かしらダメージを負わされるのを天秤にかけた結果、そう感じ始めた。

前世では交友関係が狭く、そんなことも無かったので広がった交友関係を喜ぶべきか否か……あれ? 寧ろ質の面では下がっとるやんけ。

ゲームのキャラに転生(?)してからというものの、地味に損をしていることが多い気がする。

「今日は早く寝るわ」

「勝手にしなさいよ……」

その後もなんやかんやしながら小屋を完成させ、必要なものを配置した。


 ようやく諸々を終わらせる頃には日が沈み、夕飯の時間になっていた。

「猫たちは夕飯や就寝時は小屋に入れておきましょう」

という母の提案で現在猫たちは小屋に入っており、眠っている。

そういえば高宮に写真を依頼されていたな。

猫を起こさないように写真を撮り、送っておいた。


 夕食を食べ、風呂に早めに入る。目を瞑りながら湯船に浸かっていると今日の出来事が頭の中を駆け巡った。はて、何か忘れているような……

「あ、名前」

小屋建てて満足してたわ。1番重要な事なのにまさか忘れてるなんて……。

ええと確か男の子と女の子だから……うん、いきなりで思いつかない。

他の人と話し合えば何かいい案が浮かんでくるだろう。


 部屋に戻り数学と睨めっこしているとだんだん眠くなってきた。

「もう寝るか……」

時計を見ればまだまだ早い時間帯である。前世では考えられない程健康的な生活を送っている自分が怖い。

まぁ、寝るんですけどね。だって眠いし。

流石にゴールデンウイーク中には名前は決まるだろ……という楽観的希望を持って眠った。












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