第21話

 5月2日

 今更だが5月になった。

え、4月の残りの日はどうしたのかって?

まぁ特に語るべくもなく過ごした。

強いて言うなら姉が今ゴールデンウイークでは帰ってこないことが決まったくらいだ。

いやはや、父の件もあって今姉が来たら面倒くさそうな気がしていたから個人的にありがたい。

幸いなことに五月病はまだ発症していないものの、おそらくゴールデンウイークが終わったら発症する。

今日はゴールデンウイークの穴日。学校がある。

連休が一旦途切れて今日を乗り越えればまた連休が始まるのだがどうしようもなくだるい。

「あー世界終わらねぇかな……」

ボソッと呟いてみるけど何も起こらない。

というか終わったら困るんだけどな、ハッハッハ……はぁ。

いっそのこと休みにした方が色々楽なのでは?

と誰しもが一度は思ったことがあるだろう。

地味に暑い日の光を浴びながら学校に向かった。


 扉を開けて教室に入り、席に着く。

眠いンゴ。欠伸をしながら机を整理していると

「おはようございます!」

と、高宮が言いながら鞄を自分の席に置いた。

「おはようごぜぇやす……」

「欠伸しながら挨拶って……休みボケですか?」

「まぁそんなところだ。……高宮はいつも変わらんな」

朝から元気だなんて俺には到底考えられん。

「まぁ私、部活ニートの藤堂さんと違ってずっと規則正しい生活送ってますし? これで来年はないすばでー間違いなしです!」

フンスと無い胸(注、セクハラです)を張っている。

というか今聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。部活ニートとか……あれ、正論だわ。

チッ、このまな板チビがよ……(注、これもセクハラです)正論って時には人を殺すんだぞ。

「今、何か失礼なことを考えませんでした?」

「いやいや、そんなこと……」

ありますねぇ。バリバリ失礼なこと考えてました、うん。

「じゃあいいんですけど。……あ、そうだ。この前の話なんですが、今日でもいいですか?」


 そう言われて頭がフリーズした。

はて、この前の話?……何だっけ。駅前に新しくできたジムにでも行こうっていう話だっけ?

……流石に違うか。ああそうだ、これは有原だったわ。

「あのー」

じゃあゲーム大会……も違うな。これは誠司だ。

「もしもーし!」

分かった。アイスだな。あれ高いんだから……ん? これは妹か。

ふと顔を上げると高宮がパタパタ手を振っていた。

「……何やってんだ?」

ううむ、そろそろ思い出せそうだ。確か……そうだ、勉強関連だった気がするぞ。

「いや、こっちのセリフですよ……それで、今日でもいいですか?」

「え? あ、ああ。どうぞどうぞ、お構いなく」

「急にどうしたんですか……じゃあ放課後、お願いします」

あ、思い出した。勉強を教えるって話だったな。

そうだそうだ、最近色々ありすぎて忘れてた。すまん、高宮。

心の中で土下座した。




 さて、放課後となった。各々が部活に励むなり帰るなりするフリータイム。

高宮に聞いたところ、吹奏楽部は今日は無いのだとか。

俺? 今日は何もなかったのでアイスを買って帰るか、もし可能ならバイトをさせてもらうぐらいである。

つまり暇だ。

「じゃあどこでしますか?」

「まぁどこでもいいぞ。逆に高宮はどこがいい?」

「うーん……悩みますね……あ、じゃあファミレス……お店に迷惑ですかね?」

「悩ましいな……。そもそもどれくらいやるか決めないと」

「今は4時ですね。まぁ移動して20分くらいですから1時間半ぐらいが妥当だと思います」

終わったら大体6時くらいか。ドリンクバーと軽いものを頼むくらいなら財布にも夕飯にもそこまで影響はないだろう。

そう思ったところで残金をチラッと確認。

フハハ、今日は月初めだから5000円札が入っている。くずしたかったからむしろありがたい。

……まぁこれなら大丈夫やろ! というか色々買ったら食べたりしているから厚くなる日は遠そうだ。(by無駄遣い職人)

「帰りは6時くらいになりそうだが大丈夫か?」

そして何よりも大事な質問。

「駅から本当に近いので大丈夫ですよ……ふふ、心配ですか? 可愛いところもあるんですねぇ〜」

ニタニタしながら揶揄ってくる高宮を受け流しながらファミレスに向かった。


 やってきました、ファミレス。

着いたらすぐに席に案内された。

大抵混んでいるので今日はラッキーだな。

席に着いて早速勉強……とはならず、まずはメニュー表を開いた。

さてさて何を頼もうか。今日の気分は……甘いものにしようか。いや、ポテトも捨てがたい。

悩んだ末にガトーショコラとドリンクバーを頼んだ。


 諸々済ませて勉強する準備はできた。

「んじゃ始めるか。今日は何の教科がやりたい?」

ちなみに俺に家庭教師の経験はない。最近流行っている頭のいい主人公が美少女に勉強を教える……みたいな漫画でしているようなことはしないし、できない。だから教えるだけだ。

「じゃあ今日は古典でお願いします!」

「OK」

「?」

お、たまに動画で見る首をグルグルする鳥みたいな発音で言えた。

「どこからわからないか詳細を聞いても?」

「今やっているところの品詞分解からできないです……」

「じゃあ今日は今やっている範囲についてやるか」


 現在俺のクラスでは古文をやっている。

所謂仏教説話だな。現代でいう警察をやっている奴が泥棒追っかけた際に色々困難に襲われるのだが、仏教を信じていたお陰で助かり泥棒をタイーホできたという話。

一応高校古文初めての話ということで難易度は高くない。

高宮は終始ハテナを浮かべていたが根気強く解説を続けた。

例えば……

「これは……終止形ですか?」

「惜しい。係り結びだから連体形だ」

「係り結び?……ああ、文法を聞かれた時に書いておけば大抵点がもらえるあれですね!」

「そうそれ。係り結びが何かは説明できるか?」

「???」

「ええと、それはだな……」

みたいな感じ。詳しく言うのはニワカと後ろ指指されたくないので避けたいが、一言。

大変だったお……


 しかし時間とはあっという間に過ぎていくものだ。気づいたら1時間半経っていた。

「そろそろ終わりにするか、お疲れさん」

「藤堂さんこそ今日はありがとうございました。またお願いします」

「お、そうだな(脳死)」

「そうだ、連絡先交換しましょう。質問とかしたいので!」

「深夜3時までなら受け付けるぞ〜」

「わかりました!」

わあニッコニコ。眩しい。

どことなく嬉しそうな高宮と連絡先を交換し、別れた。


 帰りに公園を横切って歩く。ここを通ると近道なのだ。ちなみに誰もいないので鼻歌を唄いながら歩いてます。

即興だからメロディーもテンポもグチャグチャ、だが気分が上がってくる。

「〜〜〜♪」

しっかしどうも人がいない。広い公園だし街灯も沢山あるから1人くらいは走ってそうなものなんだけど。まぁいいか。

ふと思い浮かんだ疑問をポイ捨てして歩く。

今日の夕飯は何だろう。


 そろそろ公園から出て住宅街に出る。

流石に住宅街で鼻歌は不味いということで黙る。お鼻にチャック!……あかんな。呼吸ができん。

話を戻そう。母が言うにはここら辺の家は壁が薄いらしく、怒鳴り声が三件先でも聞こえるのもザラなんだとか。つまり俺の鼻歌も下手をしたら聞かれる……いや、そこまで大きくはないぞ。でも万が一だ。万が一聞かれてみろ。

最近は色々あるからな。「お前のヘタクソな鼻歌のせいで眠っていた赤ちゃんが起きた!」

なんて言われたらガチ凹み案件である。

ゴチャゴチャ述べたが、要は現在の俺は黙って歩いている。だからだろうか。か細い声が聞こえた。


 最初は聞き間違いかと思い素通りした。しかし、声は聞こえてくる。みゃう、みたいな。子猫か?

「……?」

キョロキョロしてみるが声の主は見当たらない。……ここまで来たら意地でも見つけたくなった。

幸いここは住宅街。両脇は住宅で隠れられる場所は少ない。と言っても猫がその住宅の敷地にいたら無理だけど。


 ターゲットを見つける空き巣の如くあちこちを探す。こんなところを見られたら即通報案件。

どうか見つかりませんように。

探していると段々と声が近くなってきた。

聴力が怪しい俺でも分かる。近い。

しかし見つからない。あるとすれば積み上げられたゴミの山しかない。……いや、待てよ。

ふと思い立ちゴミをどかす。

「やっと見つかった……」

そこにはダンボールに捨てられた子猫が2匹いた。


 一瞬達成感に駆られるがまずは安否の確認をする。素人目だが1匹は元気でもう1匹はぐったりしている。

「……どうすっかな……」

正直言ってこの時の俺はその状況に慌てていた。以下、俺のとち狂った行動をダイジェストでお送りいたします。


 まず、 母にでも相談しようと思った。ここまではいい。

         ↓

電話をかけようとし、何故かチャットアプリを開いた。(ここからおかしい)

         ↓

大抵家族としかやり取りしないのでどうせ1番上だろうとアイコンをタップ、通話を試みる。

         ↓

スマホを耳に当てているとお、出た! もしもーし←今ココ


 「もしもし?」

『はい、もしもし? どうかしたんですか?』

「今捨て猫を見つけたからどうするか相談しようとかけたんだが」

『んー……今どんな状態なんです?』

「2匹いて1匹は大丈夫そうでもう1匹はぐったりしてる」

『そ、それ結構ヤバくないですか?……そうだ、動物病院に行かれては?』

「やっぱそうだよな、全く酷いことをする奴もいたもんだ」

『ですねぇ……』

「ああ……ん?」

『どうかしました?』

今更だが声が母と違う。誰だコイツ。

『もしもーし』

「……悪い、誰だ?」

『ええ⁉︎ 分かっててかけたんじゃないんですか? 私ですよ私!』

「私?……あ、今流行りの私私詐欺か。すまない、この通話が終わったら俺の番号を消しといてくれ」

『違いますよ! そんな詐欺流行ってませんし自分からかけといて詐欺も何もありませんよ! 高宮です、高宮! 高宮八重です!」

「高宮? 何故に?」

あれ、というかこれって……oh、チャットアプリ。電話じゃない。

『というか、早く猫ちゃんを病気に連れてってあげてください!』

「ハッ……そうだった! すまん、切るぞ!」

 『まったく、藤堂さんって変なところで抜けてますよね……』

極力揺らさない程度に、されど可能な限り迅速に動物病院に向かった。


 「つ、着いた……」

受付を済ませてダンボールの中の猫たちを見ると目を回していた。

「ありゃ……すまんな」

この猫たちが無事かつ健康であることを願うばかりである。


 院長先生が直に見てくれるというのでお任せして待ち場で待っていると携帯が振動した。

メール……違うな、電話で相手は……母だ。

そういえば何も連絡していなかった。

「もしもし」

『もしもし? 今どこ?』

「動物病院。捨て猫見かけて危なそうだったから連れてきた」

『……事情は後で聞かせてもらうとして……今陽菜が帰ってきたからそっち向かうね』

「おう」


 十分程して車のバックする音が聞こえ、病院のドアが開く音がする。

挨拶も程々に事情を説明した。

「成程……事情は分かった。それで、これからどうするの?」

「これから、とは?」

「文字通りよ。今診てもらっている子たちをどうするか、という話」

「……」

「別に飼うな、とは言っていないわ。もしお金について考えているなら心配無用よ」

生き物を飼うというのはそれ相応の責任が伴う。どうしようか。

「まあ、子供たちで話し合って決めなさい」


 検査を待つ間、妹と話し合う……前にそれぞれ考える時間を取ることにした。

……よし、決めた。

「ここはもうスッパリと決めるわよ。飼いたいならA、他の道ならBと言う。これでいいかしら」

「OK、じゃあいくぞ。せーの……」

       「「A」」

「決まりだ」

「決まりね!」

互いにニヤリと笑った。

妹と決めたことを母に話すと、母は

「分かった」

とだけ言って受付の人と話を始める。

「……楽しみね」

ボソッと妹がこぼした。

確かに、騒がしくも楽しいゴールデンウイークになる気がした。


 院長先生によると2匹とも命に別状はなく、健康の面でも問題はなかった。しかし念のために1日病院で診るとのことだった。

妹は残念がったがこればかりは仕方ない。

3人でこれからのことを話しながら帰ることにした。


 今日は疲れたな、なんて思いながら家に入る。

「たでーまー」

部屋に戻って制服を脱ぎグデーっとする。

今日も疲れたンゴ……最近疲れること多過ぎやしないか。一体俺が何をしたというんだ。

床でゴロゴロしながらスマホを開けば高宮から連絡が来ている。なになに……

『早速連絡してみました! 

先程家に帰りながら買った問題集を解いてみたんですが教えたもらったおかげか私にしてみてはよく解けました。嬉しくってつい連絡を、と思いまして……(中略)……これからもよろしくお願いします!

PS:猫ちゃんはどうでしたか? 報告待ってます!』

長い、長いよ……。でも返信しなきゃ……一言で終わらせるのもなんかアレだし……。あと相談に乗ってもらった恩もあるし……。

結局、そこそこの長文を送ってしまった。読みにくかったらスマソ。


 夕食を食べ風呂に入り、すぐに眠ることにした。

明日は休みだし、まだ早い時間帯だが今日も今日とて疲れたから仕方ない。

まぁ明日も色々奔走することになりそうだが……まぁ、悪くない。

乗り切る気力を蓄えるために今日のところは寝ようじゃあないか。

というわけでおやすみ。


 

 













 





 








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