第18話
4月21日
起床するように、という朝の放送で目が覚めたた。
モゾモゾと体を動かそうとするが、どうにも体が痛い。あかん、今日登山やんけ。もし険しい登山道(岩登ったりするやつ)だったら無事に頂上にまで行ける気がしない。
しかし、だ。今の俺にとって体の痛みよりも何よりも重要なことがある。そう、
「はぁ……朝……来ちゃったんすね……」
これに尽きる。
眠って時間が経つのはしょうがない事であるが、体感的に睡眠は一瞬のように感じてしまう。
1日が24時間なのが憎い。
1日って30時間にならなねぇかな。ならないか。
また今日もここに泊まるのでベッドの整理も程々にし、食堂に向かう。
有原? 寝てるから放っといた。
一応朝食の時間が決まっていて、その時間の内ならいつ来てもいいらしい。ちなみに朝食はバイキング形式。やったね。
食堂に着けば、まだ食堂が開いてあまり時間が経って無いのに人でごった返していた。
早速俺もトレーを持って食料争奪戦に参加することにしよう。
ご飯にサラダ、ハンバーグに……お、豆腐とわかめの味噌汁がある。これもよそっていこう。そしてデザートは……林檎とオレンジでいいか。
ひょいひょいと食べ物を皿によそっていく。うんうん、我ながらいいチョイス。栄養バランスも多分パーペキである。異論は認める。
空いている席を見つけ食べ始める。丁度半分くらい食べ切ったところで隣に誰かが座ってきた。ちら、と見てみれば有原である。挨拶ぐらいはしておきますか。
「おはようさん、ぐっすり眠れたか?」
「……ああ、おはよう。お前の方こそ眠れたか? 俺は枕が変わるとどうもよく眠れん」
「やっぱ実家のベッドこそ至高だと気付かされるよな……それ、朝食か?」
見ればご飯山盛り、肉も山盛り……漫画飯かな?
と思わずツッコんでしまいそうになる量の朝食。よくもまぁこんなに腹に入るな。見てて腹一杯になってきそうだ。あれ、でも……
「筋トレしている人とかは鳥の胸肉とか高タンパク、低脂質のものを食べるってよく聞くけど有原は違うのか?」
「ああ。別に俺はボディビルダーでもないしな。あとは俺自身、筋肉の美しさは好きだが……実を言うと筋トレそのものが好きだからな。食事制限がなんだというのは設けていない」
そんな感じで雑談をしながら朝食を食べた。
「ご馳走様でした」
ふう、中々お腹いっぱいである。これで少しは活力が湧いてきた気がする。というわけで部屋に戻ったら準備を始めるか……うーん、やはり憂鬱。
「じゃ、俺先に戻ってるから」
「ああ、俺もそろそろ食べ終わるからすぐに戻れそうだ」
はは、冗談はよせやい。あんな量のが少しの時間で食い切るわけ……あったんだなこれが。
まじかこいつ。食うの早すぎだろ。
「……ちゃんと噛んで食べたか? しっかり噛んで食べないと消化に悪いぞ?」
「……佳代と同じことを言うんだな」
皆川ェ……。やはり皆川はオカン、と言うことを再認識した瞬間である。
部屋に戻って登山に持っていくバックの中に整理する。タオルにペットボトルのお茶に……などとポイポイ物を入れたりベッドに放り投げていると有原が入ってきた。
互いに雑談も程々にして準備を行った。
「はぁ……」
ため息をつきながら集合場所に向かう。
ああもう駄目だぁ、おしまいだぁ……なんて嘆いていると、途中で守田先生に会った。
「あれ、守田先生じゃないっすか。準備はいいんすか」
なんて問いかけると何故かニヤニヤとする先生。え、キモ……ゲフンゲフン。
「聞きたいかー? じ、つ、はー、俺は登山しなくていいんだよなー」
どういうことだろうか。担任だろ……あ、もしかして……
「……だからあれほどここで酒を飲むなって言ったのに……アカンすよ、先生。プライベートと仕事の間でメリハリつけなきゃ」
「藤堂に言われた覚えもないし違うぞー……え、ちょっと待って。お前の中の俺ってそんな感じなの?」
「まぁそんなことはともかく……あ、俺行かなきゃ。それじゃ、どうも」
「おう、じゃあなー……ん? 待って、誤解解けてない気がする。違うぞー! 俺が登山を引率しないのはー……」
途中でなんか言っている気がしたが離れているから聞こえなかった。まったくあの先生は……。あんな大人になっちゃいけないな。
集合場所に着くとみんな揃っている。守田先生と話していたから少し遅れてしまった。
「よーし、お前ら。登山頑張るぞー!」
因みに引率の先生は体育教師の武岡。声がデカい、よく根性論を述べる等あまり生徒からの評判はよろしくない……かと思いきや、案外生徒からは人気。闇雲にやらせるのではなく、「根性」をやしなう教育に重きを置いて生徒一人一人に接してくれるからである。別名教官。面倒見がいい。閑話休題。主な予定の説明を受け、地獄の登山が始まった。
まずは山の麓に向かう。案外宿舎から山へは遠い。途中草が背丈程生い茂っているところを突き抜けて行ったり、道路を歩いたり……帰りはキツイだろうなぁ、と思いながら歩いた。
さて、ここからが本番である。落ち葉で舗装された道をひたすらに歩く。途中鎖で岩の壁を登ったり、木に捕まりながらではないと危ないところがあった。一言で言えばキツイ。
もうね、岩の階段みたいのがあるんだけどさ、一個一個の大きさがでかいのよ。足を大きく開かなきゃいけない訳で……痛い。
後ろがちょうど有原だったからさ、見てみるとこれまた涼しい顔で登っている。他の奴らが疲れてきているのに有原だけは息一つ切らしていない。
それどころかたまにボソッと「大腿四頭筋や大臀筋が鍛えられるんだったか……楽しい」とかいう声が聞こえてきた。アカン、有原は脳筋だったのかもしれない。
ほうほうの体で登っていくと一気に道がひらけた。ここが頂上だろうか。やった「ここで半分だ! 一旦休憩としよう!」そんなことなかったかー。タヒりそう。
岩に腰掛けながらペットボトルのお茶を飲む。
顔を上げると多くのクラスメイトが談笑しているがそんな元気は無い。
「あ、どうも藤堂さん……どうしたんですか、目が死んでます。ついでに真っ白に燃え尽きている気がします」
タオルを首にかけてボッーとしていると高宮が話しかけてきた。
「……状況解説どうも……」
犬……は苦手だから猫がいい。猫に「もう疲れたよ……」なんて言いたいぐらいだ。
「そうか、女子は男子の後だったな……どうだ、調子は」
「空気が美味しいし、動くのは好きなので楽しいです。藤堂さんは……今にも死にそうですね」
「マッスルミュージカルがな、頭から離れないんだ……」
「?」
1日たったのに、まだたまに自然と体が動いてしまいそうになる。これぞ筋肉堕ち……違う意味で脳が破壊されそう。主に脳筋になる方向で。
その後も少し雑談し、そろそろ再開するという声を聞いて解散した。
休憩したことで少しは気力が戻ってきた。
案外道筋も平坦になり、歩いていても前半ほどの疲れはない。ひたすらに登り続けるだけで特筆することもなく頂上に着いた。
頂上に着いたのだが……広い。その一言に尽きる。これなら多くの人数が来ても大丈夫そうだ。景色も良く、頑張って登ったのが報われた気がする。
「各自弁当を受け取り次第、頂上で好きに過ごしても構わない。ただし、勝手な下山はしてはいけないし、弁当のゴミは袋があるからそこに入れること。では解散!」
という武岡の声を受けて解散。少し休んでから弁当を受け取りに行った。
「おー、お疲れさん。ほい、弁当。お前で最後だぞー」
聞き慣れた声がするので、顔をよく見てみれば守田先生である。
「あれ、先生どうしたんすか」
「今回俺は弁当運びだったからなー。弁当積んで別ルートからチチョイと来た。……飲酒運転じゃないぞー」
「あ、そうなんですね……じゃあ帰り乗せてってください」
「後ろは弁当のゴミでー……助手席が余っているんだけど……残念、そこは彼女の特等席なんだ。悪いな」
「……ケッ、リア充がよ……」
「聞こえてんぞー」
おっとこれは失礼、つい心の声が……弁当を受け取って先生と別れた。
岩に腰掛け、景色を見ながらチビチビお茶を飲み、弁当を突っついていく。日の丸弁当に唐揚げが2個。疲れた体に染み渡る……気がする。そこまで食は太くないのでこれぐらいの量がちょうどいい。
あの道をまた戻るのか……とゲンナリしていると後ろから肩を叩かれた。
その際驚いて掴んでいた唐揚げ(しかも口をつけていない)を落としてしまった。俺の驚きを他所に、唐揚げはコロコロ転がっていく。行くな、行くな、越えるなぁー……これは悪夢です。なんちゃって。
振り返ると誠司が「ハハッ、いい反応アザーす!」とケラケラと笑っている。
「……どうしてくれるんだ誠司。俺の唐揚げが生き絶えたんだが」
「え……? あー……さ、3秒ルール?」
「……食べたいか? 今なら山の栄養満点の砂の風味が味わえるぞ」
「遠慮しとく……マジですまん。後でなんか奢るわ」
「お、マジで? んで、どうした?」
「丁度見かけたからさ、話そうかなーって」
唐揚げを拾い、パックに入れて捨てにいきながら誠司と話すことにした。
「まったく今時登山なんてなぁ……辛くてしょうがないぜ」
誠司のボヤキを聞きながら歩く。確かに、登山をする学校は今どれくらいあるのだろうか。生徒も大変だが、それに付き合う教師陣も毎年ご苦労なことである。
「そうだ、誠司。聞いて驚け。俺は友達ができた」
「なにィ!」
「その反応、チョベリグだ。流石誠司、わかっているじゃんか」
「ちょ、ちょべ……?」
あれ、通じない? 最近の子は使わないのだろうか。結構好きなんだけどな、こういう系統の言葉。
「ま、まぁともかく。よかったじゃんか。俺も友達……とは行かないまでも、それなりには仲良くなった奴ができたぜ。合宿なんてクソだと思っていたけど、案外捨てたモンじゃないな、とは思った。登山はクソだけど」
「確かに……つーかまだ下山まで残ってるんですが……」
そう言いながらゴミを袋に入れる。後は戻ってゆっくりしようぜ、と話してながら歩いていた。
会った場所に戻ると俺が座っていた岩に1人の男が座っている。ガタイがいい。もしかして、と思い回り込んで顔をみれば……うん、有原だ。目を瞑って座禅を組んでいる。
「……何してんだ、有原?」
と、話しかけてみれば有原が目を開けて、
「む……藤堂か。今休んでいるところだ。風が気持ちよくてつい微睡んでいたらしい」
と、答えた。
ああ成程、なんて話しているとチョイチョイ、と肩を叩かれる。
「なぁ広嗣。アイツが言っていた奴?」
小声で聞いてくる誠司。どうかしたのだろうか。
「いや、俺も話してみたいなぁって。なんかさ、面白そうだし」
「俺は席を外した方がよい?」
「いんや、いいよ……じゃ早速いかせてもらうわ」
結論から言えば、誠司と有原……どうだろう、と思っていたが杞憂だった。数分話しただけで打ち解けた。誠司も念願の男友達が増えたようで嬉しそうだし、有原も同じ感じ。遂には学校が再開したら3人で昼食を食べようという話までいった。これからの学校生活が楽しくなりそうな予感。
その後3人で談笑しているうちに下山時刻となったので、唯一別クラスの誠司と別れた。
さて、これから下山なのだが……はじめに言っておこう。俺は登山は下りの方が嫌いだ。滑るからね、仕方ないね。そりゃあもうズルッといく。以前足を滑らせて危うく180度開脚しそうになった。
前世の俺は柔軟なんぞ日頃からやらない人間であったから本当に筋が逝きかけたのである。それ以降下りが嫌いになった。
閑話休題。とにかく、気をつけながら下らないと今度こそマッサラな町……ではなく筋繊維だとか筋だとかにサヨナラバイバイしてしまう。
細心の注意を払いながら下った。
なんとか下り終えた。……え? 短い?
……足を滑らせた有原から殺人スライディングを喰らいそうになった話でもしようか? ギリギリで止まったけど。
もうね、この事から自分だけが気をつけるんじゃなくて周りにも注意を払わなければいけないことを学んだ。
そして俺はまた更に、登山の下りが嫌いになったのだった。
宿舎に戻り終えてると、先に風呂に入ってから夕食、とのことで風呂に入った。因みに入浴時間が決まっているのはご愛嬌。数あるお泊まり系の学校行事への不満の一つである。
長風呂したい人とか髪のケアに力を入れている人からしてみればキツイよな。殆ど湯船につかれないし。
急いで風呂を出て部屋に戻った。
突然ですが、部屋に着いたらやる事は決まっていますね。そうです、ベッドへのダイブですね。
ということでベッドへのダイブ!
最初と違って布団が全体に敷いてあったりするので反発はそこまでない。
衛生的にも、風呂入ってジャージも新調したのでセーフ(?)
うーん、段々眠くなってきた。んでまぁいいか、と思って寝た。バタンキュー。そして夕食の時間だと有原に叩き起こされた。
食堂に向かうと今回は席が決まっているらしく、自分の席に着く。メニューは牛丼やサラダ、味噌汁。よしよし、魚はいない。
疲れた体に染み渡って美味しかったです、まる。
夕食を終えて部屋に行き、ダラダラしているとあっという間に消灯時間になった。それじゃおやすみ……ではなく、恒例(?)の連絡確認をしよう。
ええと何々、今日来てるのは……うん、両親ぐらいだわ。と思いきや、誠司と有原からも来ている。両親はいつも通りの確認、誠司は山頂で3人が写った写真だった。
有原の欄はよく見たら動画を送信されたと経歴にある。見るのが怖い。せめて林間学校が終わったら開こう。
それぞれのメッセージに返信してから寝た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます