第15話


 本日2度目の外出。今回も歩きだ。

そういえば自転車が無いのか、と思うかもしれないがしっかりとある。俺が苦手なだけだ。

どうにもこぐと歩く以上に足が疲れるのだ。

という訳で歩く。1時間程歩けば着くだろう。


 

 テクテク歩き続けて約1時間。デパートの入り口が見えてきた。改めて見るとやはり大きい。

近年できたこともあり見た目も新しく、テナントも多いので若者たちのトレンドになっている……らしいが詳しくは知らん。

強いて言えば今日は俺は下着類を買いに来た。一応行く前に入っているテナントをネットで見た限り売っているらしい。


 待ち合わせは……東口だったか。現在の時刻は午前9時48分。早過ぎず遅過ぎずでちょうどいいな。

近くにベンチがあったので座って待つことにした。


 「おーい広嗣ー!」

ボッーと待ってて5分ぐらいして誠司の声が聞こえてくる。ふと声の聞こえた方向を見るとシャレオツな格好をして走ってくる誠司。おお、カッコいい。

「おはよう」

と声を掛ければ

「おう、おはよう! ……待った?」

と返ってきた。

まるで漫画でデートに行くようなやり取りだな、と心の中で思いつつつつ、

「まぁ5分くらいだから気にするな」

と答えた。 そこは今きたところだよって言うんだって? 生憎、男友達との会話でそこまで気は使わない主義なんだ。(だから友達がいないんだよって言わないでくれよ)


 「おいおい、そこは今きたって言うところだぜ? ……ま、それはともかく何か買うのは決まっている? 俺は有印製品で色々買いたい」

「俺は衣類を買い足したい。……有印製品の方が近いからそっちから先に行くか。それと昼食はどうする?」

「りょー。昼飯はフードコートで食おうぜ」

有印製品→俺の買い物→昼食、という順でデパートを巡ることになった。


 有印製品の1番の特徴はその扱う商品の種類の幅広さや安さ……もそうだが、何より一つ一つの製品にロゴが入っていることだ。ペンでも食器でも何でも有印製品のロゴが入っている。

そのロゴがいらない場合も考慮してロゴが入っていない製品も売っている。

ちなみに案外ロゴは好評なんだとか。

……ともかく、誠司はここで買いたいものがあるらしい。

俺もノートとか文房具が欲しいからそっちを見てようかな。


 


 しばらく、ノートのセットや赤ペンのセットを買おうか頭を悩ませていると後ろから肩を叩かれた。誠司だ。

「買いたい物は買えた?」

「おう。歯ブラシとか色々買えたぜ」

そういえば日用品に関して何も準備していないな。俺も買うか。


 次は衣類。下着類と山は寒いから寝る時に体操着の下に着るあったかいシャツが欲しい。

下着を選びシャツを見にいく。

できるだけモコモコしているやつが欲しいが今売っているか?

探していても目ぼしいものがなかったのでセールのところに行くと……お、売り切りのモコモコがある! 

これ幸いと即決で購入した。


 これで買い物は終わった。時間を見るとお昼に近いな。

お昼を食べに行くとしよう、ということでフードコートに向かった。

「おお……混んでんな……」

休日、ということもあって中々に人が多い。

たった2人といえども席を確保するのが困難である。

ようやく2人で座れる席を見つけ、一旦座る。さて……何を食べようか。

「やっと座れた……誠司ー、何か食べたいのあるー?」

「おー……どの店も混んでんなー。……そういや今はげまるうどんの割引札持ってるからそこでもいいか? 丁度2枚あるし」

荷物を椅子に置いて店舗に向かい、うどんを頼んだ。


 卵を割ってうどんを啜る。うん、美味い。

はげまるうどん、という名称で何となく不安だったが美味い。卵と麺が絡まり合って……いや、食レポはやめておこう。ニワカだとバレる。

「「ご馳走様でした」」

黙って食べ続けいるとあっという間に食べ終わった。


 器を返して席に戻り、これからの予定を詰めつつ食休みをとる。

「あー食った食った……これからどうするよ、広嗣?」

「特に予定もないけどまだ帰るのもなぁ……。でも出費は避けたいし」

「ここで駄弁ってもいいけどずっといたら迷惑だしなぁ……」

無料でいつまでもいれる場所、ねぇ……。お、いい所思いついた。

「公園にでも行ってブランコでも漕ぐか?」

少し冗談めかして言ってみる。正直言ってノってくることはないだろう。

「公園?……採用! 久しぶりに行ってみたいから行こうぜ!」

事実は小説よりも奇なり、ってか?


 幸い誠司も歩きで来ていたので共に歩きで公園に向かう。

「俺の家ってこの近くにあるんだよねー」

「てことは公園とは真逆?」

「そそ。……あ、気にしなくていいからな。

最近公園がめっきり減っちゃってさ、俺の家の近くの公園も無くなっちゃったんだわ」

「ああ……確かに最近遊具が危ないとかで使えないやつも増えているらしいな。子供の遊ぶ場所が無くなり続けて一体今の子供はどこで遊んでんだか」

「ゲームとか?……いや、でも子供の頃はゲーム機持って公園に行って遊んでたぞ。交換とか対戦とか懐いなー」

……あれ、そういえば誠司ってあまり男友達がいないんじゃなかったっけ。いや、決め付けるのは良くないな。

「お前男友達いたのかよっていう感じだな。……低学年の頃はいたぜ。まぁ高学年になるに連れて遊ぶことは減ったけどな」

恐らく思春期特有のやつか。異性と仲良いやつを敵視するやつ、みたいな。

「何か……悪いな。……あと俺ってそんな分かりやすいか?」

「いいの、いいの。質問に関しては……んー、なんとなく?」

以前高宮にも言われたことがある。なんとなくで考えていることを当てられるんじゃいつか身を滅ぼしそうだ。

ポーカーフェイスの練習でもしようかな。


 色々駄弁っているうちに公園に着いた。人気はない。

飲み物でも買うか、ということで自販機でそれぞれ買う。

今日の俺の気分は……炭酸が飲みたいな。

という訳でGGレモンのボタンを押す。

GGは何の略かって? グッドゲームの略だとか色にちなんでゴールデングレートの略だとか色々言われているが定かではない。俺としてはマイナーだがGO GOの略説を推している。


 閑話休題。飲み物を飲んで一息着いた後、ブランコに乗った。

誠司は懐かしい、と大はしゃぎしながら勢いよく漕いでいる……が、しばらくして勢いを緩め始めた。どうかしたのだろうか。

「どうした?」

「喋りながら漕ごうと思ってな。そっちの方が楽しいだろ。……という訳でジャジャーン!

誠司君の質問ターイム! 何か聞きたいことある? 今だったら何でも答えてやるぜ」

いきなり言われても……とは思ったが1つ思いついた。いいのがあったわ。

「確か誠司は1ーBだったよな」

「おう!」

「んじゃ、誠司から見て1ーBはどんなクラスか教えてくれ」

俺は誠司のクラスー1ーBについて聞くことにした。


 どうして急に、と思う人がいるかもしれないから説明しよう。

この世界はクラ恋(またはそれに酷似した)の世界である、ということはわかってるよな。

実際、デパートで見たように主人公がいた。

そして、今彼が一体どこで何をやっているのかは分からないが下手に接触はしたくない……というのが現在の俺のスタンス。

詰まる所、俺は主人公の情報が欲しい。

日頃から情報収集ぐらいしろって? 毎日を生きるのに必死でできてません。テヘペロ。

それに実際、1ーBに所属している誠司だからこそ知っている情報があるかもしれない。

と言う訳で聞いたのだ。


「んー……俺から見たクラス、ねぇ……」

ブランコを漕ぎながら考えだす誠司。

まさか女子しか見てないなんてことはないだろ……大変申し訳ないがありそうだな、うん。

「まぁ平和なクラスなんじゃね?」

「ほうほう」

「みんな仲良いし。……あ、気になる子でもいんの?」

「いんや。そういう誠司は?」

「俺は……ほら、この前のお前と初めて会った時のやつ。あれが広められちゃっててさー、もうガチガチに警戒されてる」

「ああ……あったな、そんなこと。大丈夫なのか?」

「問題ナッシング。まー最近は女の子と遊ぶよりお前とつるんでいる方が面白いし」

「嬉しいことを言ってくれるじゃないの。

俺はあまり学校で人と関わらないから誠司なら何か知っているかな、ということで質問させてもらいたかったんだ」

「なーる。……あ、そういえば俺のクラスにはいないけど噂になっている奴が1ーFにいるぞ」

もしかしたら主人公だろうか。もう少し探ってみよう。


 「へー……どんな? 名前は知ってる?」

「悪い、名前はわからん。が、なんでも可愛い女の子にしか声をかけないんだとか」

「ナンパ?」

「んー……詳しくは知らん。けど、特定の子たちにだけしか声をかけないらしい。どれだけ邪険に扱われようが無視されようがめげずに声をかけてクラスで浮いているらしいぞ」

特定の女子に、ねぇ……。ただのチャラ男とは思えないし、警戒しとくに越したことはないか。1ーFね。あまり近づかないようにしよう。


 「お、純愛派か? 俺もNTRは嫌いだから仲良くなれそうだ……と思ったが何人も引っ掛けようとしてんのか、中々だな」

「どれだけ邪険に扱われても諦めない!ってところを聞くと一瞬熱意があるように見えるんだがな」

「ま、人の恋路に関してあまりとやかく言わんが」

「お前のそういう所、俺は好きだぞ。

ま、俺は最近は誰かと付き合う、なんてことは無いんだが」

「ほぉ、何かあったのか?」

「さっき言ったけどお前とつるむのが楽しいのが1つ。もう一つは最近バイト三昧でめっきり時間がなくなってな。そんな暇がない」

「今日は大丈夫だったのか?」

「一応週に最低でも2日は何もシフトを入れない日を入れなさいって姉ちゃんに言われたからな、今日は休み。妹とか弟とかの世話もしなきゃいけねえし。今日はたまたま親父が休みだったから引き受けてくれたんだ」

「そっか……時間割いて俺の提案に付き合ってくれてありがとな」

「俺の方が色々付き合ってくれてありがてぇよ」

誠司と夕方になるまで談笑した。


 誠司と別れて帰路に着く。

夕焼けが目に眩しく、カラスがカアカア鳴いている。

そういえば今更になって気づいたがこの辺は夕方を知らせる鐘だとか町内放送とかがない。

前世だったら今頃鐘が鳴っていたのになぁ……という一抹の寂しさを感じた。


 家に着くと母が夕飯を作ってくれていた。

ただいま、と告げると

「丁度良かった。林間学校でカレー作るんでしょ? 今日カレーだから練習がてら手伝ってくれない? わからなかったら教えるから」

というありがたい御言葉を頂戴したので手伝うことになった。


 スルスルとジャガイモの皮を包丁で剥いていると

「あら、案外悪くないのね」

と言われる。一応前世で家庭科でやることになった際、母にレクチャーしてもらった甲斐があったようだ。

林間学校ではピーラーで剥くこともできるが、やはり包丁が使えるに越したことはない。

ほら、憧れるだろ? 料理できる系男子。

母にアドバイスをもらいながら様々な野菜の皮を剥いたり切ったりして手伝った。


 煮込み続けてあと少しで完成、というところで

「そろそろできそうね。陽菜呼んできてくれない? 部屋にいると思うから」

と言われた。

ええ……何か言われそうでやだ。まぁ行くんですけどね。


 妹の部屋をノックすると

「……誰?」

という声が聞こえた。

「おう、俺だよ俺」

「は? 俺俺詐欺?」

案外兄妹で思考回路が似ているのだろうか。

いやでも中身の俺はコイツとは何の関係も無いし……まぁいっか。

「夕食、できたぞ」

「メニューは?」

「カレー」

「私のは人参入れないで」

あんなに美味しいのに……人生の3割程損しているぞ。

「入れたらスマッシュ打ち込むから」

「思いっきりバックのストロークで打ち返してやんよ」

おっ今のはいい感じに決まったな。俺はどちらかと言うとバックの方が得意というか好きだ。

会話のラリーが上手なことで……すみません、何でもないっす……。

妹の部屋の前で勝手にいい気になったり凹んだりして何やってるんだろう……俺。

何か虚しくなったのでリビングに戻った。


 妹が来たところで配膳をし、カレーを食べた。

うん、自分が調理したということで更に美味く感じる。

この調子ならカレー作りの際も足を引っ張らずにすみそうだ。

俄然林間学校が楽しみになった。


 

 食べ終わって食器を洗い、風呂に入る。

ああ〜気持ちええんじゃ〜

今日は結構歩いたりして楽しかったけど疲れる1日だった。

お湯の温かさが体に染み渡る。うーんお風呂、合格や!……何に?


 風呂と1人漫才を堪能し、部屋に戻って布団に倒れ込む。

少しすると眠くなってくる。やべ、上半身何も着てない……が、このまどろんでいる時が1番好きなんだよなぁ。異論は認めない。

風邪を引くかも、と思いつつもとうとう睡魔に負けて眠ってしまった。

おやすみ……










 

















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