第14話

構成に悩み続けた結果今回も2話編成になってしまいました。色々申し訳ございません。

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 4月15日


 地獄、と聞いてみなさんは何を浮かべるだろうか。

装備を全部没収されて追放されること? 信じていた彼女に裏切られることだろうか? ……ネット小説に毒され過ぎだな、冗談だよ。

何が言いたいのかというと、俺は今地獄にいる。


 

 「来週の林間学校のバスの席だとか部屋割り決めんぞー」

地獄の始まりは守田先生の一言だった。

こんな一言が地獄の始まりってお前wって笑いたきゃ笑え。

でもこの一言程俺を絶望の底へ叩き落とす言葉はない。

正直に言おう。

組んでくれる友達がいないんだ(^○^)


 そもそも入学式後のクラスの親睦会なるものに参加していない時点でクラスメイトとの繋がりなんてない。

ついでに言えば不良っぽいというレッテルが貼られているのか、話しかけてもビクビクされるだけで友達が増えそうな気配は一切ない。

話しかけられたのは高宮以外だとこの前のAとBだけだ。


 そんな訳で組んでくれる人がいないのである。組もうにしても殆どクラスの友達のグループができているので入りこめん。

マジでどうしようと頭を抱えているうちにどんどん決まっていく。まだ決まってない奴は俺の他にいるのだろうか。


 そんな時だ。どうしようと呆けている俺にガタイのいいイケメンことアルベルトが声をかけてきた。

「藤堂、俺と組まないか」

今の俺にとっては仏の声のように聞こえた。

 

 「アルベルト……お前、いい奴だな……」

「? ……俺も組める人がいない所でお前があぶれているのが見えたから話しかけただけだが。……それに、俺の名前はアルベルトではない」

まさかの衝撃発言。お嬢様がアルベルト呼びをしていたから本名だと思ってたわ。


 「改めて俺は有原鈴人(ありはら れいと)だ。よろしく頼む」

「俺は藤堂広嗣。こちらこそよろしくな」

互いに自己紹介を改めてする。ここで互いに自己紹介をする奴らなんて俺らくらいだろう。

それにしても有原のあだ名がアルベルトねぇ……。

ハッ、もしかして……

「お前のあだ名って有でアル、鈴でベル、人でトって読んでそうなったりしたのか?」

「……」

「おーい、有原さーん」

「……正解だ。よく分かったな」

適当に言ったはずなのにまさかの正解を引いてしまうとは……。

「俺と佳代は幼馴染という関係でな。小さい頃から一緒だった。……いつだったか読んだ漫画のヒーローがアルベルトという名前だったらしい。当て字のような形でつけられたんだ」

「へぇ……仲がいいんだな」

「ああ。昔から俺の手を引いてくれるいい奴だ」

「そういえばお嬢様はバスの席順どしたん?

男女混合でも良かった筈だが」

「……ガタイがよくてを隣席を圧迫してくるから嫌、とのことだ」

お嬢様に振り回されて哀愁漂う有原を改めて見てみると確かにガタイがいい。

筋肉ダルマ……というほどでもないが、背が高いのも相まって確かに隣にいたら座りづらそうである。

……ん?

「ちょっと待て。お嬢様で圧迫されるんなら俺はもっとヤバいじゃん」

「だが他に組むアテはあるのか?」

「ハッ、今からでも……無理だな、うん。よろしくな」

こうして俺の林間学校のバスではマッチョに圧迫されながら座ることが確定したのだった。


 そうだ、今更だが林間学校について触れておこう。

簡単に言えばカナリア学園1年生が迎えるの最初の年中行事だ。 

ゲームでは釣り体験の際にヒロインといちゃつきながら胆力と器用のパラメータが上がったり、山登りして筋力が上がったり、キャンプファイアー焚いたり、カレーを作ってまたもや器用が上がったりした。



 では現実ではどうか。ざっくりと説明しよう。2泊3日で広大な山々に囲まれた宿舎に泊まる。

1日目は宿に着いたら昼食を食べ、その後は宿舎内に限り自由行動。あ、男女で棟は分かれていて出入りは禁止な。

で、4時くらいに外に集合して班でカレーを作ったり、キャンプファイアーの木を組んだりする。

夕飯としてカレーを食い、キャンプファイアーの周りで踊る。

2日目は登山。

3日目では午前中に釣り体験をし、釣った魚を昼食として食べて帰る、という感じである。


 因みに部屋割りは2人〜3人で1部屋で、結局有原と同室となった。また、カレーを作る班に関しては目下悩み中だ。

別に人数に下限はなく俺と有原だけで作ってもいいんだが1人1人の負担が大きくなるからな、できればあと何人か欲しい。

あ、こんなの林間学校じゃない、そんな大きな釣り堀があるわけない、みたいな感想は受け付けないぞ。だってここはゲーム(が元になった?)の世界だからな。いちいち前世の常識で測っていたらキリがない。

そんなものだと割り切らなきゃやっていけないぞ。


「なぁ有原、残念なお知らせだ」

「……聞こう」

「カレーの班を組める奴がいない」

「案ずるな。俺もだ」

「地球外生命体Xでもいいから声をかけていくか」

「異論は無い」

俺と有原の班探しが始まった。


「なあ、お前ら。俺たちとカレーの班を組んでくれないか」

「あー……悪いな、さっき決まっちまった」

「……俺たちと組んでくれないか」

「ヒッ、有原君⁉︎ ご、ごめん……他の人を当たって」

「なあ君た「ごめんなさい!」ち……」

      「「……」」

「だめだ……組んでくれる奴がいねぇぞ……」

「……ここまで断られるとはな」


 見て分かるかもしれないが全戦全敗である。

これでは俺と有原のみで作ることになってしまう。

……いや、腹を括るか。どっちが何をやるか話し合おう。


 そう諦めて有原に分担決めを待ちかけようとすると高宮が話しかけて来た。

「おや、藤堂さん。まだ班が決まって無いんですか〜?」

ニヤニヤしている。殴りたい、このニヤケ面……ではなく何の用だろうか。

「何の用だ、高宮」

「ふふん、藤堂さん達が班決めに苦戦していると聞いたので、救いの手を差し伸べてあげようと思いまして」

高宮程の美少女なら組みたいやつはごまんといるだろうに俺を誘って来た?

まさか高宮も決まってないとか? いやいやそれは無いだろう。

「お前程の奴ならすぐ他の奴と組めるだろ?」

「んー、どうしてか断られるんですよねぇ。

同じ中学の子とかに一緒に組まないかって言っても断られちゃって」

おかしいな……周りの反応はどうだ?

男子は睨んでいて女子は犠牲者を悼むような目で見てきている? どういうことだ。

「へぇ……そうだ、班のメンバーは誰なんだ?」

「それはですね〜「私よ!」あ、先越されちゃいました」

声が聞こえた方を振り向くとお嬢様……皆川佳代がそこにいた。まさかコイツが原因か?


 「アルベルトとそこの不良、私と高宮さんと班を組むことを許可するわ!」

お嬢様がなんかのたまっているが今はそれどころでは無い。コイツらが余っている理由を確かめなければ。

「おい、有原。お嬢様になんか問題点はあるか」

「急にどうした。……あの高飛車な言動以外は問題ないと思うが」

なら高宮の方が問題があるのか。……いや、ここはヒロイン力を信じたい。

まさか料理が下手だから忌避されている……なんてことはないだろう。

偏見だが大抵ああいう奴は料理が美味い。

それにメシマズ属性まで持っているのだとすれば属性過多にも程があるため、ないと考えてもいいだろう。

「高宮、さっきの提案受けさせてくれ」

なんか周りからの殺気と哀れみの視線が強まった気がするが気のせいだな、うん。


 しかし何とかこの地獄を何とか切り抜けることができた。

前世も……いや、やっぱ辞めておこう。心に傷を負うだけだ。

とにかく、班決めとバスの隣人決めなどが片付いていい気分になって帰った。




 4月17日

どうもみなさんおはよう御座います。

現在の時刻は午前6時、天気は快晴。

今日は誠司とアカツキデパートで買い物をする日である。

現地に10時集合ということで珍しく早く起きた。眠いです……。


 目をこすりながらリビングに行ってみても誰もいない。

炊飯器を開けてみても何もないのでパンでも焼くか……ってないし。米も無い、パンも無いとは少々困ったな。

しょうがないのでコンビニに行って適当に買うか。


 肌寒い中コンビニに向かう。春のくせにまだ寒い。やっぱ朝って嫌いだわ。


 ぶつくさ文句を垂れているうちにコンビニ着いた。さて何を買おうかな……ってあの姿は……

「……守田先生?」

「んー? おー藤堂、おはようさん」

 手に酒を持った我らが担任、守田晃誠がそこにいた。


 「どうも。……朝から酒っすか。流石に体に悪いっすよ」

「いや、これ同棲してる彼女がご所望の奴なんだよなー」

「え、先生彼女いたんすか」

「いるぞー……で、俺はこっち」

ははーと笑いながらさっきと違う種類の酒をカゴにぶち込む先生。いや、あんたも結局飲むんかい……。

「そんな呆れた目で見るなよー、照れるだろー?」

「だったら生徒の前で酒を爆買いすんなよ……」

「……なぁ、藤堂」

急に真面目な雰囲気を醸し出す先生。どうかしたのだろうか。

「……先生っていう職業はな、飲まなきゃやってられないこともあるんだぜ?」

そういう先生の目はとても淀んでいる。先生という職業の闇を見た気がした。


「じゃー俺は帰るわ。藤堂も事故とかに気を付けるんだぞー」

先生がそう言ってコンビニから出て行く。

はあ……どっと疲れが押し寄せてきたな……。

8枚切りのパン(家族用)とコールスローと豆腐、おにぎり1個を買って帰路についた。


 家に着いてリビングにいくと誰もいない。まだ寝てるのだろう。

パンはテーブルの上に置いておけばいいか。

コールスローを皿に盛り、豆腐を上にのっける。

おにぎりを温めて、インスタントの味噌汁を入れて……んじゃ、朝食と洒落込もうかね。


 いただきまーす……と手を合わせたところで急にリビングのドアが開く。思わずビクッとしてしまった。

今いいところだったのに……とリビングに入ってきた奴を睨め付け……やっぱりやめとこ。

「……どーも」

「……はよ」

我が妹、藤堂陽菜との遭遇の瞬間である。


 妹は欠伸をしながら水道へ行って水を注ぎ、一気に飲みほす。それからテーブルのパンに気づいたようで俺に声をかけてきた。

「……パン、アンタが買ってきたの?」

「朝食食おうとしたら何も無かったからな」

ふーんと興味なさそうにいう妹。

いやいやふーんって、君。もう少し興味を持ってくれ。朝寒いのに買ってきてやったんだぞー。

妹の薄情さを嘆いていると妹が俺をじっと見つめているのに気づく。いや正確には俺の手元……朝食を穴が開きそうなくらい見詰めていた。


「……そんなに俺の朝食が気になるか?」

「……っそんなんじゃ無いわよ」

「やらんぞ、特に豆腐は駄目だ」

「……先っちょだけでいいから」

「それ全部食う奴のセリフだろ。やらんと言ったらやらん」

というか何で先っちょだけ〜というフレーズを知っているのだろうか。

「……よく友達が使ってるだけよ」

エスパーかな?……というか妹の交友関係大丈夫か? お兄ちゃんは心配です(今更ながらの兄貴面でキモい? ほっとけ)。


「……駄目?」

妹が珍しく下手に出てくる。いつもだったら高圧的なのに朝だからか勢いがない。……仕方ないか。

「……実はもう一丁あって、冷蔵庫に入っている」

ピクリ、と少し反応がある。

「よかったら食っていいぞ」

そう言った瞬間妹は目を大きく見開き、珍獣を見たような感じで

「……いいの?」

と聞いてきた。一体俺のことをなんだと思っているのだろうか。

「おう」

「……いくら?」

「100円でいいぞ」

「後で払うのでいい?」

「どうぞ」

そろそろ食べようかな……あ、おにぎり冷めちゃった。また温めなきゃか……。


 温め直して朝食に舌鼓を打っていると妹もテーブルに座って朝食を食べ始めた。パンを焼いている間に豆腐に醤油をかけて食べている。

美味そうだ。ちなみに関係ないけど俺は何もかけないで食べる派である。

あの味がたまらないのよ。


 そうこう考えているうちに食べ終わり、時計を見ると現在7時30分。8時30分くらいに出発したいからそれまで何かをしよう。

ということで1時間程英単語を書いて時間を潰すことにした。


 



 ピピピピッと設定しておいたタイマーが鳴る。お、そろそろか。時間を見れば8時37分。出発にはちょうどいい。準備をしてデパートに行こう。


 


 


 


 










 







 






 


 


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