第13話
4月13日 放課後
守田先生の話が終わり今日は解散となった。
さて今日は何をしようかね。テニスに行くんだっていいし、オッサンの所でバイトさせてもらうのもいいかもしれない。
最近はなんだかんだ言っていい事づくしで何もなければいいんだがなぁ。
「おい藤堂。面貸せ」
いや、 家に帰って復習するのもいいかもしれない。
学習内容が同じと言っても抜け落ちている所なんていくらでもある。それを埋めるチャンスだな。
「おい、聞いてんのか!」
ハッ、勉強するのであればオッサンの店でやらせてもらえばお金も稼げて一石二鳥だな。
いやぁ本当にいいのかね?……普通じゃあり得ないか。オッサンに感謝だな。
「藤堂、お前ワザとか⁉︎」
そらそうよ。だって面倒くさそうな予感がするし。
先程からうるさい奴に顔を向ける。数は2人。男か?(最近は精神が女性という人もいるので一概にはいえない……が、見た目は男だ)
で、何の用だろうか。
「何の用だ?」
「だから面貸せって」
「いや、要件ぐらい言ってくれなきゃわからんやろがい……。言えないこと?」
問い詰めると右の方にいる男がチラチラと後ろに目を向けた。
振り返って見れば鼻歌を歌いながら高宮が鞄を整理している。
高宮が視線に気づいたのか、
「やや、藤堂さん。そんなに熱い眼差しで見ないでください……あ、もしかして吹奏楽部に一緒に見学に行きたいんですか?」
まったくしょうがないですね〜、ま、まあどうしてもというなら着いていく権利を〜だなんて言っている。そもそも吹奏楽部の所までは行けるのだろうか。
恐らく男たちの用事は右の奴から察するに高宮絡みのこと。一瞬高宮を巻き込もうとも思ったが部活動見学に行くのであれば巻き込むわけには行けない。
「今日は用事があって行けないんだ。折角誘ってくれたのに悪いな」
丁重に高宮のお誘い(という名の音楽室ヘのガイド)をお断りしつつ、男たちに着いていくことにした。
「あ、藤堂さん。1ついいですか?」
「おう、どうぞ」
「音楽室ってどこでしょう?」
「……校舎沿いに行けばいけるんじゃね?」
多分。
2人についていけば校舎裏に着いた。
ジメジメしててドクダミなんかが生えているが、涼しい。人気はなさそうだが、相手が壁側にいるので暴力沙汰にはならなそうである。
「……で、何の用?」
先に話しかけて相手の出方をうかがう。
考えられるのは高宮とどんな関係だ⁉︎ とか高宮に近づくな! みたいな話だろうか。
反応がないのでじっと見つめていると右の奴がようやく口を開いた。
「高宮さんとどういう関係なんだ⁉︎」
おお当たった。当たったからなんだという話だが。
しかし実際に関係を尋ねられても困ったな。
俺と高宮の関係とはなんだろうか?
避けたい人物です?……現状まったくできていないし、何言っているんだコイツと心配されてしまうだろう、という訳で却下。
友達……でもないな。誠司の先例があるから友達だと言い張ればそうなのかもしれない。でも何かしっくりこないので没。
そういえば今朝方に高宮が俺に関して何か言っていたような……そうだ! 宇宙人である。
で、高宮は……まあ方向音痴でいいか。
そういえば無事に音楽室に行けたのだろうか。
無責任な発言をした分気になる所ではある。
「なぁ、どうなんだ⁉︎」
「まぁ落ち着けよ。せっかちな奴はモテないぞ?」
「君に関係ないだろ!」
「確かに……ああ、高宮との関係だったな。宇宙人と方向音痴……これでいいか?」
フッ……決まったな。これで彼の問題は解決、俺も帰れる。さっさと行こう。
「ちょ、ちょっと待った!」
歩き出すと声をかけられる。ええ……?関係性言ったじゃん。
不満げな顔をするとヒッと右の奴が小さく悲鳴をあげる。
左の奴は黙って俺を睨んでいる。
何でいるんだコイツ。
「宇宙人と方向音痴って……一体何なのさ」
「なんなんだはこっちの台詞だ。そもそも勝手に連れ出して尋問、しかも2人でくるって要件は何だ。こっちだって暇じゃないんだ(大嘘)」
暇じゃないのは嘘だとしても、勝手な都合で振り回されているのには変わりがない。
「それに関してはすまない、だが話を聞いてやってくれないか」
ようやく左の奴が喋った。だからそもそも話とはなんぞや。まぁ暇なんで聞くんですが。
「僕は……その、高宮さんのことが好きで……」
右の奴……Aでいいか。Aは高宮が好きになった理由を話し始めた。
えーとまぁ、要約すると同じ中学出身で、消しゴム拾ってもらった、音楽の上手さを褒めてもらった、好き!
みたいな感じ。
で、俺を囲むことにした理由として、普段異性と話さない高宮がすごい喋ってる、アイツ何者だ! という感じ。
よって感想。
「君と高宮の話は分かった。うーんとまぁ……頑張れ?」
「え?」
なんかAが呆けているがそうとしか言いようがない。というか好きならさっさと行け。俺を巻き込むんじゃない。
「いや、そこまで好きなんだったらさっさと告白してくれ。俺に尋問することは無駄以外の何物でもないぞ」
「そんなに簡単にことは進まないんだよ」
前世含めて恋愛経験がない俺からすればよくわからない世界の話である。
まぁ現在進行形で恋愛をしている彼の言葉の方が正しいのだろう。
「というわけで俺が手伝っている」
と左の奴……Bでいいか。Bがそう述べる。
「手伝う、とは?」
「えっ……、まぁそうだな。好きな物を探ったりとか……その……何だ、そう、色々だ!」
興味深いな。方法によっては今後の人とのコミュニティ形成の役に立つかもしれない。
「どんな風に?」
「高宮の友達に聞いたりとか……?」
「待って、高宮さんの好きな物なんて聞いてないよ、どうして教えてくれなかったの?」
「え?……あ、あー……そう! 忘れてたんだ。決して秘密にしようだなんて思ってなかったぞ、うん」
先程からの恋愛ポワポワな雰囲気から一気に険悪な雰囲気になった。
一気にその後の顛末を言うと、そんな2人の空気に置いてかれてボッーとしているとついにAとBは口喧嘩を始めた。
やれ一々俺に聞いてくるなだの、信じてたのに……などなど。
しまいには何とBも高宮のことを探っているうちに自分も好きになっちゃいました、という衝撃の事実が発覚。
とうとう2人は袂を分かちましたとさ、おしまい。
えーと、その、何だ。何とも言えねぇ……。
2人の友情が崩壊したのを見届けると校舎裏には俺だけになった。
「……帰るか」
自分にアイスでも買ってあげたい気分。
色恋沙汰になると友情なんてあって無いようなものなのかねぇとゲンナリしながら帰路につく。
プルルルルプルルルル
……知らない電話番号だ。まぁ出てみるだけ出てみよう。
「はい、もしもし?」
「おう広嗣、俺だよ俺!」
「俺俺詐欺? 金はないぞ、むしろくれ」
「違ぇよ! 俺だよ! ……あれ、これじゃ俺俺詐欺みたいだな。あれだ、タライントの店主だよ」
「そういえば連絡先交換してたな……バイトの話?」
「おう、今から来てくれねぇか」
「了解、今から向かうわ」
連絡アプリで母にバイト行ってきますと一報を入れておく。
というわけで初バイト、行ってきます。
店に着くとオッサンは既に出かける格好で待っていた。スキンヘッドではなくニット帽を被り黒いコートを着ている。
「……不審者?」
「……やっぱそう見えるか?」
自覚あるんだったらどうにかせい、と喉まで出かかったが何とかとどめる。
「それで俺は店番をすればいい?」
「おう、今から2時間程出てくるから頼むわ」
現在の時刻は4時ちょっと前。ということは大体6時に帰ってくるということだろう。
「あ、途中でもし帰ってこいって言われたらどうすればいい?」
「あー……ま、いいか。ほらよ」
オッサンが何かを放り投げてきたので慌てて受け取る。鍵だ。
「俺がいない間に帰ることになったら戸締り頼むわ」
「成程、了解」
「あ、その時は金はカメラ見て何時間いたか確認して後日渡すからな」
「はいよ」
まぁ気張っていきましょう。
気張っていきましょう、なんて思った手前、まず俺が確認したのは会計に関してだった。
だって前世含めてバイト経験はゼロ。レジスターの打ち方はもちろん、バイトのいろはすら知らない。
レジスターのある所へ向かい見てみるとメモが貼ってある。
なになに……
『多分レジの打ち方なんて知らないだろうから、もし客が来て何か買って行ったら2段目の引き出しから釣り銭を渡してくれ
んで、何がいくつ買われたとかメモしといてくれ』
俺の中でオッサンの株が爆上がりした瞬間だった。
そういう訳でレジスターのあるカウンターテーブルで勉強することにした。
まだ始まったばかりのためそこまでつまづくところはなさそうである。
げっ……(4つの項)×(4つの項)の計算だ……こういう所でよく計算間違いするんだよな……。
所々でウンウン唸りながら数学を解いていると入り口の鈴が鳴る。誰か来たようだ。
「いらっしゃいませー」
と一応声をかける。笑顔でかって? 出来なくはないのだが目と口がヒクヒクしてキツい。
だから仏頂面。……こ、声は優しげな響きをしているだろうからセーフ(?)
多分オッサンもこんな感じだろう。
改めて客を見てみると、どうやら小学生の男の子のようで、手にはカードゲームのパックがある。
「これください!」
幸いシールの値札が貼られていて、120円という数字と文字が印刷されている。
「これは……120円だな。1パックで大丈夫か?」
「うん! はい120円!」
握っていた100円玉と10円玉2枚が差し出された。
懐かしいなぁ……前世で小さい頃近所のコンビニに貰った小銭を握りしめてお菓子を買いに行ったっけ……。
釣り銭が発生することがなかったのでカードゲームの種類をメモに書き込んだ。
しかしカードゲームが120円か。安いな。
前世はカードゲームは殆どやったことない。精々スーパーにある、ヒーローのカードをスキャンして戦わせるやつぐらいだ。
それに小さい頃は自由にお金を使えなかったので買えなかった。(今となっては、親が俺のハマったら際限なくお金を費やしてしまうという性格を知っていたからだろうが)
だから周りの子がカードゲームをやっていてその話をしていたら会話に混ざることなんてできなかったな……なんか悲しくなってきた。
しかも年々値上げしたりルールが複雑化したりで……もう考えるのやめよ……
勝手に傷ついた所で勉強を再開する事にした。今度は教科を変えて日本史をまとめている。ああ浜北原人、山下町洞人……お前らが俺の癒しだ……。
しばらくして石器の絵を描くのに悪戦苦闘していると入り口の鈴が鳴った。
ニット帽に黒いコート…… オッサンか、マジで一瞬不審者かと思った。
「いらっしゃいませー」
「お、挨拶の練習か?」
「そんなところ。……で、なんかアドバイスとかある?」
何年も接客業をやっているであろう先輩からアドバイスをもらう事でこれからに役立てることができるだろう。
「……強いて言うならもっと笑顔にしてみたらどうだ? ほら、スマイルは無料って言うだろ」
できる限り笑顔を作ってみる。
「うわ……気色悪ぃ」
「き、きしょっ⁉︎ ……いいぜ、そこまで言うならオッサンも笑顔を作ってみろよ」
いいぜ、とオッサンがニタァと笑う。
「オッサンも大概だな」
「伊達に近所のガキを何度も泣かせてねぇよ。……もしかして俺接客業向いてない?」
結局笑顔が無くても真心がこもっている挨拶ならいいよな、ということになった。そうでなければやってられねぇよ……。
「所でなんか売れた?」
「カードゲームが1パック売れた。……他に客来なかったけど大丈夫か、この店?」
「ガキがそんなこと気にすんな。……またこれか。最近流行ってんのかね?」
メモを渡すとそれを見たオッサンがぼやく。
それから、
「お、そういや店番あんがとな。これ今日の分」
と1820円を渡してきた。2時間だから1時間910円か。貰えるだけありがたい。
「どうも……あ、鍵は返した方がいい?」
「いや、お前がそのまま持ってくれててかまわねぇよ。出先で連絡するかもしれないし」
こんな感じで初バイトは終了した。
現在の時刻は6時30分。日が延びてきたとはいえもう暗い。あとなんだかんだでまだ少し肌寒い。
学生服のポッケに手を突っ込みながら歩いた。
家に着くと母が1人リビングでテレビを見ていた。
「ただいま」
「おかえり。陽菜は今日は部活であと少しで帰ってくるって」
それなら自分の部屋で暇を潰そうかな。
バイト代を貯金箱(何とお札を挟めるという優れ物!)に入れる。小銭が貯金箱の中を跳ねる音がたまんねぇ〜! ……冗談だ。俺に5セントコインを貯金箱に入れて振って喜ぶ趣味はない。
「広嗣ー!夕飯ー!」
……本当に少しの時間だった。
リビングに向かえば妹だけで無く父もいる。
丁度仕事終わりの時間と部活の終わりの時間があったらしい。家族4人で夕食を食べた。
「広嗣、ちょっといい?」
夕食が終わって部屋に行こうとすると父に呼び止められた。ちなみに母と妹は風呂。
「どうしたん?」
「冷蔵庫に貼ってあった行事表を見たら来週林間学校があるらしいね……というわけで、はい」
そういえば林間学校は来週だったっけか。早いものだと父の手を見てみればなんとビックリ、10000円があるではないか。
「マジでどしたん?」
「準備のお金。新しい肌着とか色々揃えるのにお小遣いじゃ足りないでしょ?」
確かに諸々を新調するには魅力的な話であるが、こうは言っては悪いがなんか怪しい。
「……何かあった?」
「はは、普通に善意だよ……なんて言えたら良かったんだけどね……」
いつもの柔和な雰囲気から一転、真面目な雰囲気になる。
「来週の日曜日に少し話したいことがあるんだ」
「……わかった」
藤堂の記憶の中、母が藤堂にイラついていても宥めてくれていて柔和な雰囲気を崩さなかった父がここまで真面目な表情で頼み事をしている。ここは素直に話に乗った方がいいだろう。
「……ありがとう。あ、お金をあげる話は本当だからね」
じゃあお休み、とまた柔和な雰囲気を纏って父はリビングから出て行った。
しばらくして風呂に入って部屋に戻ると連絡が来ている。誠司からだ。
『日曜日に林間学校の準備しにアカツキデパートに行こうぜ!』
本当は1人で準備しようかなと思っていたところだったので渡りに船な話だが、若干タイミングが良すぎる気がしないでもない。
二つ返事で了承すると
『オッケー! んじゃ現地にいつ集合がいい? 俺はいつでも大丈夫よん』
と返信が返ってくる。
10時ぐらいでいいかと送れば了承の意を伝えるスタンプが返ってきた。
連絡アプリを閉じて時間を見てみれば寝るのに良い時間だったので寝る事にする。
今日は本当に色々ありすぎる濃い1日で疲れた……お疲れ俺、そしてお休み……
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