第11話
4月9日
今日は普通に起きられたので学校に向かう。途中で何かあることもなく平和な朝だった。
さて今日から本格的に授業が始まる……と言ってもオリエンテーションだが。
これもまた特に何もなく終わった。
さて問題は昼食である。昨日の一件で家からパンを持って行くといけない、ということを学んだ。
今朝もパンがテーブルの上に置いてあったが俺は騙されない。これは妹の巧妙な罠だ。買わせるアイスの個数を増やす為の策に違いない。
フッ……勝った……!
というわけで今の俺は何も昼食がない。母は弁当は作ってくれない。欲しいなら自分で作れ、というのが我が家(もう自分の第2の家と言ってもいいだろう)のいくつかある家訓の1つ。
当然俺は朝はつよつよではなくよわよわなので作れる筈がない。というか料理は前世含めて経験が殆ど無い。
料理教室にでも通おうかしら。
つまり今の俺の選択肢は3つ。
・学食(ただし金銭的にはキツイ……か?)
・購買(少ない個数しか買えないので腹が減るだろう)
・いっそのこと抜く
以上である。どれにしようか、なんて頭を悩ませているとピロン、と着信があった。真中だ。
『昼どうすんのー? もしよければ一緒に食おうぜー』
いい奴だ。クズだけど。クラスで孤立気味の俺にとってまさにあいつは救世主。クズだけど。
結局購買でメロンパンを買って屋上に向かう。
重たい扉を開けると真中が既にいた。
「お、広嗣! 来たな……おいおい昼飯それだけか?」
「ああ、金がない。つーわけで今日はバイトでも探そうかなと思ってるんだが」
「てことは部活しないカンジ? つっても俺もニートだけどな!」
「そりゃまたどうして……真中は弁当か?美味そうだな」
「下の名前でいーよ、あと弁当は絶対にやらん。まぁ俺も色々あってバイト探してる途中」
「いや欲しくて言ったわけじゃねぇよ……。ところで美味しいバイトとか知ってたり?」
「そーだな……そういや家庭教師とかなら稼げるかもな」
「ほーん。やっぱ近所の子とかに教えたら結構もらえでもしたのか?」
「まあな。……と言っても俺が馬鹿すぎたのと教え子に手を出しちゃって……この話、聞きたい?」
「さすクズ、いらんわ。まぁでもサンキュ。探してみるわ」
こんな感じで俺の昼休みは終わった。
午前があんな感じだったので察しのいい方なら分かるだろう。特に午後もなかったよ。
学校が終わったのでコンビニに直行。求人雑誌を見るのとアイスを買う為だ。
求人雑誌を見てみればいくつか面白そうな案件があったので写真を撮る。
アイスは確かバニラと言っていたのでバニラを購入して家に帰った。
今日だけで財布に早くもダメージを喰らった。畜生。
家に着いてアイスを冷凍庫にぶち込んで早速リビングのソファで寝っ転がりながらバイト内容を確認する。
そういえばゲームでバイトやってたんだからそれをやればいいんじゃない、と思うかもしれないが俺がそうしないのは理由がある。
一つはそんなギッチギチでシフトを組む気はない。二つ目は……ぶっちゃけこれが一番大きい。そう、ゲーム内では出来高制だったので時給がわからない。
ゲームでしていることを現実にやるのはほぼ不可能なのと一緒で、いい額を勝ち取るのは不可能なのである。そもそも現実での給与体制がわからない。
そういう訳で俺は普通のバイトを探しているのだ。
ちなみに今1番気になっているのはこれ。
『テーマパークの清掃員
一日中働ける方歓迎! 週1日でもOK!
時給:1300円(休日は10%UP)
※交通費請求可 ※賄いあり』
マジで夢のようなバイト。まぁこれは前世バイトをしたことない奴の考え方だから生温い考え方なのかもしれないが。
少し遠い場所にそのテーマパークがあるので休みのうち1日(もう1日はテニス)しか働かないが、それでもやってみたい。
他のバイトを見てウンウン唸っているといつのまにか帰ってきていた母が
「あれ、何しているの?」
と声をかけてきた。
そうだ、パートで働いている母ならば良し悪しがわかるかもしれないということで、バイトを探している旨を伝える。
すると、「へぇーいいんじゃない」の一言で一蹴。
肩透かしを食らっているとまぁ社会に揉まれてきなさいと言われた。
確かにそうだと思い電話をかけることにした(このバイトの応募は電話でするのだった)。
「そうだ広嗣、今日テーブルの上にあったパン持って行った?」
「え? いや持ってってないけど」
「昨日陽菜が怒っていたからさ、広嗣のために買ってきてあげたんだけど」
マジかよ……。
なんとか明日からも買ってきてくれるということを取り付けて部屋に戻る(この時その分お金が欲しいとは言ってはいけない)。
件のテーマパークに電話をするともう今日は対応が終わっているので明日かけろみたいな機械音声が聞こえてきた。えぇ……。
バイトの電話を終えると俺は暇になった。
といってもやりたいことはないし、やりたくないこともない。
ゲームの知識でも書き出す? いやどこかでバレそうだ。 あとそこまでイベントに関して覚えていない。だって3年間もあるのだ。精々デカい出来事しか記憶にない。
ほかにも勉強や昼寝……とは思うのだかどうもしっくりこない。
そこでふと思い出した。そうだ『占いの館』があったじゃないか、と。
フハハ、俺ってば天才すぎる。確認すると1ヶ月に1回なのでもう利用回数はリセットされている。
以前やらかしたことを忘れてウキウキしながら条件を打ち込む。
結果を見てみれば『ショップ・タライント』と書いてあった。
あのオッサンにまた会いに行くのか……と思いつつも外出準備をして出て行く。
現在の時刻は5時程。外は春ということでまだ明るいし、暖かい。
テクテク歩いていけばそよ風が気持ちいい。
そういえば主人公の住む街(俺の住んでいる街でもある)は風が気持ちいいのだというのをどこかで見たことがある。
鼻歌を歌いながらタライントに向かった。
タライントに着いて入ってみるが誰もいない。
「誰かいませんかー?」
声をかけてもいない。
誰もいないんじゃしょうがない。この世界の『占いの館』は使えないんじゃなかろうか。
こんな物まで⁉︎ と感心しながら店内を見て巡る。
しかし本当に何でもは言い過ぎかもしれないが品揃えがすごい。あのオッサンマジで何者なんだ。
店内の奥を見ていると紙袋が無造作に置いてある。見てはいけない……という予感がするが、それでもやってはいけないことをやりたくなるのが人間の性。
気づいたらしゃがんで紙袋に近づいていた。
お前人としてなってないよだなんて言わないでくれよ。
見るだけだからと言い訳して紙袋の中を見る。
さてさて何があるのかな……⁉︎
そこには袋に包まれた白い粉があった。
一瞬頭がフリーズする。こいつはヤバい。
やっぱあのオッサンやべー奴だった。
これは見なかったことにして早く逃げなければー「ん? お前来てたのか」
あ、オワタ\(^^)/
振り返ってみるとオッサンがいる。ヤバいぞ、ヤバいぞ……冷や汗をかきながら
「ま、まぁ。ちょっと事情があって……」
なんて言い訳をする。勿論、例のブツは後ろに隠している。
「あー? いやいや、お前そんなタマじゃねぇだろう。……なんか後ろに隠してんのか?
……流石にアイツの息子でも万引きはなぁ……」
なんかオッサンがブツブツ呟いているがどうしたらここから逃げ出せるだろうか。
思考を巡らせているといつのまにかオッサンに詰め寄らている。
「ま、この俺がいない間に万引きなんざ100年早えよ。万引きの基礎学でも学んできな……お前、それ!」
俺はその後日の目を見ることはなかった。
というのは嘘でオッサンはワナワナと震えている。これはチャンスだ。
「俺は何も見ませんでした。という訳でこれで……」
何事も無かったかのように去る。パーペキだ。
これで勝つ「いやいや、いかせねぇよ?」る……ことはありませんでしたね。
また振り返るとオッサンはニコニコ笑っている。
「え、キモ」
「お前ひどくねぇか⁉︎ ……お前これ気になってんだろ? 変な噂広められたくねぇから店の裏来い。説明してやる」
オッサンに連れられて店の裏……というかオッサンの居住スペースに行く。
「ここに人が来るなんて久しぶりだな。……麦茶でも飲むか?」
「いや大丈夫です。お気になさらず」
「今更だけど敬語使わなくてもいいぞ。お前の敬語聞いていると鳥肌が立ってくる」
酷い! とは冗談で敬語を使わなくてもいいのか。
「うい。あーなんかスッキリした」
「適応早すぎねぇか?……まぁいい。さっきのブツについて話そうじゃねぇか」
オッサンがそういった瞬間、空気が引き締まる。
顔をみれば真面目な顔をしている。
「ちょっと待って。その前に質問いい?」
「いいぞ……あんまり詳しくは言えないが、な」
「これは……ハッピーになれるやつなんだろ?」
「ああ、そうだ。舐めればハッピーになれる」
やはりそうだ。俺はここでオッサンを止めねばならない。
「なぁオッサン、ポリ公のところ行こうぜ。……安心しろ、会いに来るぐらいはしてやるよ」
「は? ポリ公だあ? 何いってんだよお前?」
「何言ってんだは俺の台詞だよ」
「あ?……ちょっと待て、お前これをなんだと思ってる?」
「おいおい、俺に言わせる気か?……ヤクだろ?」
フッ、決まった。オッサンを見れば顔を俯けて震えている。
「ク、クハハハハハ! コイツは一本取られた! いやいや傑作だぜ、おい!」
ん?
オッサンは暫く笑い続けている。なんだろう、殴りたくなってきた。
「こんなに笑ったのはいつ振りだろうな、あー笑った。……ま、いいだろ。教えてやるよ、コイツについて」
オッサンはまだ時々笑いながら白い粉の正体を述べる。その正体とはー
「ペロペロキャンディの粉ぁ? 何でそんなモンが大量に袋に入ってここにあるんだよ!」
そう、ペロペロキャンディの粉だった。あのキャンディを舐めて粉を付けて舐めて粉を付けて……みたいな一度は食べたことあるヤツ。
確かにあの粉は美味い。だが一商店が入荷するものではない……と思う。
しかし、俺はとんでもない勘違いをしていた訳で。
「もうダメだ……お天道様に顔向けできねぇ。くっ、殺せ!」
「おお、生くっ殺! 初めて聞いたぞ……いや、男のくっ殺は要らねぇよ⁉︎」
ノリいいなこのオッサン。じゃあ……
「何でもするんで許してください!」
「言ったな? じゃあバイトとして働いてくれ」
聞き流しそうになったが、サラッとすごいこと言われたな。しかしバイトか。……あれ、チャンスじゃね?
「その話、詳しく」
話を聞くと現在オッサンはバイトが欲しかったらしい。というのも、最近デカい商談が舞い込んできて店にいない時間が増えたのでバイトが欲しいとのこと。
そんなことよりいよいよ何者なんだオッサン。
尋ねてもはぐらかされたが。
提示された条件は悪くない。放課後店に来て店番をすればいい。何ならカウンターで勉強なり何なりしててもいい。
一応何が売れたかをメモしたり、売上を計算したり、店の在庫整理を手伝ったりするのが主な仕事。
金はその日何時間働いたかによりその日に渡す。
毎日来なくてもよい。
「こんなにいいのか、オッサン? メッチャいい風に聞こえるけど」
「ああ。まあ俺の都合で振り回す訳だしな、構わねぇよ。だが電話で呼び出したらできるだけ来てくれねぇか?」
「おう……連絡先送るわ」
「よし、登録できた。たまに変な奴が来るかもしれねぇが受け流せよ」
「待って、その一言で不安になるんだけど」
「気にすんな。じゃよろしく」
こんな感じで俺のバイトは決まったのだった。
帰路につきながら『占いの館』について考える。
不思議なものだ。まるで何かが起こるとわかっているようで恐ろしい。
もう少しゲームでパラメータ鍛える以外にやっとけば何か分かったのかもしれない。今となっては遅いが。
案外ヒロイン候補の1人だったりして……なんてな。
まぁ今考えたって栓なき事、また一ヶ月後に使ってみよう。
あ……今更だけど粉を仕入れてた理由なんだったんだろう。
家に着けばそろそろ夕食という時間だった。
食事に関して最近タイミングが良い気がする。
バイトに関して言うべきなのかなと思ったものの、母は容認派だったので言わなくてもいいだろうと言う考えに落ちついた。
そう言う事で特に何か話す訳でもなく夕食を食べた。美味い。
夕食を食べ終わって部屋に戻り、適当に時間を過ごして何となくリビングへ向かった。
バラエティー番組を見てボッーとしていると
「ねぇ」 なんて声をかけられる。こんな話し掛け方をするのは妹しかいない。首を後ろに回し、視線だけ向ける。
うっすらと湯気が上がっており、風呂上がりのようである。
「アイスなんだけど……その、何……」
モジモジしてて気味が悪い。いつもの勝気な態度ではなくしおらしいとなんかこっちが悪い事をしている気分になる。
「風呂入ってきてもいい?」
「え? あ、うん。……ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「いやだから何だよ……」
「ぁ、アリガト」
「あ? お前が買ってこいっつーから買ってきたんだよ、気にすんな。俺も勝手にお前のモン食って悪かったしな」
そう言って俺は去る。フハハ、イケメンムーブをかましていくぅ。……あれ、これが更に嫌われる原因なるのでは?
少し頭を抱えつつ風呂に入った。
部屋に戻って真中……誠司でいいか。誠司に連絡をする。
一応バイトの相談に乗ってくれたしな、報告しておこう。
バイトが決まった旨の連絡をするとすぐに返信が来た。
『おめ! 俺もいくつかいけそうよん、一緒に頑張ろうな! PS:バイト先の先輩がメッチャカワイイ! いい報告期待してろよ!』
いい奴なんだけどなぁ……うん。
適当に頑張れと伝えると『あざっす!』と返ってきた。うーん複雑。
その後定期テスト前に課題をやりたくない、と言う事で先駆けて問題集を解いているうちにいい時間になったので寝ることにした。おやすみ。
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