第10話

 4月8日

 朝起きれば時計は6時を指している。眠い。

自分を高めるーだなんてほざいていたくせにそこまで俺は朝に強くなく、漫画の転生チート主人公と違って朝に何かをやるだなんてできそうにない。

布団が俺を離してくれないんだと虚空に向かって言い訳をしながら二度寝した。


 ピピピピッと五分おきになる目覚まし時計がうるさい。

思わずぶっ叩いてしまうがうるさいのが悪いと思いつつ目覚まし時計をチラッと見る。

『AM 8時』

一気に目が覚めた。まだ焦る時間ではない……が、流石に入学2日で遅刻はアカン。

行かなきゃ(使命感)


 リビングにドタドタかけて行くと誰もいない。

親の部屋に行ってみれば母がすやすやしていて、さらに焦る。

一旦リビングに戻ってテーブルの上を見てみれば、

『朝食は置いとくので温めて食べてください

母はまた寝ます』

という書き置き付きの冷めた朝食とお小遣いの5000円が置いてあった。温めている食べるほどの時間は無さそうなので急いで流し込む。

しかし元より食べるのが遅く、特に朝なのでそこまで早く食べられない。

途中母がウトウトしながらリビングに入ってきて、

「広嗣、学校は⁉︎」

一気に目が覚めたようだった。現在8時10分。


 母に怒られて準備をする。

流石にいつからか藤堂に甘い母でも許容できなかったのだろう。 本当に申し訳ない。

色々な意味ですまん、藤堂。なんて思いながら外に出た。

 

 扉を蹴破るように勢いよく開け、ダッシュで学校に向かう。

幸い春休み中走っていたので体力が途中で切れるなんていう心配はない筈なのだが、いかんせん脇腹が痛い。 というかぶっちゃけ吐きそう。

道中信号はないため止まることがないのを喜ぶべきか嘆くべきか……いやもう考えるのはよそう。

思考を停止させて走り続けた。


 

 学校に着いて教室の扉を開けて入った瞬間ホームルーム開始のチャイムが鳴る。

「おー藤堂、2日目で遅刻ギリギリとはなー。

まぁホームルーム始めるぞー」

息を切らせながら席に着くと守田先生に声をかけられた。

次からはもう少し早く起きるわ……すまん、目覚まし時計。お前は正しかったよ。


 守田先生曰く、今日はクラスに関することを決めるらしい。

係だとか委員会だとか……ここら辺はあまり前世と変わらない。

ちなみに俺のオススメは図書係。 というかそれぐらいしかやったことない。

理由は前世やっていた係だったから。ちなみに中学ではずっとそうだった。高校は図書だよりとか作らなければいけなかったりと面倒だったのでやることはなかったけど。


 頬杖をついてボッーとしていると

「んじゃー早速係決めるかー。……藤堂ー仕切っといてくれー。俺は職員室行ってるわー」

急に声をかけられた。

「え? いやいやなんで俺なんすか。もっとなんかこう、いい人材がいるじゃないですか」

抗議をすると、

「いやー、なんだかんだ言って今生徒だと1番話してるのお前だし、あと目の前じゃん? じゃあそういうことでよろしくってわけよ。んじゃなー」

そういうや否や職員室に行きやがった。

うーんクソ教師……ゲフンゲフン。


 呆れて何も言えんわ! と思いながら諦め仕切ろうかな、と思ったところで教室を見回す。

興味なさそうなやつ、逆にどう仕切るのか興味を持ってるやつ、俺を睨んでいるやつ……などなど。

若干1名目が合うとニコッとして手を振ってくる。どうも。

守田先生が残していった係・委員会の人数表を確認しつつ、教卓と黒板の間に立つ。

「というわけで係決めをしたいと思う。

まずは委員長を決めて、なった奴がそこから仕切ればいいだろう。異論のある奴はいるか?」

クラスを見渡せばなさそうだ。

「よし、委員長は1名だそうだ。やりたい奴はいるか?」

呼びかけると1人の女生徒が手を挙げる。他に候補がいなさそうのとサッサと仕切る役を変わって欲しかったので決まりでいいや、ということで呼び寄せることにした。名簿見なきゃ……なになに、

「皆川さんか。他に立候補する奴はいる?

……いないか、これから委員長よろしく、皆川さん」

「フン、情けないわね……。まぁいいわ、私がこのクラスを頂点に導いてあげるから感謝なさい! オーホッホッホッホッ!」

なんか高笑い始めたし……。えぇ……? 


 え? こんな性格だったのコイツ?

というかよく見れば新入生代表だった奴だし俺をさっき睨んできた奴じゃん。

これがクラスの委員長? ……まぁいいか、仕切ってくれればなんでもいいや。

思考を遥か彼方にブン投げつつ、よろしくとだけ述べて席に帰ろうとする。

そういえば今日の昼食はどこで食べるかな……


 席に着くと皆川がある男子生徒を呼び出す。

背が高くガタイのいいイケメン。

今更ながらこの世界の顔面偏差値の高さが感じられる。

「アルベルト、黒板に係と委員会及び人数を書きなさいな」

アルベルトと呼ばれた男が黙って黒板に書き出す。

偉そうな話し方といい、上流階級の人間なのかもしれないな。


 お嬢様の進行は心配に反して中々上手く進んでいく。

業務内容を聞いてやはり図書委員会は難しそうだ、ということで適当な……環境委員でいっか。

土いじりは好きなんだ。

「環境委員はどなた?」

なんて言って誰も立候補していないので丁度いい。手を挙げると、

「あら、藤堂さん? 他にいらして? ……決まりね」

ラッキー、すぐに決まったな。周りから可哀想なものを見る目で見られている気もするが……気のせいだろう。

こんな感じでクラスの係・委員会決めは終わった。


 その後は守田先生が戻ってきて学校生活の説明や校内見学をして午前の部は終わり、昼食の時間になった。

今日の俺の昼食は家からどさくさに紛れてパクってきたスティックパン。

朝食の近くに置いてあったのでこれ幸いと持ってきた。

食べる場所は、と聞かれれば現在進行形で困っている。

教室は……一旦お手洗いに行って戻ってきたら

高宮を口説こうとしてる奴が座っていた。

パンは鞄に入っているので取りに行こうと近づくとそいつはどこうとしたが手で制する。

青春を邪魔する気はないぜ、少年。

気にするな、というとビクッとしてどこかへ行った。どうしたんだろうアイツ、と首を傾げていると高宮に話しかけられた。

「ありがとうございます、藤堂さん。その……さっきの方は少々情熱的だったというか……」

どうやらさっきの奴は高宮に迷惑をかけていたようだ。

いやはや、いいことをすると気分がいい。たとえ関わりを避けたい奴が相手でもな!

そうか、と述べ教室から去ろうとすると高宮がソワソワしている。

「あの、その、お礼を……」

なんてブツブツ言っていた。

お礼か……そうだ、水分を今日は持ってきていないからジュースでも奢ってもらおう。

すまんな、俺は主人公君みたいに気にしなくていいよ、なんていう気の利いた言葉は吐けないんだわ。くれるというなら遠慮はしない。


ジュースを奢ってくれというと高宮はビクッとして160円を差し出す。

まさか本当にくれるとは……ありがたくいただきます。

というか160円あれば殆どの品物が買える。さてはブルジョワな奴だな?

勝手に恩義と謎の反感を感じながら受け取る。

これで教室に用は無くなったので自販機を探しての旅に出ることにした。


 図書室の近くに自販機があったのでラインナップを見る。炭酸にコーヒーに……よし、今日はブラックコーヒーの気分。ブレイクヘンチマンという名前のコーヒーのボタンを押す。

確か「眠気をブレイク。ヘンチマンの如く働け」がフレーズだったはず。

そんなことを考えながらちょいちょい飲みつつ学校を徘徊していたら屋上に着いた。


 多くの学校は屋上は普通は開いていない。しかし流石ギャルゲーの世界、開いていた。

ここで食べよう。先客がいたらまぁ……大人しく教室に帰ろう。

ということで屋上の扉を開けると……

「はぁ? ふざけないでくれない?」

絶対零度の声が聞こえた。



 えぇ……? 音が出ないように扉を閉じるがそこで俺は痛恨のミスを犯す。

そう、音が出てしまったのだ。というわけでバレた。

「誰ッ⁉︎」という少女の声がする。逃げたらさらに危ない気がしたので大人しく姿を見せる。

そこには少女とチャラそうな少年がいた。


 改めて見ると少女が少年に詰め寄っている構図。どうしたらええんや。

ボッーとしていると少女がこちらに詰め寄ってくる。

「盗み聞き?」

キッとこちらを睨みつけながら問いかけてきた。

「いや、昼食食べる場所探して今しがたたどり着いた。その……すまん?」

「いや、マジで助かったわー」ボソッ

おい、男の方……


 呆れていると少女はだんだんとヒートアップしていく。そして遂に聞いてもいないのに状況を語り出した。

要約するとこの春休み付き合い始めたのはいいが男の浮気が発覚、姉から聞いていたスポット(屋上)で問い詰めていたところまぁ出るわ出るわの浮気三昧だったと。

もう3人目の浮気相手の話が出てくる頃には俺の目は死んでいた。

ようやく終わった頃には何人目かなんて覚えていなかった。こんな奴現実にいたのかよ……。「一旦コイツと話をさせてくれ」

と少年を離れた所へ連れていった。


 「いやーマジで助かったわー。救世主だな、お前!」

開口1番でこれ。クズい。

「女の敵みたいな奴にそんなこと言われるなんて世も末なんだが?」

「おいおいヒデーなぁ。そうだ、俺は1ーBの真中誠司(まなか せいじ)! よろしくな! お前は?」

「1ーCの藤堂広嗣。よろしくしなくていいぞ」

おいおいノリ悪いなー、なんてゲラゲラ笑っている真中。誠司なんていう名前が世界一似合わない男である。

お前はどうするつもりなんだ、と聞けば、

「んーどうしよっかなぁ。広嗣はどう思う?」

なんて答えてきた。

「いや、なんとも……」

「んじゃ別れるわ」

「ほーん」

「ほーんって中々お前も酷いべ?

まぁ変に正義感持って説教されるかはよっぽどマシかぁ……。やっぱお前とはなんか付き合いが長くなりそうな気がするからさ、連絡先交換しようぜ」 

結構強引に連絡先交換をさせられる。

藤堂は真中の連絡先を手に入れた! 

その後予鈴がなったので帰った。パンは食べ忘れた。


 教室に戻り午後の授業を受ける。まだ授業はせず学校オリエンテーションが続いた。

ちなみにパンは休み時間に食べた。チョコチップがいいアクセント。


 授業が終わったので帰路に着く。本当ならバイトでも探そうかと思ったが今日は疲れた。帰ろう。


 家に着いて本棚にある本をしばらく読んでいるといつの間にか帰ってきたらしい妹がドスドスと音を立てながら歩いてきて、ドアを蹴り飛ばして開けてきた。

「ねぇ、アタシのパン。知らない? ママに聞いても知らないっていうんだけど」

あ、それ俺やん。すまんと一言謝る。

「ハァ⁉︎ 信じらんない……! 私の今日のおやつだったのに!」

どうやらパクっていったパンは妹のおやつだったらしい。それは……うん、俺が悪いわ。

なんか買っとくわ、というと

「じゃあの高いアイス。バニラで。お小遣い今日もらったから買えるでしょ?」

なんていうことをほざいてきた。

コイツいくら俺が嫌いだからって……あの高い奴……1個300円なんだぞ……いいけどさ……。

渋々了承すると

「いい心がけね♪」

珍しく上機嫌になってリビングへ戻っていった。


 夕食と風呂を終えて部屋に戻りスマホを見ると真中から連絡が来ている。

なんだろうと思って見ると「ウェーイ」とかいう文章とともに頰に季節外れの紅葉を咲かせた写真が添付されたいた。

そっと連絡アプリを閉じて寝た。




 



 








 



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る