学園編
第9話
4月7日
今日からゲームの本編が始まる。
カナリア学園入学式はファンの間でも人気が高いイベントで、俺も好きだった。
桜が綺麗だったのとカナリア学園の名物BGMが流れるのがよき。
俺は現在入学式の席に座って吹奏楽部が奏でる音楽を堪能していた。
あ〜耳が癒されるんじゃ〜
クラ恋の恋愛イベントに関して殆ど踏み込まずパラメータを鍛えることしかやっていなかった俺にとって記憶に残っているイベントの一つ。
それが生で見れる日が来ようとは……。
生きていると何が起こるか分からんなぁ。
感動しているうちに入学式のプログラムが進行していく。
「新入生代表挨拶 皆川佳代(みながわ かよ)」
新入生代表挨拶なぁ……。確か後期選抜の1位の奴がやるんだっけか。
そういえばなんかヒロインの1人だったような気がしなくもない。
壇上を見れば確かにキリッとした美人がそこにいる。
藤堂(俺とも)とは何もかもが真反対な奴なんだろう。
まぁ関わることもない……よな?
見た目と同じく内容も真面目な挨拶(真面目にしないやつなんて殆どいないだろうが)を程々に聞き流す。
今日からゲーム本編が始まるのかぁなんて今更ながらしみじみと感じる。
……段々眠くなってきたぞ。話が皆長い……。
ハッと意識が覚醒すると締めの挨拶が丁度終わったところだった。
どうやら少し寝ていたようだ。
「新入生、退場!」
慌てて起立して体育館から出て行った。
感動の入学式が終われば次はお楽しみのクラス確認タイムである。
カナリア学園は入学式が先でクラスの確認はその次にあるのだ。
人がゴミのようにごった返す中何とか自分のクラスを見つける。
えーと……1ーCか。前世は1ー1とか見たいな数字のクラスだったからちょっと新鮮。
クラス確認が終わったので1ーCの教師に入った。
黒板に座席表が貼ってある。
ここでも人が群がっているがちょっと強引に見に行く。
たまになんだよコイツと振り返る奴もいるが顔を見てあっどうぞ、みたいな感じになる。
あれ、俺またなんかしちゃいました? と心の中でどこぞの有名フレーズでボケてみた。
うーんこの不良顔最高や! なんて嘘です、冗談だよ。
ふむふむ……ゲッ、教卓の真ん前かい……
隣は女子か……前世は男子校だったから緊張するわぁ。
まぁ隣の人がどんな人かと気になるので席に着きますかね。
幸い隣の人はまだきていないようで、先に着いておきたいという謎のプライドを持ちながら席に着いた。
「は〜やっとつきました……人多すぎですよ……席は教卓の前⁉︎ ぐっばい私の睡眠生活……」
なんか聞いたことある声がした+俺の隣に来るとかいうのが聞こえた気がする。
いや、他人の空似だろう。
「あっどうも。私、高宮八重(たかみや やえ)っていいます! 1年間どうぞよろしく……ってああ⁉︎ ナナシノさん⁉︎ どうしてここに⁉︎」
グッバイ、平穏な生活。
おいおいちょっと待て。おかしいだろコレ。
え? 何なの? 原作でも絡んだ後コイツの隣になったの? 気まずすぎんだろ……。
「ど、どうも?」
「どうも……お久しぶりです」
きちいよぉ……本当どうしよう……
頭を抱えているとヒロインこと高宮が話しかけてくる。
「そういえばお名前まったくナナシノさんじゃないじゃないですか! 騙したんですか⁉︎」
「え、むしろ本名教えると思ったん? 下手したら2度と会わないであろう他人に名前教えないだろ、普通」
あ、ついうっかり口答えしてしまった。
恐る恐る見ると高宮は「はうぁっ⁉︎」なんてポンコツ面をしている。
コイツがアホそうで助かったが、同時にコイツ本当にヒロインだっけか……? と疑問を抱く。
いや、でも俺は高宮について何も知らないのだ。
こういう性格なのだと割り切っていくしかない。
1人納得していると高宮がまたもや話しかけてきた。
「い、今! 知り合いになりました! だから本名を!」
「逆にどうしてそんな俺の名前が知りたいのか教えてくれ」
「え? うーん……何となく?」
えぇ……いや、今更ね? 教えることに関して渋ることはないんだけど……ここまで知りたがるのってなんか怖い。
というか何となくって何やねん。
「俺は藤堂広嗣だ。 よろしくな」
「私は高宮八重です。 よろしくです」
高宮に恐怖しつつ互いの自己紹介を済ませた。
「おーいお前ら席つけー ホームルーム始まるぞー」
自己紹介を終わらせて少しして、気怠げな声とともに男の先生が入ってくる。
「俺は守田晃誠(もりた こうせい)。お前らの担任で担当教科は数学。1年間よろしく頼むぞー」
いい先生そうだが、数学担当で担任ということもあって中々怒られる年になりそうだ。
「えーと何々……藤堂ー。そんな嫌そうな顔するなよー。先生だって傷つくんだぞー」
oh……顔に出てた?
守田先生からこれからの説明を受けて今日は解散ということになった。
「クラス結成! どっかいこーよ!」みたいなことを言っているやつがチラホラ現れる中俺はサッサと教室から去る。
今日は村山さんからラケットをもらえる日でもあるのだ。
午後からキツツキ公園のテニスコートで落ち合うことになっている。
まずは着替えだな、ということで家に帰ることにした。
ちなみに家から学園へはそう遠くはない。徒歩15分ぐらいで着く。
だから多少寝坊しても大丈夫なのである。
家に近いというのはそれだけでアドバンテージであるので受験した藤堂ナイス! といいたくなる。
前世の高校はまー遠かった。深夜までゲームしてたせいで寝不足で、半分寝ながら歩いて学校に行ったものだ。(ちなみに自転車は好きではなかったし電車は高すぎた)
家に着くと制服を脱ぎ捨ててベッドにポイッ……とはせずにしっかりとハンガーにかけてクローゼットにしまう。
誰かが入ってきた際にクシャクシャになった制服を見られたら怒られそうだからである。
動きやすい服装に着替え、公園に向かおうとするとリビングから笑い声が聞こえた。
そういえば玄関の靴がいつもより多かった気がする。
一瞬挨拶をすべきかとは思ったものの、俺がでてってもなぁ……と気を取り直し、外に出た。
公園についてコートに行くと村山さんは既にいたので声をかける。
「村山さんこんにちは、きましたよ」
「おおこんにちは、藤堂君。 孫たちもそろそろ来ると思うぞ」
「あ、俺の名前ご存知でしたか」
「一応お前さんの受付をしたからのう。
ほれ、約束のラケットじゃ。お下がりで悪いがちと我慢しとくれ」
村山さんからラケットが渡される。
赤と白と黒のコントラストが印象的で中々新そうに見える。
「中々新そうに見えますね……というかいただけるんですし不満なんてあるわけないですよ。 本当にありがとうございます」
使いやすそうなラケットで、しかも握ってみれば手に馴染む。
本当にいい貰い物だ、と感動していると後ろから声が聞こえた。
「おーい! おじいちゃーん!」
どうやらお孫さんたちがきたようだ。
「あ! この前のお兄さんじゃん! どうしたの?」
……最近よく以前会った人に会うものだ。
顔を見てみれば球出しをしてくれた少年と見知らぬ少女がいた。
「ん? 知っておったのか? 紹介する手間が省けたのう。 彼が今日からお前たちとプレイしてくれるそうじゃ」
「へー……僕は村山翔太(むらやましょうた)っていうんだ! よろしくね!」
少年が挨拶をしてくる。 俺も挨拶をしなければ、ということで自分の名前を教える。
「俺は藤堂広嗣。よろしくね」
少年と少女の顔を見てそういうと少年はニッコリと、少女はモジモジしている。
少女の方は人見知りそうだし無理に名前聞くことはしなくてもいいか、と思いそのまま話を進める。
「そういえば相手をすればいいと聞いたんだけど、今からやるの?」
問いかけると少年……翔太でいいか、翔太は
「お兄さんそのラケット初めて慣れてないでしょ? だから慣れるっていうことで一緒に一本打ちしようよ! 僕もフォームが最近崩れてたからちょっと確認したかったんだ〜」
とニコニコしながら答えた。
少女の方を見るとビクッとしてから首を縦にブンブン振っているので翔太の案で良さそうだ、というわけでみんなで一本打ちをした。
ラケットは丁度いい重さで振りやすかった。
3時間ほどして、「そろそろお開きということにしようかの」という村山さんの声で今日は解散ということになった。
村山さんたちは一緒に帰るようでコート整備が終わった後3人で歩いて帰って行った。
3人を見送るとコートは一気に物淋しい感じになる。
楽しい時間はすぐに過ぎていくものだなぁ、なんておセンチな気分。
俺も帰ることにしますかね。
帰る途中で洗濯用品を買うため、近所にある「ショップ・タライント」に寄ることにした。
記憶によれば、店の名前の由来は店主があるゲームの敵キャラみたいなデカくてイカついスキンヘッドに見えるから勝手に近所のゲーマーの青年がつけたことかららしい……というのは冗談で、悪いがわからない。ともかく、我が家の近くにはそれぐらいしか買えるところがないのだ。
デパートは遠いし、ゲームで使っていたショップも主人公の家には近いが、我が家とは真反対なのだ。
憂鬱な気分になりながら店に入るが特にいらっしゃいませだなんて声はしない。
店の中を見渡せば何でも揃っているような気がしてくる。
不思議と欲しい物はなんでも揃っているというのが藤堂の印象らしい。
欲しい物を見つけ、カウンターに出すと店主のイカついオッサンががジロッとこちらを見つめてくる。
……ハッ! もしかして……
「残念ですが俺にそっちの気はないですよ」
「あ? 違ぇよ! 俺もねぇわ!」
「ならよかったです」
「お前以前来た時と何か変わったか? なんかこう……吹っ切れたというか、面も前よかよっぽど優しそう……いやマヌケヅラ? とにかく、変わったな」
「そう見えますか。当たらずも遠からずって感じですかね」
「ま、どうでもいいが……アイツがやらかしたって聞いて様子を見りゃ痛々しかったがよ、よくなったじゃないの」
「なんかいいました?」
「何でもねぇよ。……まぁそうだな、いつでもこいよ。」
「? 来ませんよ?」
「以前のクソガキ具合も戻ってきて何よりだよ……」
オッサンがゲンナリしているが、無視してお金を支払って店から出た。
家に向かいながらオッサンとのやりとりを思い返す。
あまり人と話すタイプではないはずがあのオッサンとはスラスラ話せた。(ヒロインは勢いで話しているからノーカン)
そして何より聞き逃せないのがあのオッサンが言った「以前」という言葉だ。
……ダメだ、記憶を探っても出てこない。
だが、あのオッサンとはそれなりに気心知れた仲のようだったようだ。
まぁこれ以上探っても頭が痛くなってくるだけなので、一旦考えるのはやめておこう。
家に着けばまだ靴が残っている。母と客人は相当話し込んでいるようだ。
自分の部屋に行って荷物を置き、桶を持って洗面所へ行く。そして水を汲んでまた戻る。
飛び散ったりしないように細心の注意を払いながら、靴下を洗濯板とウタマロ石鹸とでゴシゴシしたりして汚れを落としていく。
一区切りつけば靴下を引っ掛けて干す。
外に出て水を捨てる。
一応母たちに見つからないように気をつけているつもりでやってます。
また部屋に戻り、洗濯用品たちを端に置いておいて完了である。
というかまだ帰る気配がない。積もる話でもあるのだろう。
さて暇になった、何をやろう。
課題は回収されたし、問題集は殆どない。
……そういえば教科書を入学前に買ったのに関わらず、開封していないな。
名前書くついでにどんな内容なのか見てみるか。
教科書をパラパラめくって内容を確認する。
特に国語は前世にはいない作家が書いた評論や小説等が書いてあって面白かった。
数学は知らん。
案外熱心に見ていたようで、ふと時間を見てみれば6時を指している。
昼食もロクに食っていないので空腹感がすごい。
これ以上放っておけば死活問題だ。
食べ物はリビングにあるため流石に帰って行っててくれよ、と祈りながらリビングに向かった。
祈りが通じた(失礼だが)ようで客人はもう帰ったようだった。
リビングを覗けば母と妹が談笑しながら夕食を作っている。
母が俺に気づき、
「あ、広嗣。 そろそろ夕食よ」
と声をかけてくる。 ちなみに妹は俺のことはガン無視。
さっきまで笑ってたのに無表情。
まぁどうでもいいんだけど。
ちなみに夕食は5割増で美味しかったです、まる。
風呂に入り終わって今日を振り返る。
今日もまたいい日にできたのではなかろうか。
このままでいいのかという不安がないといえば嘘になるが、それでも1日1日楽しんで、そして成長していけばいい結末をむかえやすくなる……筈だ。
明日もまたそんな日にできればいいものである。
というわけでお休み。
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