第7話
3月27日 AM:7時
みなさんおはよう御座います。
今日は普通に起きられたわ。
というわけで昨日決められなかった今日やることでも決めようかな。
課題は……殆ど終わってるから大丈夫か。
よし、走るなり筋トレでもするかな。
走ったり腕立てや腹筋して特につつがなくその日は終わった。
乱雑な説明だと思うかもしれないが、特段話すことはないほど平穏な1日だったのだ。
強いて言うなら腕立てが一度で20回で限界だったということぐらいだろうか。
それでも前世の俺よりかはできていた。
……あれっ前世の俺って弱すぎ⁉︎
3月28日 AM:6時
今日は楽しみにしていたテニスの日、ということで早く目が覚めた。
欠伸をしながら朝色を食べるべくリビングへ向かうと妹と父がいる。
父は仕事で妹は部活……しかもテニス部とのこと。
妹の通う中学はソフトテニスの強豪であり、妹自身も強いらしい。
相変わらずのハイスペックさに少しの嫉妬を感じる。
この体も運動はできないことはないが、他の姉妹たちほどの傑出度はない。
羨ましいものである。
というか今更だけど、関わりたくないとか言ってたのにめっちゃ意識しとるやんけ……
そんな風に思ってリビングの入り口で立ち往生していると父が俺に気づき、
「広嗣じゃないか、おはよう。 朝は……パンでもいいかい?」
と声をかけてくれた。
ちなみに俺はご飯派だが、藤堂家はパン派らしい。
こればかりは反りが合わないな、と考えながら父に挨拶をした後パンを焼く。
何もつけないで齧り付いたパンは小麦の甘い味がした。
朝食を食べ終わり、洗い物をしている内に公園に行くいい時間になった。
そろそろ行こうということで着替えに向かうと寝ぼけてフラフラしている母に会う。
「あれ……おはよ……」
耳を澄まさないと聞こえないほどの掠れた声で挨拶をされた。
どうも母は朝が弱いようだ。
「あ、母さん。今から外出てくから」
一応外出する旨を話し、「……わかった、私は二度寝するね……」という了承(?)の返事をもらった後自分の部屋に向かった。
着替えて家に出るとそろそろ春本番、という感じがした。
「ぶぇっくしょい!」
……花粉症も出張ってきているようだ。
花粉症に悩まされるのは前世も今も変わらないようである。
そういえば天気予報で今日は殊更に花粉が飛んでいるとか言っていたような……。
くしゃみや鼻水に苦しめられるのを想像して少しやる気が下がった。
いや、悩んでも仕方ない。
出てくる鼻水をテッシュでかみながらキツツキ公園に行く決意をする。
……ぶぇっくしょい!
公園に着き、テニスコートへ向かって受付をしようと受付のお爺さんに話しかける。
「おはよう御座います。受付にきました」
というと、お爺さんはニッコリ笑って
「おはよう。ほお、珍しく若い子が来たものじゃ。今日は是非楽しんでいっとくれ」
と返してくれた。
確かに周りを見ると小学生の低学年の子だとか御老人方が多い。
というか俺に近しい年代の人は殆どいないようだった。
……まぁ回覧板なんて今時の子は見ないのかね。
ちょっとしたジェネレーションギャップを感じながら道具を借りる手続きを済ませる。
肩慣らしに振ってみると感覚が戻ってくるような感じがした。
今回のイベントの主催は地元のテニスクラブだとのことで、その会長さんの掛け声でイベントが始まる。
プログラムとしては準備運動→一本打ち→サーブ練習→ラリー→できれば試合 という流れらしい。
準備運動が終わり、一本打ちの時間になった。
クラブの人が球出しをしてくれるということで列に並ぶ。
「はい、次の人ー!」
なんとなくで並んだがもう自分の番が来たのでラケットを構える。
おっ来た……ここだな。
ゴムボールを叩く音とともにボールが回転しながら前へ飛ぶ……が、力を入れすぎたらしくホームランにはならなかったが金網にぶつかってしまう。
やっぱり久しぶりでしかもまだ慣れない他人の体だからどうにも上手くいかない。
身長も力も今の方が断然高いのだ。
落ち込んでいると球出しをしていた人が球を出しながら話しかけてきた。
「お兄さん初めての人? それにしてはやけにフォームがなってるね〜」
打ち返して改めて球出しの人を見ると小学生っぽい男の子だった。
流石に「前世でテニスをやっていまして〜」なんていえないので「あはは……まぁ以前少しやっていた感じかな」と誤魔化す。
「そっかぁ。……でも動きが固すぎだね。
きちんと柔軟とかやってる?」
「ウグッ やってないよ」
「駄目だよ、しっかりやらなきゃ。多分動きが柔らかくなればお兄さんもっと上手くなれるよ。 筋は悪くなさそうだしね」
そんなやりとりをしながら一本打ちを続ける。
……柔軟嫌いすぎて前世ではやってなかったんだよな。 やっぱやった方がいいよな……よし、今日から風呂上がりにやるか。
少年に感謝を告げて列に戻った。
一本打ちの時間の次は少し休憩を取り、サーブの練習の時間になった。
サーブを入れるコツはとにかくトスを高く真っ直ぐ上げて打つことだと先生に教わったことを思い出しながら打つ。
シュッとボールを切る音がしてボールは極度なスライス回転をしながらネット手前で減速し、ついぞネットの向こうに行くことはなかった。
あー……ラケットの角度がよろしくなかったな。
一度ゆっくりサーブの手順をなぞる。
当たるところで止めると……ビンゴ、めちゃくちゃ切ってるからこうして……と。
ラケットの面を調節し、もう一度サーブを打つ。
いい感じのスライス回転をしながら向こうのコートに入る。
結構身長があるゆえにむしろ個人的にはサーブが打ちやすくなった気がする。
やっぱサーブ入るのは楽しいわ。
安定してサーブが入るようになったところで終わりにする旨の声が聞こえた。
ついつい楽しくってあっという間に感じられるなぁ。
次はラリーか、と思ったところでふと思う。
〈俺組んでもらえる人いない件について〉
だってサーブの時周りを見たら誰も人がいないんだよ!
ヤバい、前世の俺と同じ道を辿りそうだ。
何を隠そう、前世の俺はラリーの時はボッチだったのだ。
壁がいつも受け止めてくれたがここに彼(彼女?)はいない。
どうしようと思っても相変わらず組んでくれる人は見つかりそうにもない。
途方に暮れていると俺を憐れんだのかお爺さんが話しかけてくれた。
「なぁそこの若いの、ワシとラリーせんか……ってお前さん、受付でおったのう」
あ、受付をしてくれたお爺さんだ。
即答で誘いを受ける。
こういう時に消極的になってしまうのが良くないんだろうなぁ。
反省をしながらお爺さんとコートに向かう。
「俺から打ちますね」
そう声をかけてボールを軽く打つ。
お爺さんは軽いタッチでそれを返し、俺も暴発しないように心がけながら打ち返すというラリーがしばらく続く。
「お前さん初めてか?それにしては上手いのぉ、でも動きが固い ……ほっ」
「ありがとうございます、今日から柔軟やろうかなって思ってるんです。 ……よっと」
「それがええ。 どうじゃ、今日は楽しんでもらえとるかな? ほっ」
「ええ、久しぶりに楽しいです。 なんなら毎日やりたいんですけど、ねっ」
「ほう……そうだ。 お前さんこのクラブに入ってみんかの? 最近めっきりお前さん程の若いもんがいなくなっての、ほっ」
「それはうれしい提案ですけど金がなくて道具がマトモに揃えられてないんで見送りさせてもらっても……あっすみません。引っかかりました」
俺が引っかけてしまったところでラリーが終わる。
魅力的な提案だが、いかんせん金がない。
月謝は払えるかもしれないが、それだと生活は厳しくなるだろう。
バイトもしなければいけないし。
ということで見送らせてもらおうとお爺さんにボールを打ちながら話しかける。
「というわけで見送らせてもらおうともらいます。 来年辺りからなら……」
「ふむ……金、か。よし、お前さんにはワシがもう使わんラケットをやろう。無論金はいらん。どうじゃ? ほっ」
「いやいや、ありがたいですが…… どうしてそこまで? よっ」
「孫と孫娘がこのクラブに所属していてな。
これがどうも才能があっての。 ほっ すまん、引っかかったわ」
お爺さんがボールを拾いにいきながら話を続ける。
「最近打てる者が少なくなってきて同じ者とばかりやっておる。それじゃいかん。 お前さんならあやつらのいい刺激になるかもしれんと思ったんじゃ。 ……どうじゃ?」
俺はラケットがもらえる、お爺さんの孫たちは新しい相手と戦えるというまさにwinーwinということか。
そこまでしてもらえて断るなんていう選択肢はもはやなかった。
お受けさせてください、とお爺さんに伝えると
「おおそうか。引き受けてくれるか。
来月からよろしく頼んでいいかの?」
と喜んでもらえたようだった。
道具をくれた上にクラブに来ていいと言ってもらえた。
まさに仏のような人だと思い、そういえば名前を聞いていなかったなということで名前を聞く。
「ワシの名前は村山和宏(むらやま かずひろ)という。道具は色々用意することがあるから来月の7日に来てくれるか?」
7日というと入学式の日か。確かに時間があるな、ということで快諾する。
そもそも道具をもらえるのだから断るという選択肢はないのだが。
その後もクラブのことについて色々聞く。
主にわかったこととして、
・放課後毎日2〜3時間やっている
・月謝は3,000円
・冬の練習時間は短め
くらいだろうか。
クラブについてはまたおいおい説明をすると村山さんに言われる。
これから知っていけばいい、ということだろう。
話し込んでいるとそろそろ終わりにするという声が聞こえてくる。
「ワシらもそろそろ切り上げようか。お疲れさん、来月からよろしく頼むぞ」
「こちらこそ。色々ありがとうございました」
なんていうやり取りをした後俺も帰ることにした。
帰路につきながらふと思い出す。
あ、俺の名前言ってないけど大丈夫か?
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