第6話
家に着くとまだ少し夕飯までの時間があるようだった。
リビングを覗くと妹がゲームをしているようだったので自分の部屋に戻り、今日起きたことを振り返ることにする。
しっかしまさかヒロインに会うとはな……。
しかも何か絡まれたし……。
俺と立場逆転してるやん。
もしかしたら俺が最後まで絡まなかったから何かしらの影響があったのかもしれない、と床に転がりながら考える。
ヒロインとはまた会うかもしれないという予感がする。
しかも避けようがないやつ。
……それにしても相変わらず奴の名前を思い出せない。
流石にいくら心の中とはいえ、奴、奴と連呼するのは失礼だ。
せめてもう少しヒロイン攻略に精を出せばよかったかな、なんて後悔した。
その時、部屋がノックされる。
急なことだったので、悪いことはしてないはずなのに思わず身構えてしまう。
扉が勝手に開けられ、不機嫌そうな妹の顔が隙間からニュッと出てきて
「夕飯だってさ」
とだけ吐き捨てるように言ってきた。
おいおい妹よ、俺は「どうぞ」と言っていないぞ、とは思いながらいくら嫌いな奴とはいえノックをしてきたことに感心した。
いつもなら母が下から夕飯を知らせてくるのに、珍しいこともあったものである。
リビングに行くと母と妹が配膳をしていた。手伝おうとするも妹にキッと睨まれる。
どうしても自分の皿に触って欲しくないという鋼の意志を感じる。
が、そういう訳にはいかないので強引に手伝った。
母が「広嗣……!」なんて感極まっていたが、相変わらずコイツはどんだけだったんだよ。
少なくとも前世だったら配膳時にニートしてる時点で殺されてたわ。
ちなみに夕飯は魚だった。俺が前世で1番嫌いだったものである。
この体なら嫌悪感を持たず食えるかな、なんて思っていると小骨が突き刺さった。
やっぱ魚って嫌い。
夕飯が終わり妹が洗い物を始めた。なんだかんだいって親の前では普通にいい子なようだ。
その一欠片ぐらい俺に接する時に回してくれれば可愛げがあるのだが、嫌われているのはしょうがない。
特にリビングでやりたいことは無かったので部屋に戻った。
明日はどうしようかな。テニスの道具は欲しいが金欠で無理。
お小遣いを貯めるしか道はない。
あ、今更だが藤堂家はお小遣い制である。
何と月5000円という好待遇。
普通に暮らしていれば使い切ることはない……とは思うかもしれないが、ずっと外で行動していたためか貯金はない。
バイトはまだ高校生ではないのでできない。……この顔だったら年齢偽ってできるのでは? と思ったことは秘密だ。
そこで課題がまだ残っていたことを思い出した。
教科は……ラッキー、国語じゃん。
いやー個人的好きっていうのもあるんだけど、何よりも国語は得意なんだよな。
現代文、古文両方とも高水準でできる。
模試で数学の点数に絶望している時に国語の点数を見ると蘇った。
登場人物なんてよく知らないヤツで、そんなヤツのことなんてわかる訳ないとか言っているヤツが理解できない。
……何かそう言っているヤツに最近あったような気が…… 気のせいか。
気を取り直してシャーペンを握る。
中学生向けの国語の課題なんてたかが知れているのでサラサラっと終わらせた。
終わったところで時計を見てみればそろそろ風呂の時間かな、というところだった。
記憶によれば妹は母と一緒に風呂に入ってあ いるらしく、そしてこの時間帯ではもうあがっているとのこと。
よし、入りにいきますか。
「のろのろ歩くよ〜♪ ネズ子ちゃん〜♪」
前世で流行っていた番組の歌の歌詞を口ずさみながら風呂へ向かう。
子供の頃流行っていたのだが、いかんせん主人公が畜生な性格だった気がする。
特に仲間を助けると見せかけて不幸のドン底に叩き込み、ケタケタ笑っていたシーンが思い出に残っている。
……思えばよくこんな番組流行っていたな。
今放送したらすぐ打ち切りなのではなかろうか、いやしかしあの頃のテレビは色々ぶっ飛んでて面白かった。
そう思っている内に風呂に着いた。
湯加減は丁度良かった。
風呂から出終わって着替え、洗面台で髪を拭いていると父が入ってきた。
どうやら今しがた帰ってきたようである。
「……お帰り」
以前のちょっと暗い感じでおかえりなさいを伝えると、父はビクッとして、
「あ、ああ。 ただいま。 ……久しぶりに広嗣のおかえりを聞いた気がするよ。 聞くと一日の疲れが吹き飛ぶなぁ。 最近陽菜もおかえりを言ってくれなくって……」
マシンガン並みに捲し立ててくる。
やべーまだ話してる。
イケメンな父が怖くなった瞬間である。
俺は夢中で話す父を尻目にひっそりと洗面所を抜け出した。
「……だからさ、やっぱりおかえりって言ってもらえたのはうれしいよ。 ……あれ、広嗣⁉︎」
後ろから俺を呼ぶ声が聞こえたが今は無視だ。
捕まったらもっと長時間拘束されてしまう。
父は前世の俺にとってはいい人なのだが、藤堂にとっては劣等感を感じる相手。
未だその残留思念のようなものがあり、話しているとどうしても劣等感や負い目を感じてしまうのだ。
心の中で謝りながら自分の部屋に戻った。
部屋に入ってベッドへダイブ。
今日は色々ありすぎて疲れたのか、すぐ眠くなってしまう。
あ、そういえば明日やること決めてないなぁなんて思ったけど眠気には勝てなかったよ……
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