第5話

〜ヒロインside〜

3月25日

 ある日お友達のリカちゃんと遊びに行ったのですが突然雨に降られてしまい、デパートに寄った日のことです。

その日は雨宿りとしてデパートに寄る人が多く、人の波に飲み込まれてしまいお友達と離れてしまいました。

リカちゃんがいうには私は方向音痴らしく、またはぐれやすいそうです。

気づいたたら隣から消えている、なんてこともよくあるのだとか。

そこで私はリカちゃんを困らせる訳にはいかないので、たまたま空いていたソファに座り、待つことにしました。

こんなことを思いつけるなんて私は天才なのかもしれません。

連絡をいれておこうと思い、電話をかけます。……つながりません。何かあったのでしょうか?

そう思っていると突然、男の人に話しかけられました。

「な、なぁお嬢さん、俺とお茶しない?」

声が発せられた方を見ると目つきの悪い男の人がそこにいました。


 ……またか、と正直思いました。

私はよく男性から声をかけられます。

全員が全員同じようなことしか言ってきませんが、大抵下心が見え見えです。

世間知らずとお友達たちから揶揄われる私でもそれくらいはわかります。

目の前の男の人も同じかなと思って男の人を見てみると、少しは同じですが……どこか焦った印象を受けました。

それでもお断りしようと話しかけようとした瞬間、男の人の雰囲気が何となく変わったような感じがしました。

加えて、慌ててナンパを訂正して走り去っていったのです。

思わず惚けた声を出してしまいました。

一体何だったのでしょうか……?

嵐のような方でしたね、なんて思っているとまた男の人が私に声をかけてきました。


 「ねぇ君、大丈夫だった? あんな奴に絡まれてさぞ怖かっただろう? 安心して。僕が君を友達の所へ連れてってあげるよ」

早口で何を言っているかわかりません。

しかも先程の男の人より下卑た目線で私を見てきます。

どうしましょう……今日は変な人に絡まれる日ですね。

オロオロしていると、リカちゃんが男の人の後ろからやってきてくれました。

「ねぇアンタ、ウチの友達に何か用? ……これから楽しいショッピングするつもり何だけど。……消えてくれない?」

相変わらず刺々しい言葉ですねぇ。しかし男の人は怯まず、リカちゃんにまでナンパしようとしています。

しかし全く靡かず、男の人は根負けしたようで去っていきました。

捨て台詞に「クソッ……急にあのモブどうしたんだ⁉︎ 色々変わって上手くいかねぇし……。

チッ、今日は引き上げるか」

なんていう不穏なことを言いながら。

……正直言って気色悪かったです。

その後、気分転換もかねてリカちゃんとショッピングを楽しみました。


 家に帰ると楽しい思い出だけが残っていて、すっかり変な男の人たちのことは忘れていました。

今日も楽しかったなぁ。

高校に通うことになったらさらに楽しい思い出が増えるのだろう、早く入学式を迎えたいな、なんてまだ先のことを思いながら眠りにつきました。


3月26日

 少々寝過ごしてしまいました。

何と起きたのはお昼ちょっと過ぎ。

むむ、生活リズムが休みだからって乱れているのはよくありませんね。

そうは言っても寝過ごしてしまったのはしょうがないので、これからどうしましょう。

……そういえばまだ入学前の課題が残っていたような気がします。

……あ、国語です……。苦手なんですよね……。必要なのはわかるのですが、どうにも……。

何ですか、登場人物の気持ちはなんでしょうって? 

わかる訳ないじゃないですか! そもそも貴方とは面識がなく、どんな人なのかもわかりません! そんな人の考えてることなんて普通わからないですよ!

……いけない、取り乱してしまいました。

こんな時は深呼吸するに限ります。はー、ふー。

いけそうです。 これが終われば課題は全部終わりなんですから、ここが正念場ですね。


      〜課題と格闘中〜


 よし、終わりました。……中々かかりましたね。

時間を見ると2時半過ぎ、そうですね……気分転換に近所の公園にでもいきましょう。

近所なら迷わず行けるでしょう。


 ちょっと迷いましたが3時半程に公園に着きました。

この公園はウグイス公園、と言います。

春はウグイスが桜の木の上で鳴いていて、ポカポカあったかい。それはもういい場所で、私のお気に入りの場所です。

ちょっとベンチに……なんて思っていると男の人が座っています。

何か呟いている……? いえ、うなされています。

余程酷い夢を見ているのかとてもうなされています。

流石に放っておかない、ということで起こすことにしました。 ベンチにも座りたいですし。

「起きてください!」

なんてゆすってみても起きません。それどころか何か言い始めます。

「ああそうだ、これは俺のー」

そこから先は聞き取れません。

「もう……! 起きて! 起きてください!」

さらに強くゆするとやっと男の人は起きました。


「……女神様?」

「へ?」

じょ、情熱的ですね……。

ナンパされる際に言われたことはあるのですが、面と向かって言われるとちょ、ちょっと照れていまいます……。

しかも無意識そうなのがまた……ではなくて。

恥ずかしがっていると男の人は何だかこの世の終わりのような表情をしています。

あれ、この人どこかでみたことあるような……?

あ、思い出しました。 デパートで一瞬声をかけてきた恐い顔の人です。

また会いましたね、なんて言おうとすると、

「俺はこれから死んだフリごっこするから。君は興味をなくして帰る、OK? よし、おやすみ」

「はい、おやすみなさい。それでは! ……いや、そうはなりませんよ⁉︎」 

何か流されてしまいそうになりましたけど普通はそうなりませんよ⁉︎

そもそも何ですか……? 死んだフリごっこって?

もしかしたら案外ヤバげな人に関わってしまったかもしれません、なんて思っているとその人は唐突に暴言を吐いてきました。

リカちゃん並みに口が悪いです。

言い返したら急にひろいん? だとか言い始めますし。

そして遂に固まってしまいました。


 一応声をかけてみますが、反応がありません。

……あ!  もしかして私がお財布を盗ったと思ってどう切り出すか迷っているのかもしれません。

安心してくださいね、という旨を伝えると呆れた顔をしています。

ちょっと行動がリカちゃんに似てて面白いです。


 少しして、どうしてここにいるのか、ということを聞かれたので答えます。

特に起こしたことに関しては独自の考え方をしていました。

……いや、他の人ならそうするのでしょうか?

今度お父さんやお母さん、お友達に聞いてみましょう。


 そのうち、男の人が帰る準備を始めました。

なぜか焦燥感に駆られた私は、気づいたら

「あ、あの! その……お名前とか教えていただけませんか?」

という言葉を放ったのです。

あれ、何しているんでしょうと思っても、最早後の祭り。

普通だったらしないことなのにとも思いましたが、その時にはもうテンパってヤケになっていました。


 名前を教えるのを渋っていましたがゴリ押して何とか聞き出すことに成功します。

ナナシノゴンベエさん、とても珍しい名前ですね。

漢字はどんな風に書くのでしょうか?

後で調べてみるのも面白いかもしれません。


 ……ナナシノさんにあって、名前を聞いて何かが変わったような気がします。

そう、それはまるでナナシノさんとの関わりがこれからも続く予感、なんて。

もし聞けなかったら二度と会うことはなかった気がするんです。


 ちょっと乙女チックなことを言ってしまいましたね。

リカちゃんから借りた少女漫画の影響かもしれません。

ナナシノさんが見えなくなったあたりで、帰ることにしました。


 何とかスムーズに家に帰れました。

家に入るとお母さんが既に夕飯を作ったくれていたようで、玄関からもいい匂いがしています。

お父さんも私に続いて帰ってきたので、3人で夕飯を食べました。

その際、お母さんが

「何かいいことがあったの? いつも能天気にのほほんとしているけど、3割増しになっているわよ」

と言ってきました。

……頬が緩んでいたんですかね? 少々恥ずかしいですね……って誰が能天気でのほほんとしているんですか⁉︎ 酷い母親です。

でもこうやって笑いのある食卓を囲めるのはいいことだと思います。





 その後、お風呂に入ってそろそろ寝ようとして今日を振り返り、恥ずかしくてベッドで悶えてしまいました。

中々やべー奴でした、私。

ナナシノさんのことをやばいだなんて到底言えません。

いや、それでもナナシノさんと知り合えて良かった気がします。 というかそう思わないと今すぐにでも消えてしまいそうです。

はい、というわけで考えるのはもう終わり!

強引に考えるのをやめて寝ることにします。

明日からも楽しい思い出が増えていけばいいな、と思いながら眠りに落ちていきました。



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〜後書き〜

結局ヒロインの名前が出てきませんでした。

主人公たちが入学するまでお待ちください。




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