第3話
3月26日 PM:1時
どうも、昨日「俺自身を高めなきゃ(キリッ)」
ってイキった男、藤堂広嗣です!
ただいまの時刻は……午後1時!
や〜よく寝たわ〜
……違う! あんなイキっといて寝過ごしちまったよ! 末代までの恥だわ、これ……
起きて時刻を見たらすごい寝過ごしていたのでつまらない1人ボケツッコミをしてみる。
あーあやっちまったよと頭をガジガジ掻きながら何となくリビングへと向かった。
リビングに入ると母が回覧板を見ていた。
「あ、広嗣やっと起きたのね。……丁度いいか、ちょっとした運動がてらこれをお隣さんのポストに入れてきて。家出て左に真っ直ぐ行けば着くから」
母が俺を見るや否や頼み事をしてきた。
だが断る! なんて口が裂けても言えないので了解、とだけ答えて、外出するための準備を始める。
着替えは……今日も家に引きこもって勉強なり筋トレなりしようと思ってるから適当でいっか。
しかし回覧板ね……正直言って少しでも周辺の情報が欲しいので、届けがてら俺も回覧板を見てみることにした。
えーと何何……地元の小学校がどうだとか、どこどこにこんな店ができました、みたいな事しか書いてないか。
うーん使える情報はなさそうである。
あまり有益な事は書いていなかったが何か面白いことがないかな、と思いながら紙をめくっているとある体験教室が目に入った。
『テニス体験教室』
・テニスに興味がある方大募集!
・用具はこちらが用意するので持ってなくても大丈夫!
・費用:無料
・場所:キツツキ総合公園
・軟式テニスをするので動ける格好で来てください!
・日時:3月28日〜4月5日
「これだ!」
思わずニヤニヤしながら叫んでしまう。ついでに忘れないように写真を撮る。
向かい側を歩いていた人たちがギョッとしてこちらに顔を向けてくる。
驚かせてすみませんと平謝りしながらお隣さんのところへ回覧板を届けた。
……今更だけど「お隣さん」っていうには結構遠くね?
家に帰ってリビングに寄り、母に回覧板を届けたことを伝える。
「あーありがとね。あそこの家ってお隣さんっていうには遠いからさー、歩いて行くの面倒なの。助かったわ〜」
ええ……とは思うが、なんだかんだで目が覚めたし、嬉しい情報を知れたので何とも言えない気持ちになる。
そんな俺を見て、
「そうだ、お昼作ったげる。広嗣だけ起きるの遅かったからまだ食べてないでしょ? お礼も兼ねてっていう感じで」
と母が提案してくれた。
確かにお腹も減っているので素直に案に乗っかることにする。
ちなみにメニューはカップ麺。……これは作るに入らないのではないのだろうか。
カップ麺を食べ終わったので部屋に戻り、先程撮った写真を見直し、ニヤつく。
何故俺が喜んでいるのか? それは前世によるものだ。
前世の俺は中学でテニスをやっていた。
腕前はそこそこだったが、ボールをやり取りすることが好きだったのだ。
まるでロボットのように固いフォームだ、だとかあまりにボールを人に当てすぎてイジられたのはいい思い出である。
加えて、何かしらの運動をやりたいと思っていた。
久しぶりにテニスができると思うと嬉しくなってくる。
この世界に来てあまりいい事がなかったが、希望の光が見えた気がした。
ふと時計を見ると現在の時刻は2時と少し。
勉強は未だ数学が尾を引いているのかやる気が出ない。
かといってテニスの用品をデパートに買いに行こうにも、 中々に遠くて気軽には行けない。
ゆっくりと選びたいし。
そんなこんなでうだうだと悩み続ける……が、決まらない。
何かいい手がないかなと思い、ゴロゴロしながらネットサーフィンをしていると、ゲームの知識が思い浮かんできた。
そう、『占いの館』というお助けシステムである。
ー『占いの館』ー
ゲームをしているとイベントもなく、かといってずっと同じ所でパラメータを鍛えるのもちょっと……そう感じる時がある。そんな時使うのがこれだ。俺もよくお世話になった。しかも、指定された所に行ってもしそこがパラメータを上げられる所ならば、上昇量が2倍というオマケ付き。
流石にぶっ壊れ性能のせいか作中では一ヶ月に1回しか使えないという制限があった。
というわけで早速検索をかけてみる。
……あるかどうか不安だったが、どうやら存在するらしい。
関心しながらいくつかの要項に答えてゆく。
目的、現在地、もし行くなら近いほうがいいか遠い方がいいか……等、普通だったら絶対答えなそうなことまで入力する。
一応個人情報は守られている……はずだ。
入力が完了して少しするといくつかの候補地が出てくる。
俺が特に何も考えず、1番上にあった場所を押すと、『ウグイス公園』という場所が表示された。
何何……走って行くとさらによし、とな?
ウグイス公園へは遠からず近からずといった立地だったので、体力作りも兼ねてウグイス公園へ行くことにした。
引きこもりの装備を脱ぎ捨てて動きやすい服に着替え外に出ると、走るのに丁度良さそうな天候だった。
軽く体をほぐし、走る準備が整ったので走り出す。
「ハッ ハッ ハッ……」
日中家にいないで出歩いていたおかげか体力がそれなりにはあり、走るのがあまり苦にならない。
走るのは嫌いだったが体力のある奴はこんな風に走れて楽しかったんだろうなぁ、なんて思いながら走り続ける。
しばらくするとウグイス公園の入り口が見えてきた。
「ハァハァ……」
不審者さながらに息を整える。
時間を見てみると3時過ぎで、まぁまあ走ったかな、という感じ。
公園を見渡してみると自販機があり、何か買うことにした。
お……ポッカリスウェットがある。やっぱ運動の後はこれっしょ。
「心に穴が空いたような、虚しい気持ち。」
という何やら危なげなキャッチフレーズだが味は確かなのだ。
一気飲みするとスポーツ飲料特有の甘い味と、心を蝕むような虚しさが押し寄せてきた。
空になったペットボトルを捨て、息も整ったということでベンチに座ってボッーとしてみる。
何となくこの先について考えていた。
入学後はどんな行動を取ればいいか、どうすればこの体で幸せを掴めるのか……ヒロインや主人公に関わらず、平穏に暮らしていけばいいはずで、既にヒロインをスルーしたから大丈夫なのではないかと思うのに、どうも落ち着かない。
いつか主人公と対峙する……そんな予感がするのだ。
そう考えているうちに眠くなってくる。
帰らなきゃ……そう思っても睡魔への抵抗は長くは続かず、ついに眠りに落ちていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます