第2話

 〈悲報〉 俺氏傘を持ってきていない

おいおいコイツ傘持ってきてなかったんだけど。

勇み足で外出て家帰ろうとして気付いた。

しょうがないからビニール傘買って帰ろうとして財布を見てみようと思うんだが……おうふ、コイツの所持金じゃビニール傘すら買えない。確かに前世でビニール傘何か高くね? とは思ってたけどさ、それも買えんし……。

ていうかよくこの所持金でヒロインをお茶に誘ったな、マジでお茶しか飲めん。 

ということで、本当に不本意だが歩いて帰ることにした。




 さてさてやってきましたマイホーム。

記憶が甦った(?)おかげか、ずっと暮らしていた家なのに新鮮さがある。

「ただいまー」

玄関で言っても返事はない。

藤堂の記憶では、家族構成は父・母・姉・妹がいるようである。

現在藤堂は親元で暮らしており、父は働きに行って母はパート、姉は遠くの大学に行っていて一人暮らし、妹は家にいるようだ。

「色々整理する前にシャワー浴びるか」


 シャワーを浴び終えて自分の部屋に戻る。

部屋はそれなりに片付いていてはいた。

状況の整理の為に手頃なノートを開いて、今わかっていることを書き出す。一応わかっていることとして、

・クラ恋の世界に転生して不良になったこと

・名前、家族構成 

・通うことになっている学校

ぐらいだろうか。

通うことになっている学校は何と主人公と同じ『カナリア学園』だった。

また、家族に関しては藤堂の記憶を探ると関係性が中々に複雑らしかった。


 藤堂広嗣、この男を記憶を見た上で述べるならば、「ハイスペック家族に生まれた劣等生」というところだろうか。

父や母は有名大学出身で、姉もまた優秀。妹も有名な中高一貫校に通っている。

そんな中で藤堂は唯一馬鹿。

カナリア学園は決して頭の良い学校ではなく、偏差値もそこまで高くはない。

そんな学校にギリギリの成績で合格。

容姿もそうだ。藤堂以外は皆美形。対する藤堂は悪人面。 

そのせいだろうか、藤堂は家族に密かにコンプレックスを抱いていたようだ。

父や母は何も上手くできない自分にも、他の姉妹と同様に優しく接してくれる。

何ら不満はないはずなのに、藤堂にとっては余計に惨めになるだけだった。

姉や妹は自分を見下しており、話すことすらない。

そんなこんなで、以前の藤堂はえらく卑屈な人間だったようである。

ヒロインのナンパだってカケラ程の勇気を振り絞って実行したようだ。……そりゃ主人公に強く出られたら逃げ出すわけだ。


 さて、その藤堂に成り変わってしまった俺であるがどうすればいいのだろうか。

平生神を信じていない俺であるが、こればっかりは何かが俺にさせようとしているのでは、と疑ってしまう。

結局のところどうしようもないのであるが。

その後少しの時間考えて何をするのか決めかねたので、とりあえず自分磨きみることにした。


 家で出来ること、といえば筋トレや勉強当たりだろうということで早速勉強に取り掛かることにした。

入学してすぐにテストがあるので、何とかマシな成績を取れるようにしたい。というわけで……おっ、近くに数学の問題集が転がってる。まぁ、これでも前世では県内トップ校通ってたし? 中学生の問題なんてチョチョイのチョイっしょ! 

……そう思った俺は地獄をみることになる。



「え、わかんねぇ……」

やばい、藤堂を馬鹿にできないくらいに俺も酷かったわ。

ここで数学を捨ててたツケを払わされるとは思わなかった……あっ、連立方程式間違えた。しかも値が1違うとかいう1番イラっとくるやつ。

えーと何何、ここの計算が……

数学に悪戦苦闘し続けた。


 「広嗣ー! 夕飯の時間よー!」

母の夕飯を告げる声で一気に現実に引き戻される。

一応問題集の半分くらいは終わったな。

久しぶりに数学を真面目にやって頭が少し痛い。

頭をグリグリしながらリビングへと向かった。


 リビングに向かうと……わぁ、家族皆姉以外全員勢揃いだぁ! 

正直言って成り変わって藤堂の記憶を見た俺にとって中々気まずいものだったし、異変に気づかれるかもしれないという恐れがあった。

「珍しいわねー、広嗣が家にいるなんて」

母が話しかけてくる。

確かに夕飯まで外で時間を潰していた(家にいたくないということは知る由もないだろうが)息子が家にいたら珍しく思うだろう。

「少し勉強をしていてね」

そう答えると母は驚きのあまりか箸を落とし、父はアングリ口を開けてイケメンフェイスが台無し、妹ですら一瞬動きが止まった。

どんだけ勉強嫌いだと思われてたんだコイツ。まぁどんなに勉強してたって優秀な奴らに追いつけず、腐っていたようだが。

「どうしたんだい?広嗣が勉強してるなんて……。僕は嬉しいよ」

父が涙を流している。一々大袈裟だな、藤堂の両親は。

「春休み明けにテストがあるだろうからさ、少しはいい成績取りたいだろ?」

次いでそう答えてみると母は明日は赤飯ね、広嗣を応援するわ、などとのたまい出す。

どうやら心の底から嬉しいようだ。

……前世で親孝行できずに死んでしまった身としては、親孝行をしているようでどことなく嬉しく感じた。


 夕食が終わると皆が皆各々の時間を過ごし出した。

父は書斎に行って読書をしているようだし、母と妹はリビングでテレビを見ながらヨガをやっていたり、という感じ。

ちなみに当の藤堂は相変わらず部屋にヒッキーしていたようだ。

俺も何かするアテはないので数学の問題集の残り半分を終わらせることにした。

……うへぇ、図形かよ……。


     〜またもや苦戦中〜


 やっと終わった……。もうしばらくは図形や数字なんて見たくもない。

視界に入っただけで一瞬思考が止まるレベルだ、なんてくだらない考えがどんどん思い浮かんでくる。

今日は疲れたしさっさと風呂に入って寝よ……


 風呂に向かうと妹にバッタリと遭遇してしまった。

流石美形なだけあって、前世でいう湯煙美人ってこんな感じなのかなぁ、なんて思っていると妹に珍しく話しかけられる。

「……いきなり勉強なんてどういうつもりなの? パパとママの好感度稼ぎでもしたいわけ? ……キモッ」

違ったわ、どうやら一人言だったようだ。

普段の藤堂ならクリーンヒットしたろうが、今は俺が成り変わっている。

無視をして風呂に入ることにした。

全く嫌な気分にさせられたもんだ、と思いながら湯船に浸かる。

風呂自体は嫌な気分が吹き飛ぶ程気持ちよかった。


部屋に戻って改めて家族について考えてみることにした。

これからの接し方を考えねばならない。

父……優しいんだろうなぁ、という感じ。藤堂があまり勉強に取り組んでいなかったことを心配していたようだ。

次いでに我が家は女性が強いので、同性として藤堂の味方であったようだ。

藤堂も実際彼を好いていた。

接し方は今まで通りに「話しかけられたら対応する」というスタンスで大丈夫だろう。

急に勉強し始めたことに関しては高校生になるんだから、という方便でゴリ押そう。


母……彼女もまた優しいが、少々過保護気味。

藤堂はそれを少し嫌がっていたようだが、それでも母のことが好きだったようでもある。

見た目以外は前世の母に似ている。

……特に身長が150満たないところとか。

母にはどんな風に取り繕ってもバレるだろう、という予感しかしない。

一応こちらも高校生になったんだから……と答えておこうとは思うが、ホントにどうしよう。


姉妹……藤堂の記憶を見てもあんまりいい印象がない。というかあんまり思い出したくもないようだ。

そりゃそうだよなぁ、無視されてたまに話しかけられたても毒を吐かれるだけだし。

腐ってた藤堂も確かに悪いが、これは中々酷いのではないかと思った。

正直言って彼女たちが藤堂(俺)のことが嫌いなように、俺も彼女たちが嫌いだ。

まぁこの2人は余程のことがなければノータッチでいいと思う。


 こんなところだろうか?みんな美形でハイスペックで側から見たら羨ましい家庭だが、その中の劣等生の立場からすればたまったもんじゃない。

俺もまた自分を高めてゆくしかないな、そう思って眠りについた。











 







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