ヒロインに絡む不良になったけどヒロインスルーして帰たったw

田中太郎兵衛

第1話

3月25日 春 天候:雨 〜アカツキデパート〜


「なぁお嬢さん、俺とお茶s…… やっぱ何でもない、帰るわ! 邪魔したな〜」

「え……?」

「……は?」


俺はダッシュで女の子目の前から去っていった。ついでに俺を止めようと、今か今かとタイミングを見計らっていたした男を置き去りにして。


 拝啓 母上及び父上殿

 最近調子はいかがでしょうか。俺はやりこんでいた恋愛ゲームに転生したようです。ヒロインにナンパした瞬間に気がつきました。人生オワタ\(^○^)/ もう一生引きこもっていたいです。お体に気をつけてください。 敬具


  突然だが俺はやりこんでいた恋愛ゲームの世界に転生(成り変わり?)してしまったらしい。

……主人公でも何でもない、重要キャラでもない微妙な役割、つまり「ヒロインに絡む不良」の男に。


 『クラリスの恋』、略してクラ恋。

これが俺が前世でやりこんでいたゲームの名前だ。

内容に関して一言で言ってしまえば、親の仕事の都合で高校生になる前の春休みに転校してきた主人公が引っ越してきた土地を舞台に恋愛をする、というストーリーだ。

まぁあるあるな内容だな。期間は高1〜高3までの約3年間がプレイでき、1周の時間は中々かかる。


 ヒロインの数はあんまし覚えていない。

何故なら攻略ルートは色々あったのだが、俺がクラ恋においてハマった要素はそこではなかったからだ。

俺がハマったのは自分磨きだった。クラ恋は誰と付き合おうにしても、人間パラメータを成長させなければならないのだが、そのパラメータを鍛えることに俺は喜びを見出していたのだ。人間パラメータというのは「学力」・「魅力」・「筋力(運動神経)」・「包容力」・「胆力」・「器用さ」の6つのことである。上限は200で、上昇していくにつれて上がりにくくなっていいく。

ちなみに運動神経は先天性で頑張ってもどうにもならないっていうツッコミは受け付けていない。


 話を戻して何故面白いかというと、なんと街を散策していてもパラメータが一定の値に達していないとできないクエストや、入れない場所があったりするのである。

他にも、コンビニバイトでクレーム対応する際に胆力のパラメータが足りなければクレームを押し通されて店長からの評価が下がり、それに連動してどこから聞きつけたのかは知らないがヒロインからの評価も下がる。(現実とリンクしているようで面白いと俺は思っていた)

他にもミニゲームでパラメータを上げることができたりして楽しかった。


 パラメータを鍛えない=ゲーム進行不可とまではいかないが、ヒロインの攻略はしにくくなる。

一応救済措置として、ヒロイン攻略の必要パラメータはそこまで高くはない(どんなに遅くても三年の中盤で行ける)。

大体必要なパラメータが120あれば事足りる、というか複数のヒロインを攻略する場合、そっちに時間を取られてパラメータを鍛えることが難しくなる。

しかし、プレイヤーの中にはヒロインそっちのけてパラメータオールMAXを目指す奴らがいたのだ。俺もその1人であった。


 今現在混乱しながらデパート疾走中。

そんな頭で辛うじてわかるのは、自分がクラ恋の世界にいることとこのデパートがどんな構造かくらいなもので、行き先に見当もつけずただ走っていた。

子連れの親御さんが嫌そうな顔をしている。

本当すみません、でも走らずにはいられないんです。


話を最初に戻すと、俺はヒロインに絡む不良の男になった。

ヒロインはあまり覚えていないといったが、主人公に止められるとすぐ撤退していった男だったので何故か思い出せた。

名前は 藤堂広嗣(とうどうひろつぐ)。身長はまあまあ、顔は悪人面。前世で身長が高くなかった俺にとって嬉しい話だった。


  

「雨の降る日にデパートでヒロインをしつこくナンパする」 これが主人公とヒロインが出会うトリガーだった。もう手遅れだけど。

こういう系の転生ってさ、小さい頃とかに気付くじゃん普通。

どうやら俺には適応されなかったらしい。前世はそんな悪いことしましたかねぇ? ……あ親より先に死んだ親不孝者だったわ、最低なクズですね。対戦ありがとうございました。


 それにしたってどうすればいいんだ。

あまりにテンパってヒロイン及び主人公置き去りにしちまったぞおい。主人公が絡めないやんけ。

正直いって主人公とヒロインの恋路になんざ興味がないが、ヒロインの悩みは主人公がいなければ解決しないかも知れない。ヒロインがずっとトラウマ抱えたまま生きていくのかと思うと後味が悪い。


 もう一回話しかけに行くか? いやいやいや、俺の心が死んでしまう。

だからと言って放っておくか? 

それもまた……そう考えているうちにデパートの出入り口に着いてしまった。

流石に人の流れがあるところで熟考するわけにはいかず、すぐに決断する事にした。


 ……よし、女の子に話しかけて疲れたし、雨が降っててなんかアレだから帰ろう!




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