第1話 「暖をとることができるから」
突然だが俺の彼女について話さしてもらう。
彼女の名前は司。
身長170センチでイケメンのいわゆるイケ女と言うものだ。
スカートから出る透明感のある肌を輝かせ、短く切った髪は光沢が溢れ出てくる。
その姿から男女問わず人気でよく部活動への助っ人にも行っている。
そんな人がどうして俺の彼女になったのかは———
「なーにぼーっとしてるんだよ」
「いてっ!」
司の方を見ていた俺の前に誰かが座る。
痛みを感じたおでこをさすりながらそいつを見る。
「その様子だとまた朝までゲームでもやってたのかよ」
呆れたように話しかけてきたのは俺の友達である熊谷卓也(くまがいたくや)。
男子の中ではトップクラスの美貌を持つ幼馴染である。
「ちげーよ。あれだよ、あれ」
「あー愛しの司ちゃんね」
卓也は俺が指差した方向に顔を向けながら揶揄ったように言ってのける。
「で、司ちゃんが他の男子と話してるから嫉妬してるってこと?」
持っていた缶ジュースを開けながら卓也は適当なことを言う。
「ちげーよ。ちょっと眺めてただけだ」
「またまた〜素直じゃないんだから」
俺の頭を撫でる卓也を睨みつける。
その後もしばらく雑談をしていると話が終わったのか司がこっちに来る。
「やっほ、卓也君。夢恋君もわたしがいなくて寂しかった?」
嬉しげな表情で俺の顔を覗いてくる司。
「こいつ、さっきまで司ちゃんが他の男子と話してるからヤキモチ焼いちゃって大変だったんだよ?」
「おい!変なこというな!」
俺らのやりとりに司が面白いおかしく笑っている。
「可愛いなー夢恋君は」
「へっ?」
司は椅子に座っていた俺を持ち上げて、俺がもといた椅子に座る。
「なんで俺が膝の上なんだよ!」
「えー?だってわたしも座りたいし〜。夢恋君は軽いから大丈夫だよ」
耳元で囁かれ顔が赤くなる。
「照れてるところも可愛いよ」
「う、うるさい…」
ほぼゼロ距離にイケメン顔があれば誰だってドキドキするもんだろ。
「やっぱり、司ちゃんがいると紅麗亜が大人しくて助かるよ」
「はぁ!?」
「こーら、暴れないの」
司の膝の上で暴れるもすぐに止められる。
「頭を撫でるなって!頭を!」
「よく鳴く猫ちゃんですにゃ〜」
その後も俺は司と卓也に遊ばれる時を過ごしたのだった。
「はぁ……」
職員室の扉を閉じて屋上を目指す。
司と放課後に屋上で待ち合わせと約束をしているのだ。
「だからプリント提出してって言ったじゃないですか」
後ろからよく知っている声が聞こえる。
「委員長か」
確かに昨日、委員長に言われた気がした。
まさか職員室に呼ばれるとは夢にも思っていなかったが……。
「これから帰りですか?」
「いや、司と屋上で過ごすつもり」
名良さんはなるほどといった感じで足を止める。
「なら、お邪魔しないように帰りますね。プリントやっておかないとダメですよ?」
ふふっと微笑んで委員長は下駄箱がある方へ歩いて行ってしまう。
「さて、いくか」
少し歩くスピードを早くして階段を上がっていく。
うちの学校は四階建てで、職員室は二階にある。
「体力つけといた方がいいかもな…」
普段ゲームしかしていないしせいか額に汗が滲んでくる。
「やっと、着いた……」
扉の前で呼吸を整える。
「もうついてるかな」
扉を開けてみると室内に風が入り込んで少し寒い。
「冬に屋上は流石にきついかもな」
辺りを見渡すと司が手をこすりながらベンチに座っていた。
「お、遅かったね」
「先生の説教が長くてさ」
特に意味はないけど委員長に会ったのは内緒にしておく。
「ほら、ブランケット。いるだろ?」
昨日と同じブランケットを司の膝なら上にかけてやる。
「ありがと。夢恋君は寒くないの?」
微笑みながら司が気にかけてくれる。
「パーカーもあるし寒くないよ。制服だって長袖に長ズボンだし」
こういう時、男子の制服が役に立つ。
暑い夏の時は最悪だけど…。
「それで?こんな寒い時期になんで屋上デートがしたいなんて思ったの?」
いつもならどこかの空き教室かゲームセンターなのに。
「んー特に理由はないかな。あるとしたら…」
「!?」
司が俺のことを抱き寄せる。
「こうして暖をとることができるからかな」
腕に柔らかいものが当たり意識がそっちに向く。
対する司は気にする様子もなく俺の頭を撫でたりしている。
「……あったかいな」
「でしょ?」
俺が呟いた言葉に嬉しそうに反応する司。
その顔はみんなに見せるようなイケメンの顔じゃない。
一人の少女が俺だけに見せる無邪気で魅力的な一面だった。
「……帰りに本屋さんでも寄らない?」
「いいね。行こっか」
そう話しながらお互いに話そうとしない。
あとちょっと、このままでいよう。
ヒロイン男子はイケメン彼女に打つ手なし!? クラウン メアリー @Takeru339
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